第24話 “婚約者”と王様ゲーム
「「「王様だーれだ!!!」」」
全員でクジを引いた。
まず王様は……
「あ、私です」
記念すべき最初の王様は愛理沙だった。
最初の一回目、ということもあり愛理沙はうんうんと悩み始める。
「じゃあ……4番の人が一発芸、または特技を見せるというのはどうですか?」
真面目な性格故か、無難な命令を出した。
そして肝心の4番の人は……
「4番は私でーす!」
千春だった。
「それにしても一発芸、または特技ですかぁ……あ、そうだ。私、寝技が得意です。というわけなので、宗一郎さん。立ってください」
「はぁ? 何で俺が……」
「だって、一人だとできないじゃないですか」
そもそも一人ではできない一発芸をやろうとするな。
と、宗一郎は文句を言いながらも、しかし千春に対して腕を貸した。
その瞬間……
宗一郎の体がひっくり返った。
そして気付くと、宗一郎は千春の両足で首を締め上げられていた。
「参った、参った……も、もう良いだろ!!」
と、辛そうに叫んでいる。
が、しかし由弦の目には内心で彼が喜んでいるように見えた。
千春の太腿に顔を挟まれるのだから、宗一郎にとってはむしろ役得だっただろう。
さて、そんな役得な時間は十秒ほどで終わった。
やれやれ、全く、どうして俺がこんな目に……とそんな態度で宗一郎はソファーを座り直す。
「……今更ですけど、番号指定無しに他の人を巻き込む命令は良くないですね」
本当に今更なことを愛理沙が指摘する。
すると亜夜香はうんうんと同意するように頷いた。
「そうだね。ゲーム性が壊れちゃうし、今度からは番号指定は必須にしようか」
さて、改めてルールの確認が行われたところで……
再び、クジを引きなおした。
今度の王様は……
「ふむ、俺か。……できれば千春に仕返しをしたいところだな」
「番号指定しないとダメですよ!」
「分かっているよ」
王様となった宗一郎はしばらく考えるそぶりを見せてから……
「5番の人はスクワットを十回。どうだ?」
「5番は私だね。それにしてもスクワットかぁ……手は頭の上で組んだ方が良い?」
「正しい形でやってくれるなら、何だって構わないぞ。でも、ちゃんと深くやれ」
「はーい」
亜夜香は元気よく返事をした。
そして両手を頭の上に上げて、肩幅ほど足を開く。
そしてゆっくりと、スクワットを始めた。
「一、二、三……」
さてこの時、亜夜香はロングスカートを履いていた。
そのためスカートの中身が見えるということはなかったが……
しかしスタイルの良い美少女が、額に汗を浮かべ、六人が見守る中で大きく足を広げながらスクワットをするというのは、少し妙な光景だった。
由弦を含め、六人は何となく変な気分になった。
「終わったよ……意外に恥ずかしいね」
亜夜香も周囲の雰囲気に途中から気付いていたらしい。
いつも飄々としている彼女にしては珍しく、顔が仄かに紅く染まっていた。
さて、気を取り直して新たに王様を選ぶ。
王様となったのは……
「よし、俺だ。じゃあ……3番が全力でこの屋敷の周囲を走ってくるってのはどうだ?」
罰ゲームらしい罰ゲームを提案する聖。
そしてその対象となったのは……
「聖君……覚えていなさいよ」
運動が苦手な天香だった。
キリっと、聖を睨みつける天香。
そんな天香に対し、聖はニヤニヤと笑いながら言った。
「忘れるまでな。ちゃんと、全力で走るんだぞ? 窓から確認するからな?」
「……分かっているわよ。まあ、良いわ。家の周りを一周するくらい、どうってことないし」
そんな調子で天香は一度、部屋を出て行った。
それからしばらくして、汗だくになり、脇腹を抑え、息を荒げた天香が帰ってきた。
