第2話


「では、由弦さん。……乾杯」

「乾杯」


 二人はワイングラスを掲げ、一緒に作った料理を食べ始めた。


「君のビーフシチューはやっぱり、最高だ」

「相変わらず、お世辞がお上手ですね」


 愛理沙は由弦の言葉に嬉しそうに微笑んだ。

 そしてワインを一口、含む。


「ビーフシチューはやっぱりワインが合いますね」

「そうだね。……ところで、愛理沙」

「何でしょうか?」

「飲むペース、少し早くないか?」


 気が付くと愛理沙はワイングラスを空にしていた。

 愛理沙は自分でも気付かなかったようで、驚いた様子で口元に手を当てた。


「あら……」

「……大丈夫か?」

「らいじょうぶです」


 愛理沙は赤らんだ顔で自信満々に頷いた。

 すでに呂律が回っていない。


 愛理沙は酒が弱い。

 その割には飲みたがるのだ。


「ほら、愛理沙。水も飲んで」


 由弦はピッチャーから水をワイングラスへと注いだ。

 しかし愛理沙は不満そうに眉を顰めた。


「お水ばっかり飲んだら、お水でお腹がいっぱいになっちゃうじゃないですか」

「酒でいっぱいになるよりはいいだろう」

「そんなに飲まないですよぉ」


 愛理沙はイヤイヤと首を左右に振った。

 いつになく聞きわけが悪い。

 すでに酔っぱらい始めているようだ。


「どうしても、飲んで欲しいですか?」

「うん、飲んで欲しい」


 酔い方は人それぞれだが、愛理沙はヴァリエーション豊かな酔い方をする。

 どうなるか分からないので、由弦としてはできるだけ変な酔い方をして欲しくなかった。

 介護するのも大変なのだ。


「じゃあ、飲ませてください」

「……分かった」


 由弦は立ち上がると愛理沙の横へと移動した。

 そして水を口に含む。


「んっ」


 そして愛理沙の唇に自分の唇を押し当てた。

 僅かに開いた愛理沙の唇の中に水を流し込む。


「これでいい?」

「はい。……私もお返ししますね」


 愛理沙はそう言うとワインを口に含んだ。

 そして身を乗り出し、由弦のキスをしようとした。


 拒むわけにもいかず――拒む理由もない――、由弦は愛理沙のキスを受け入れる。

 由弦の口の中にほろ苦い赤ワインが流し込まれた。


「どうですか?」

「うん、美味しいよ」


 由弦はそう言って愛理沙の頭を軽く撫でた。

 愛理沙は心地よさそうに目を細める。

 一先ず、満足してくれたようだ。


 その後も二人は飲食を楽しむ。

 そして料理を半分ほど、食べ終えた頃……


「……ちょっと暑くなっちゃいました」


 愛理沙はそんなことを言い出した。

 そしてわざとらしく、手で自分の顔を仰ぐ。


「脱いでもいいですか?」


 愛理沙はそう言いながら、由弦が許可を出すよりも先に服を脱ぎ始めた。

 上半身の服を脱ぎ終え、キャミソールだけになる。


「……下も、脱いじゃいますね」


 そしてスカートも脱ぎ捨て、ショーツだけになった。

 それから由弦の腕に自分の腕を絡ませた。


 わざとらしく、その大きな胸を押し当ててくる。


「脱いだら寒くなっちゃいました」

「だったら着ればいいじゃないか」


 由弦は苦笑しながら言動の矛盾を指摘する。

 酒を飲んだ後の愛理沙は、大体こんな感じになる。

 由弦も慣れた物だったので、特に狼狽はしなかった。


 しかし愛理沙からしたらそれはあまり面白いことではなかったようだ。


「いじわる、しないでください」


 そう言って愛理沙は由弦を上目遣いで見上げた。


 私が何をしたいか、何をして欲しいか。

 言わなくても分かるよね?


 そう目で訴えているように見えた。

 由弦はそんな愛理沙の肩を軽く抱き寄せた。


「あっ……」


 すると愛理沙は嬉しそうに由弦の胸板に自分の頭を寄せた。


「口で言ってもらえないと分からないな」


 由弦はそう言いながら愛理沙の髪を撫でた。

 指が耳に触れると、愛理沙はビクっと体を震わせた。


「デザート、食べたくないですか?」

「食べたいけど、どこにある?」

「……ここです」


 愛理沙はそう言いながら自分の胸を指さした。

 由弦は今にも愛理沙に襲い掛かりたい気持ちになったが、堪える。


「よくわからないな」


 そう言ってとぼけてみせた。

 すると愛理沙は不満そうに唇を尖らせた。


「いじわるです……」

「どうして欲しい?」


 由弦の問いに対し、愛理沙は無言でキスをし、答えた。


「……抱いてください」



________

三月一日に八巻、発売予定です!!


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