第真15話 一話抜けてました。てへぺろ。

本日、12時に16話の話を投稿してしまいました

なので削除してあげ直しました

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「悪い、愛理沙。少し長く入っちゃった」


 着替えを終えた由弦は脱衣所から出た。

 一方、愛理沙はリビングのソファーの上で、なぜか正座していた。


「……愛理沙?」

「……ふぇ、あ、ゆ、由弦さん!?」


 由弦が再び声を掛けると、愛理沙は上擦った声を上げた。

 どういうわけか、顔は紅潮していた。


「な、なんでしょう!?」

「……いや、お風呂から出たから。次は君の番だろう?」

「そ、そうですね!」


 すると愛理沙は大慌てで脱衣所へと向かう。

 由弦はそんな愛理沙の腕を掴み、引き留めた。


「おい、愛理沙」

「は、はい! な、何ですか!?」

「いや、タオルと着替え。忘れてるぞ」


 以前も似たようなことがあったが、幸いにも今回は愛理沙が風呂に入る前に気付くことができた。

 由弦に指摘された愛理沙は、コクコクと頷く。


「そ、そうでした。すみません!」


 愛理沙はいそいそと着替えとタオルの準備をしてから、再び脱衣所へと消えた。

 由弦は思わず首を傾げた。





 さて、およそ四十分後。

 

「……上がりました」


 寝間着で身を包んだ愛理沙が、脱衣所から現れた。

 寝間着はシンプルなシャツパジャマだった。


 その白い肌は血行が良くなったためか、仄かに赤らんでいる。

 ドライヤーでしっかりと乾かされた亜麻色の髪は、サラサラと揺られ、普段よりも輝いているように見えた。


 ちょこん、と愛理沙は由弦の前に座った。

 そしてどういうわけか、少し恥ずかしそうに視線を逸らした。


「これから、どうしようか」

「え? こ、これから!? な、何かするんですか!?」


 何気なく由弦がそう言うと、愛理沙はおどおどとし始め、不自然に視線を泳がせた。

 どうやら、変な意味で捉えられてしまったようだ……由弦は苦笑する。


「いや、何をして遊ぼうかなと……」

「あ、あぁ……そういう意味ですか」

「……それ以外に何か?」

「……別に、ないですよ」


 ツンとした態度で愛理沙は答えた。

 しかしその顔は赤らんでいる。


「せっかくだしテレビゲーム以外をやろうかなと、思うんだけど。どうかな?」

「……そうですね。寝る前にテレビの画面を見るのは良くないと聞きますし。でも、何をするんですか?」


 トランプなどをするなら、せめて三人は欲しいところだ。

 意外と二人でやれるゲームとなると、限られてくる。


「麻雀、チェス、囲碁、将棋はやったことある?」


 由弦が尋ねると、愛理沙は静かに首を横に振った。

 もっとも、これは予想通りだ。


「オセロは?」

「オセロならあります。……良いですよ、オセロ。やりましょう」


 幸いにも愛理沙は乗り気になってくれたようだ。

 早速、オセロのボードを用意して……じゃんけんで先手と後手を決めた。


「あ、そうだ。由弦さん」

「どうした?」

「……真剣勝負ですからね」

「分かってるよ。……俺も勝ちたいしね」


 こうして二人はオセロゲームを始めた。

 最初の一戦目は由弦が勝利し……

 続く二戦目は愛理沙が勝利した。

 

