第27話 “婚約者”と猫さん
翌日。
愛理沙は紙袋を持って、由弦の家にやってきた。
「本日もよろしくお願いします」
「……あぁ」
愛理沙を出迎えた由弦は思わず、息を呑んだ。
秋も深まり、寒くなってきたためか……愛理沙はいつもよりも暖かそうな恰好をしてきた。
具体的には……とても暖かそうなニットのセーターだ。
クリーム色のセーターはぴったりと愛理沙の体に張り付き、彼女の美しいボディーラインを露わにしている。
そのため彼女の豊かな胸が、嫌でも目に入る。……勿論、嫌ではないどころか眼福だが。
しかし上は温かそうなのに、下は少し寒そうだ。
愛理沙にしては珍しく、ミニスカートを履いてきていた。
黒く艶めかしいタイツに覆われた美しくて長い足が、短いスカートから覗いている。
同年代の女子の中ではかなり細い。
が、しかし細すぎることはなく、しっかりと肉がついていて、非常に柔らかそうだ。
少しドキドキしながら、由弦は愛理沙を家の中に上げた。
「その、由弦さん。……一応、巷ではハロウィンらしいので。お菓子、作ってきました」
そう言って愛理沙は紙袋から可愛らしく、ラッピングされたプラスチック製のカップを取り出した。
どうやらプリンのようだ。
「かぼちゃプリンを作りました。お口に合うと良いのですが」
「ありがとう、愛理沙」
由弦は愛理沙にお礼を言って、プリンを受け取った。
すると愛理沙は苦笑した。
「実は昨日、亜夜香さんと千春さんと天香さん、そして聖さんにお菓子を頂きまして」
「愛理沙にもあげたんだな、あの四人」
亜夜香と千春は分かるが、天香と聖が愛理沙にお菓子を渡しに行ったことは少し意外だ。
と言っても、天香は分からないが、聖はああ見えて人付き合いがそんなに悪い方ではないので、それほどおかしい話でもないが。
「由弦さんも貰ったんですね」
「まあね。亜夜香ちゃんと千春ちゃんがお菓子を要求してくるのは毎年のことだし」
彼女たちはああいうイベント事が好きなのだ。
由弦も決して嫌いというわけではないので、毎年、付き合ってあげている。
「そうなんですか。……私、お恥ずかしながら何も用意してなくて」
「いや、まあそれが普通だろう」
海外ではどうかは分からないが……
日本ではただの仮装大会として受け入れられている。
お菓子を贈り合う人は決して珍しくはないが、しかし用意しない人も珍しくはないはずだ。
「でも、ちょっと申し訳ないなって」
罪悪感を覚えている……
というほどではないようだが、気にしているようだ。
「亜夜香ちゃんと千春ちゃんも、事前に君に言ったりはしなかったんだろう? 強制したくはなかったからだと思うよ」
「そうですか?」
「あの二人は何だかんだで無理強いはしたりしないからね」
厳密には無理強いしても良い相手と悪い相手を弁えているというべきか。
由弦に対しては愛理沙よりも遠慮がないし、宗一郎に対しては散々なほどの迷惑をあの二人は掛けている。
勿論、由弦も宗一郎もそれを許している。
許せる範囲内のことしか、彼女たちはやらないからだ。
「君が申し訳ないと思い、その上で彼女たちにお菓子をプレゼントしたいと思うなら、来年やれば良いんじゃないかな?」
「そうですね。……無理にお返しすると、相手の方も申し訳なく思いますよね」
来年、用意するという方向で愛理沙の中では決まったようだ。
もっとも由弦が分かるのは、幼馴染の亜夜香や千春、そして友人の聖の心情までだ。
天香についてはまだ付き合いが浅いので分からない。
だが天香は聖と同様、付き合いで渡しただけのような様子だったので……おそらくお返しは求めていないだろう。
多分、の話だが。
さて、愛理沙からプリンを貰った由弦は、そのお返しを冷蔵庫から持ってきた。
いつもの洋菓子店のケーキ箱だ。
違うのは……今回は箱に書かれた絵がハロウィンver.になっているという点だろう。
「俺の方は……まあ、いつも用意しているわけだから、これでお返しというのも変だけど」
テーブルに箱を置き、開いて中身を愛理沙に見せる。
愛理沙は中を覗き込み、驚きで目を見開いた。
「これ、知ってますよ。学校でクラスの子が噂をしていました」
「噂?」
「数量限定の、並ばないと買えないのですよね!?」
少し興奮した様子で愛理沙は言った。
由弦は頷く。
「まあ、そうだな。今朝、早起きして並んで買ってきた」
由弦が購入したのは、数量限定のハロウィンケーキだった。
この時期だけ、由弦が贔屓にしている洋菓子店は特別なかぼちゃケーキを販売するのだ。
もしかして愛理沙はハロウィンのお菓子を作って来てくれるのでは?
