第26話

 十二月二十四日。

 その日、由弦は夕方前には帰ってきた。


「ただいま、愛理沙。約束通り、今日は早く帰ってきたよ!」


 いつになく、嬉しそうな声を上げながら由弦は玄関の扉を開けた。

 しかし愛理沙の出迎えはない。


「お帰りなさい。今、お料理中で。目が離せません」


 代わりに台所からそんな声が聞こえて来た。

 クリスマスイブのための料理を作っているのだろう。


 仄かに懐かしい……醤油っぽい香りがする。


「そうか。着替えてから手伝うよ」


 由弦は大声でそう返してから、自室に戻る。

 窮屈なスーツを脱ぎ、普段着に着替える。


(しかし何の料理だろう? 和食かな?)


 由弦はクリスマスイブ特別メニューに想いを巡らせながら、台所へと向かう。


「愛理沙、手伝うよ。何をすれば……」

 

 由弦が台所に到着すると、そこにはエプロンを来た愛理沙が立っていた。

 エプロン|だけ(・・》を着た愛理沙がそこに立っていた。

 下着も水着も着ていない。

 真っ白い肌に、赤いエプロンだけを身に纏っている。


「あ、愛理沙……!?」


 裸エプロン。

 そんな用語が由弦の脳裏を過った。

 形の良い臀部がエプロンの結び紐と合わせて、踊るように揺れていた。


「由弦さん」


 由弦が驚いて固まっていると、愛理沙はゆっくりと振り返った。

 エプロンを押し上げ、なお食み出てしまうサイズの胸が跳ねるように揺れる。


そんなあられもない姿の愛理沙は、恥ずかしそうにはにかみながら笑みを浮かべた。


「いいところに来ました。火加減、見ていていただけますか?」

「あぁ……うん」


 促されるままに、由弦は鍋の前に立った。

 鍋にはアルミホイルで落とし蓋がされていて、グツグツと何かが煮込まれていた。


「これ、何の料理?」

「里芋の煮っ転がしです」


 愛理沙の言葉に由弦は心が躍るのを感じた。

 里芋の煮っ転がしなど、ここ数年食べていない。

 

「ちなみに……他の料理は?」

「豚汁と焼き魚を作ろうと思っています。あとは炊き込みご飯ですね」

「いいね」


 クリスマスっぽさはない。

 しかし久しぶりの和食だ。

 出来上がるのが楽しみだ。


「ところで……その、愛理沙」

「何ですか?」


 由弦は炊き込みご飯の準備をしている新妻へと視線を向けた。

 先ほどからずっと、愛理沙はエプロンだけを見に纏って料理を続けている。


 手を動かすたびにその大きな胸が――高校生の時よりも大きくなっている――揺れる。

 時折、エプロンと肌の隙間から大切なところが見え隠れする。


 ジロジロと見る物ではないと思いつつも、どうしても誘惑に抗えず見てしまう。


「えっと、その恰好は?」


 ずっと気になっていたことを尋ねる。

 何しろ裸エプロンだ。

 長い同居生活でも、そう何度も見たことはない。


「由弦さん、好きでしょう?」


 愛理沙はそう言いながらエプロンの肩紐に指を掛け、引っ張った。

 チラっと胸の際どいところが見える。

 由弦は慌てて目を逸らした。


「そ、それは否定しないけど……」

「なら、いいでしょ?」


 愛理沙はそう言うと、手に土鍋を持ったまま由弦の方に進み出た。

 由弦は思わず後退りする。

 愛理沙はそんな由弦には目もくれず、コンロに土鍋をセットし、火をつけた。


「お魚の準備をするので。こっちも見張っておいていただけますか?」

「あ、あぁ」


 由弦は頷いた。

 愛理沙の指示通り、火の番をしながら……時折、愛理沙の方へと視線を向ける。

 横からだと、愛理沙が動くたびに大切な部分が見えそうになる。

 それが気になって仕方がない。


 愛理沙もそんな由弦の視線に気づいてか、調理の合間に由弦の方へと流し目を送る。

 そのたびに由弦はドキドキしてしまった。


「お魚の方はもう良さそうですね。里芋はどうですか?」


 グリルを覗き込みながら、愛理沙は由弦に尋ねた。

 由弦は鍋が焦げ付かないように、へらで里芋を転がしている最中だった。


「丁度、汁気がなくなってきたよ」


 由弦がそう答えると、愛理沙は鍋の中を覗き込んだ。

 由弦はそっと場所を譲る。


「見せてください。……良さそうですね」


 そう言ってコンロの火を止めた。

 菜箸で里芋を摘まみ、由弦の口元に運んだ。


「由弦さん。あーん」

「あ、あーん……」


 由弦は里芋を口に含んだ。

 噛みしめると、口の中に優しい味が広がる。


「どうですか?」

「美味しい」

「じゃあ、完成ですね。炊き込みご飯も……うん、良さそうです。配膳しましょう」


 愛理沙はそう言うと、由弦に背を向けた。

 真っ白い背中と、形の良いお尻が由弦の視界に映る。


「愛理沙」

「え? きゃっ!」


 気が付くと、由弦は愛理沙を後ろから抱きしめていた。

 愛理沙は小さく悲鳴を上げ、後ろを振り向いた。

 由弦はそんな彼女の顎を掴むと、強引に接吻した。

 由弦は欲望のまま愛理沙の体を弄りながら、口の中に舌を入れ、掻き回す。


「ゆ、由弦さん……い、いきなり、どうしたんですか?」

「こんな格好しておいて、何を今更」


 由弦の指摘に愛理沙は恥ずかしそうに目を伏せた。

 最初から“誘う”目的だったのは明らかだ。


「先にお食事にしましょう。冷めちゃいますよ?」

「……少しだけ、ダメかな? 我慢できそうにない」


 由弦は今にも愛理沙を襲いたい衝動に駆られながら、そう言った。

 ここ最近、愛理沙とはいろいろとできていない。

 それは帰るのが夜遅くで、疲れていたからだ。


 しかしそれは欲求が湧かなかったからではない。

 むしろ解消できず、溜まる一方だった。


「ダメです。デザートは最後でしょう?」

「それはそうだけど……」

「今日はたくさん、良いことしてあげますよ?」


 愛理沙は胸を押し当てながら、由弦の耳元でそう囁いた。

 由弦は思わず、愛理沙をギュッと抱きしめた。

 それから手を緩める。


「分かった」

「我慢できて偉いですね」


 愛理沙はするりと由弦の両腕から抜け出してそう言った。 

 幼子を諭すような物言いに由弦は苦笑した

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