 そして三戦目……


「むむむ……」

「愛理沙、そろそろ……」


 ゲーム盤の前で眉間に皺を寄せて考え込む愛理沙を、由弦は急かした。

 もうすでに五分も考え続けている。


「もうちょっと、もうちょっとです……」


 しかし次の一手が決まらないのか、「もうちょっと」を愛理沙は繰り返した。

 負けず嫌いなのは一長一短だと、由弦は思わずため息をつく。


「考えながら聞いてくれ」

「はい」

「明日の予定だけど、事前に話し合った通り、プールで大丈夫?」


 ゴールデンウィーク中にどこへ遊びに行くのかは、おおよそ決めている。

 その中の一つにプール、つまり愛理沙に泳ぎを教えるという予定があった。

 勿論、室内の温水プールだが。


「はい、大丈夫ですよ」


 愛理沙はそう答えてから、ようやく石をゲーム盤に置いた。

 由弦の石を調子良く引っ繰り返していき……


「あっ……」


 小さな声を上げた。

 そして由弦の顔を上目遣いで見上げる。


「……やり直しはダメですか?」

「ダメ」

「……お願い……ね?」

「……可愛く言ってもダメ」

「由弦さん、素敵です」

「おだててもダメ」

「……ケチ」


 プクっと愛理沙は頬を膨らませた。




 三戦目は由弦の勝利に終わった。

 が、しかし愛理沙はその結果に少し不満があるのか、ご機嫌斜めな様子だ。


「……由弦さんが邪魔をしなければ、私が勝ちました」


 考えている最中に話しかけられたせいで、ミスをした。

 というのが愛理沙の主張だった。


「後からなら何とでも言える」


 一方、勝ちは勝ちというのが由弦の主張だ。


「ふん……じゃあ次は由弦さんの邪魔を、いっぱいしちゃいますからね!」


 冗談めかした態度で、ぷんぷんと怒っていますよとアピールする愛理沙。

 由弦はそんな愛理沙の頬をツンツンと指で突く。


「ちょ、ちょっと……止めてください」

「俺が悪かった。次は邪魔しないから」

「反省している人の態度じゃないです……もう!」


 そして由弦と愛理沙は小さく笑った。

 時計を見ると、既に時刻は十時を過ぎていた。


 高校生にとっては決して遅いとは言えない時刻だが、しかし明日はプールで泳ぐ予定がある。

 

「そろそろ……寝ようか」


 由弦が何気なく言うと、びくりと愛理沙は体を震わせた。

 

「そ、そうですね! ……え、えっと、私は……どこで寝れば良いのでしょうか?」

「布団を用意したけど。……勿論、ベッドが良いなら、俺が布団で寝るよ」

「い、いえ、布団で大丈夫です」


 カクカクと頷く愛理沙。

 布団で問題ないということなので、由弦は愛理沙と共にスペアルームへと赴く。

 

 そして置いておいた布団を広げようとして……

 愛理沙に引き留められた。


「え? ……ここで寝るんですか?」

「え? ……嫌だった?」


 スペアルームは建築基準法に於ける「居室」には適していない。

 が、細かいところに目を瞑れば特に問題なく寝泊りできる部屋だ。


「いえ、嫌ではないんですけれど……」


 少し言い辛そうにする愛理沙。

 しかし由弦としては愛理沙に我慢して欲しくない。

 嫌なことがあるなら、しっかりと伝えて欲しい。


「遠慮なく言ってくれ」

「……てっきり同じ部屋かと。前回はそうでしたし」


 前回とは、雷で急遽、愛理沙が由弦のマンションに泊まった時の話だ。

 あの時は突然、停電になると怖いということで、愛理沙は由弦と同じ部屋で寝た。


 とはいえ、今回はその心配はない。

 スペアルームにも、ちゃんと常夜灯はある。


「……一緒に寝たい?」

「……由弦さんは嫌ですか?」


 恥じらいながらもそう尋ねてくる婚約者。

 由弦は視線を逸らし、頬を掻きながら……答える。


「……嫌じゃないよ。せっかくだし、同じ部屋で、寝ようか」

「……はい。そうしましょう」


 由弦と愛理沙は二人で布団を運んだ。










「言っておきますけど、変なことはしないでくださいね!」

「わ、分かってるよ。……信用してくれ」

「ふーん……」



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愛理沙ちゃんの不安度:15%→20%

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