第1章 川鵜中隊(3)

「志願兵諸君、前へ!」

号令が掛かるとずらりと並んだ兵たちは軍靴を一斉に鳴らして一歩前進した。

その3割ほどはドワーフ、もう3割はヒューマン。残りは雑多な種族である。

スオミの土地は長い冬と長い夏が交互に来る土地だ。鉱物資源は多いが魔石は少なく、農業と鍛冶によって慎ましい暮らしを送る土地柄である。

このため軍隊に志願するのは比較的血の気の多い若い男のドワーフか、職を得るために志願するヒューマンが多い。


「ヒューマン、ドワーフ、ヒューマン、ドワーフ、ドワーフ、ハーフエルフ…」

志願兵たちの前で手元の書類と志願兵の顔を見比べながら、銀髪で褐色の肌のエルフが歩いていた。

ダジルはその銀色の髪がたなびくのを美術品か何かのように眺めていた。

歩いている男はいわゆる一般的なダークエルフであったが、通常ダークエルフは南方に住うことが多い。

スオミの中でもダークエルフは少なく、首都にほんの少しいるくらいである。

そんな珍しいダークエルフの軍人がこんな辺境の士官学校にわざわざ人員を求めてやってくるのはなかなか稀なことで、ダジルが物珍しげに見とれるのも無理はなかった。

ダークエルフのぺらぺらと紙をめくっていたその手が止まった。

「おい」

幼さの残るハーフリングを見据える。

その低い身長は、ダークエルフの腰よりも低い。

「この1分に16発って何や?」

シムナの顔をまるで何かの罪人のようにじろりと睨むダークエルフに、シムナはどうするかな、と考えていた。

「お前、1分に6発ちゃうんか?」

ハーフリングは困ったような顔のままである。

ラチが開かず、ダークエルフは後ろの士官長を振り返る。

士官長はやはり困ったような顔でコクコクとうなずいた。

ダークエルフは一瞬呆気にとられた顔をし、そして大きな声を上げて笑った。

「よっしゃ、ほなお前は俺んとこ来い」

シムナの困った顔をよそに、そのダークエルフはシムナの手をとってがはがはと笑う。

「俺はアールネ・ユーティライネン。今日からお前の上官や」

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