第1章 川鵜中隊(2)
「白陸軍!?」
酒場にダジルの声が響き渡り、あたりは少しシンとした。
「さい(ちきしょう)、でけぇ声出すんでねえ」
シムナが軽くダジルの頭をこづくと、ダジルはエールの泡を飛ばしながら言い返す。
「おめえこそ、ほんじねこと(馬鹿なこと)言うでねえ」
白陸軍という剣呑な単語に一瞬静まった酒場の中は、ゆっくりと元の喧騒を取り戻している。
エルフの大国であるヴェナヤ国で”何らかの”政治的な出来事が発生して以来、ヴェナヤ国はそれまでの封建的な外交姿勢を大きく変えていた。
彼らは自分たちを「ネオボストリット」と呼び、”エルフたちが真の平等な世界を作る”ために”エルフ以外の種族を主とする国への侵略行為を繰り返していた。
隣接するシムナたちの国、スオミはここ10年というもの、常にその脅威に脅かされていた。
スオミ国軍である白陸軍はそれに対応するため多大な人員募集をしていたのだった。
「死ぬかもしれねぞ」
ダジルはそう言って太いまゆを歪め大きな鳶色の瞳に涙を浮かべた。
「んだな」
シムナは何故かバツが悪くなってしまいエールをあおった。
「んでも、俺ぁこの村さ戦争なるのはいやだ」
その黒い瞳は、乾いている。
ダジルはぐすぐすと鼻を啜った。わかっているのだ。シムナがこういう目をしている時はもう心は決まっている。
「おめぇ、泣ぐんでねえ」
「おめぇのが年下でねえか」
シムナが笑うと、ダジルは目をゴシゴシを擦り、顔をあげた。
「決めだ」
シムナは眉を少しあげた。ダジルがこう言い出した時は大抵ロクでもない話なのだ。
「おらも白陸軍さ入る!」
ダジルは大きな声を張り上げ立ち上がった。また周りが一斉にシムナたちを見る。
シムナはまたダジルを小突き慌てて椅子に引き戻そうとした。
「おめぇ、何言ってんだ。軍だぞ、ギルドと訳さ違えんだぞ?」
「おら決めたんだ、第一おめぇの銃さ扱えるのはおらだけだ」
シムナは深々とため息をついた。
シムナが生まれた時、ダジルは16歳だった。ドワーフの16歳はヒューマンでいうところの6〜8歳に相当する。
たまたまダジルの家とシムナの家は隣であったため、何かにつけてダジルはシムナの面倒を見ていた。
しかしそれもシムナが12歳ごろまでの話だ。種族間の成長速度はハーフリングの方が早く、いつしかダジルがいたずらしたことをシムナが謝りにいくのが日常風景となった。
逆にシムナの毎日の射撃練習を見守り、その銃の手入れをするのはダジルの役目であった。
そんな二人が揃って軍に志願するのは、当然といえば当然だったのだろう。
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