第27話

 食事を始めてから、三十分後。


「ゆづるしゃん……すきです……」


 愛理沙はすっかり、酔っぱらっていた。

 和食に合わせて飲んだ、日本酒が原因である。


「俺も好きだよ、愛理沙」


 裸にエプロンだけを身に纏った状態で、しな垂れかかる新妻に由弦はそう答えた。

 しかし愛理沙は不満そうに頬を膨らませる。


「本当ですかぁ?」


 駄々を捏ねる幼子のような口調で愛理沙は疑いの言葉を口にする。

 もちろん、疑っているわけではないだろう。

 単に由弦を困らせたいだけ、構って欲しいだけだ。

 

「俺が愛理沙のこと、好きじゃないわけないじゃないか」


 由弦が苦笑しながらそう答えると、愛理沙は由弦の胸元を掴んだ。

 そしてグイグイと引っ張る。


「でも、最近、全然シてくれなかったじゃないですかぁ!」

「ごめん、ごめん。悪かった」


 ポカポカと自分の胸板を叩く愛理沙に由弦は苦笑しながら謝った。

 実際、シていなかったのは本当だ。

 疲れていて、早く寝たかったから、敢えて愛理沙を誘うことはしなかった。


 申し訳ないとは感じている。


「でも、愛理沙の方も誘ってくれなかっただろ?」

 

 由弦は敢えて愛理沙にそう問いかけた。

 由弦は愛理沙から誘われれば答えるつもりでいた。 

 しかし愛理沙から誘われることはなかった。


 もちろん、由弦も愛理沙の真意は分かっている。

 疲れている由弦に気を遣ってくれていたのだと。


 あえて愛理沙を責めたのは、ちょっとした意趣返しだ。


「俺のこと、好きじゃなくなっちゃったのかと思ってたよ」

「そんなことないです!」


 愛理沙は叫ぶように言うと、由弦の唇に自分の唇を押し当てた。

 愛を証明すると言わんばかりの、深いキスだった。


「大好きです」

「俺も好きだよ、愛理沙」

「じゃあ、証明してください」


 愛理沙はそう言って唇を突き出した。

 由弦はそんな愛理沙の顎を掴み、唇を押し当てた。

 先ほどの愛理沙と同じ、いやそれ以上の愛を証明してみせる。


「愛理沙。そろそろデザート、いいよね?」


 由弦は愛理沙の肌を撫でながらそう尋ねた。

 愛理沙は小さく首を左右に振った。


「お風呂が先です」


 そこは酔っぱらっていたとしても、譲れない一線のようだった。


「じゃあ、お風呂でデザートは?」

「……いいですよ」


 愛理沙はコクっと小さく頷いた。

 了承を得た由弦は愛理沙をお姫様抱っこで抱き上げる。


 愛理沙は抵抗する様子を見せず、ギュッと由弦の服を掴んだ。


「洗いっこ、しましょう」

「もちろん、そのつもりだよ」


 こうして二人は風呂場で。

 そしてその後、ベッドの中で甘い時間を過ごした。





「デザート、美味しかったですか?」


 行為が終わった後。

 愛理沙は由弦の胸板を撫でながらそう尋ねた。


「ああ、最高だったよ」


 由弦はそう言ってから愛理沙の額にキスをする。

 愛理沙は嬉しそうに目を細めた。


「あの、由弦さん」

「どうしたの?」

「いつもお疲れのところ、申し訳ないのですが……」


 愛理沙は僅かに目を伏せた。


「一週間に一度はするって、決めませんか? ……やっぱり、寂しいです」


 甘えるような声で愛理沙はそう言った。

 由弦は少しだけ驚いた。


 愛理沙が明確にシたいと意思表示するのは初めてだ。


「君が求めるなら、毎日だってするよ」


 由弦は強い口調でそう答えた。

 確かに日頃の業務で疲れているのは否定できないが……

 可愛らしい新妻から求められて、燃え上がらないはずがない。


「そ、それは私の方が持たないので……」

「そう? じゃあ、どれくらいがいい?」

「……三日に一度、とか?」


 愛理沙は遠慮がちに由弦にそう提案した。

 

「分かった。じゃあ、三日に一度。三日分、するね」

「べ、別に三日分、する必要はありませんが……由弦さん?」


 愛理沙は戸惑いの表情を浮かべた。

 隣で寝ていたはずの由弦が起き上がったからだ。


「今ので少し、気分が上がった」


 由弦はそう言って愛理沙の上に覆いかぶさった。


「え、えっと……さすがにこれ以上は体力が……」


 そう言って逃れようとする愛理沙の両腕を由弦は掴んだ。

 そして愛理沙の耳元で囁く。


「今夜は寝かさないから」

「あっ……」


 愛理沙の体から力が抜けた。

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