第16話  婚約者と朝食

前回、誤って16話の内容を15話として投稿しました。

12時から15時の間に、この16話の内容を15話として公開していました。

ですので、もし「3月14日の12時から15時」の間に前話(15話)を読んだ方は

一度、前話をご確認ください


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「……づ……ん」


「ゆづるさん」


「由弦さーん」


「……ん?」


 微睡みの中、由弦はうっすらと目を開けた。

 目を開けると、非常に整った顔立ちの女の子が由弦の顔を覗き込んでいた。


「あり……さ?」

「由弦さん、朝です」

「あぁ……」


 由弦はゆっくりと起き上がり、大きく欠伸をした。

 そして愛理沙に向き直り……


「……え? 愛理沙!? ……何でいるの?」

「……いつまで寝惚けているんですか」






「朝から君の料理が食べられるとは、贅沢だな」


 テーブルに並べられた料理を見て、しみじみと由弦は呟いた。

 朝食のメニューはおにぎり、味噌汁、ししゃも、ほうれん草のおひたし……と理想的な和の朝食という感じだ。


「量の方はどうですか? 足りないようでしたら、卵焼きを焼けますよ」

「うーん、いや、十分だよ。……朝はそんなに食べない方だから」

「そうですか。じゃあ、明日以降もこの量にしますね」


 二人で手を合わせ、朝食を食べ始める。

 由弦はまずおにぎりに手を伸ばした。


 具は梅干しだった。

 塩加減と、握り加減が丁度良い塩梅になっている。


 自分がやるとギチギチになっちゃうんだよなぁ……

 などと由弦は思いながら、おにぎりを齧る。


「由弦さんって、おにぎりの具材は何が好きですか?」

「何が好き? まあ……そうだな。コンビニだと、鮭を買うかな……君は?」

「私、ツナマヨが好きです」

「あぁ……美味いよな、あれ」

「カロリー高そうですけど、買っちゃいます」

「美味しいものって、カロリー高そうなの多いよな」

「そうなんですよねぇー」


 おにぎりの話をしながら、二人は仲良く朝食を食べる。

 途中から「明太子は焼いたのと生、どちらが美味しいか」という見解の相違で揉めつつも、綺麗に完食した。


 それから二人で皿洗いを終え、歯を磨き、服を着替え……


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 手荷物を片手に持って、二人は家を出た。






 電車に揺られること数十分。

 到着したのは、最近オープンしたての健康ランドだった。


「意外と大きいな」

「立派ですねぇー」


 建物を見上げながら、由弦と愛理沙は呟いた。

 施設の中に入ると、まず大きなホールがあった。


 少し独特な香りがする。

 

 それなりに繁盛しているらしく、由弦と愛理沙以外にも客の姿があった。

 とはいえ、込み合っているというほどでもない。

 泳ぐのに支障はなさそうだ。


 客層は老人や家族連れなど。

 若いカップルの姿はあまり多くない。


「待ち合わせ時間……には少し早かったですね」

「そうだな。少し待つか」


 由弦と愛理沙はソファーに腰を掛けた。

 手持ち無沙汰で暇なので、パンフレットを二人で見てみることにする。


「へぇ……プール以外にもお風呂とかジャグジー、サウナもあるんですね」

「フィットネス、足つぼマッサージ、マッサージチェア……予約もすれば手もみマッサージも受けられるのか」


 その他、フードコートなどの施設もあるようだった。

 ヨガ教室、水泳教室などのイベントもたまにやっていると書かれていた。


「このお風呂って……水着で入るんでしょうか?」

「そうじゃないか? プールと繋がっているようだし」

「……じゃあ、一緒に入れますね」


 そう言って愛理沙は微笑んだ。

 ドキっと由弦の心臓が高鳴った。


「せっかくだし、他にもいろいろ試してみようか」

「そうですね。私、マッサージをしてみたいです」

「……一応、泳ぎを教えに来たことは忘れないでくれよ?」

「……分かっていますよ」


 由弦の言葉に愛理沙は表情を引き攣らせた。

 どうやら忘れていたらしい。


「プールの授業が始まるまでには、二十五メートル泳げるようになりたいです」

「まあ、君は運動神経良いし、大丈夫だと思うけど……」

「……人って水に浮かない気がします」

「泳げない人の典型的な台詞って感じだね……」

「だって、私、泳げない人ですし」


 そう言って愛理沙は口を尖らせた。

 思わず、由弦は苦笑する。


「まあ、大丈夫。今日中には最低でも、浮くようにはなれるはずだから。手取り足取り、教えるよ」

「手取り足取りは良いですけど。変な場所は触らないでくださいね」


 そう言って体を抱いて見せる愛理沙。

 由弦は肩を竦める。


「変な場所と言われても……具体的に言われないと、分からないな」

「……そう言って、言わせるつもりですか? 変態ですね」


 愛理沙はそう言って由弦をジト目で睨みつける。

 

「……絶対に触っちゃダメ?」

「ダメです……公共の場所ですよ」

「公共の場所じゃなきゃいい?」

「それは……」


「公共の場でいちゃつかないで貰えないかしらね」


 ため息混じりに、そんな声が聞こえてきた。

 由弦と愛理沙が振り向くと、そこには長身黒髪の少女が立っていた。


「あなたたちを案内するのが、少し不安になってきたわ」


 呆れた表情で、凪梨天香はそう言った。



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一応言っておくと、天香ちゃんはデートに参加することはないです



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