と考え、由弦は少し頑張って、このケーキを買ってきたのだ。
「な、なんか……申し訳ないです。私なんか、ただの素人が作ったプリンなのに……」
「申し訳なく思うよりも先に、褒めて欲しいな」
謝るくらいなら、労ってくれ。
と由弦は冗談半分でそう口にした。
すると愛理沙は目を細めた。
「じゃあ……良い子良い子、します?」
「えぇ!?」
由弦は思わず、変な声を上げてしまった。
愛理沙は頬を僅かに赤らめながらも、くすりと笑った。
「褒めて欲しいと言ったのは、由弦さんじゃないですか」
「いや、確かにそうだけど……」
「事前に許可を取るなら、撫でても良いんですよね?」
確かにそういうようなことを言った。
由弦自身、何度も愛理沙の頭を撫でてきたので、愛理沙に「私に撫でさせてくれないのは不公平」と言われたら反論できない。
「俺の頭、撫でても面白くはないと思うけどな」
「私は面白いですから」
愛理沙はそう言うと正座をした。
そしてタイツに覆われた、柔らかそうな太腿をぽんぽんと叩いた。
「え? いや……」
「お礼です。亜夜香さんは男性はこういうのが好きだと。……嫌いですか?」
「いや、嫌いでは……ないかな」
その美しい脚線美を見て、由弦は思わず生唾を飲み込む。
正直、凄く好きだ。
理性的には良くないと思いながらも、その魅力に負けて、由弦は彼女の膝の上に頭を置いた。
すると視界に柔らかそうな脂肪の塊が映る。
たわわに実った果実は重力に逆らい、上を向いていた。
理性的に耐えきれなくなりそうなので、由弦は横を向くことにした。
が、これはすぐに失敗であることに気付く。
というのも、後頭部よりも頬の方が愛理沙の太腿の柔らかさを感じやすいからだ。
筋肉の土台とその上を覆う柔らかい脂肪、そして背徳的なタイツの感触が頬から伝わってくる。
その上、愛理沙の肌と自分の鼻との距離が近いのも良くない。
石鹸の香りと僅かな汗の匂いが、由弦の理性をゴリゴリと削る。
「私のために朝早く、並んでくれてありがとうございます」
そう言って愛理沙は由弦の頭をよしよしと撫で始めた。
愛理沙の指が髪を撫で、そして耳やうなじに触れるたびにゾクゾクとした感覚が体を走った。
「あぁ……もう、無理だ」
「あぁ!」
理性が持ちそうになかったので、由弦は転がるようにして愛理沙から逃げ出した。
一方、愛理沙は寂しそうな声を上げる。
「まだ、私は撫で足りないのですが」
「俺は満足だから」
由弦がそう答えると、愛理沙は不満そうに口をへの字にした。
「撫でさせておいて、満足したら逃げるなんて……そういうところは猫さんに似なくても良いんですよ」
「そもそも、猫になったつもりはないんだけどな」
そもそも撫でさせるように要求してきたの愛理沙だ。
由弦は少し納得がいかない気持ちになった。
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真デレ度:50%→55%
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