「ぜぇ……ちょっと、この家、大きすぎるでしょ……」
どうやら天香の想定以上に橘邸は大きかったらしい。
かなりの運動になってしまったようだ。
「この恨み、晴らさでおくべきか……」
「まあ、頑張ってくれ」
そんな調子で新たな王様が選ばれる。
王様のクジを引いたのは……
「お、ついに俺の番か」
ようやく由弦に手番が回ってきた。
勿論、最初から命令の内容は考えてある。
「1番を指名。もし男なら女に、女なら男に、ゲームが終わるまで成り切れ」
「分かったわ、由弦」
裏声で宗一郎が答えた。
思わず由弦はげんなりした。
「……気持ち悪」
「酷いわ……あなたがこうしろって、無理矢理命じたじゃない♥」
意外にノリノリな宗一郎。
この男は案外、ノリが良いのだ。
……女性というよりは、オネェキャラになっている気がするが、それはご愛敬だ。
さて、次に王様になったのは……
「良し! 聖君、覚悟しなさい!!」
女王様、天香が誕生した。
彼女は聖に復讐するつもりのようだ。
「六分の一だぞ? 当たるわけない」
「2番はゲームが終わるまで、語尾は『ザウルス』か『ドン』ね」
「嘘だろ! おい!!」
どうやら聖は今日、ゲームが終わるまでの間、『ザウルス』と『ドン』を語尾に付けなければならないことになったようだ。
ニヤリと天香は笑う。
「嘘だドン! でしょう?」
「分かった……ザウルス」
その瞬間、誰かが噴き出した。
その人物に視線が集まる。
思わず笑ってしまったのは……愛理沙だった。
「雪城さん、今、俺のことを笑ったザウルス?」
「っく……す、すみません……」
どうやらツボに嵌まってしまったらしい。
お腹を抱える愛理沙の耳元で……由弦は囁いた。
「何がそんなに面白いザウルスか?」
「ひぅ……っく、や、やめてください……由弦さん……だ、ダメぇ……」
しばらく愛理沙の笑いが収まるまで、王様ゲームは一時中断となった。
さて、一時の中断を挟んで次に王様となったのは……
「私ですね」
千春だった。
千春は少し考えてから……ニヤリと笑った。
「そうだ、こうしましょう。どんな感じの異性が好きか、話してください。勿論、好きな人の名前を言っても良いですよ? 番号は……6番!」
そして6番のクジを持っていたのは……
由弦だった。
思わず由弦は頭を掻いた。
「どんな感じの異性?」
「はい。当然、ありますよね?」
ニヤニヤと千春は笑いながら由弦を問い詰めた。
由弦は思わず……一瞬だけ、愛理沙の方を見てしまった。
そして愛理沙の由弦の方を丁度、見ていた。
二人の視線が交差する。
由弦は自分の顔が熱くなるのを感じた。
思わず、視線を逸らす。
「さあ、早く……」
「……そう、だな」
由弦は少し考えてから、答えた。
「俺の全部を受け入れて、でも、悪いところは悪いって叱ってくれる人、かな?」
「へぇ……ところでそれって、もしかして……」
「もう答えたから良いだろ! 次に行こう、次に!」
由弦は大声で千春の言葉を遮った。
そして強引に王様ゲームを進行させる。
それから次に王様となったのは……
「ようやく私の手番が回ってきたね」
亜夜香だった。
女王様亜夜香は腕を組み、うんうんと悩み始める。
「本当は好きな人を言うとか、そういうのを命令するつもりだったんだけれど……千春ちゃんに先を越されちゃったしなあ」
どうやら温めていたはずの命令は、先に千春に言われてしまったらしい。
亜夜香はしばらく悩んだ末に……ポンと手を打った。
「そうだ、こうしよう。告白されたいシチュエーションとか、好きな人に言われたい言葉を言う! えっとねぇ……じゃあ、三番!」
「……私ですね」
聞きなれた可憐な声に、由弦は思わず胸を高鳴らせた。
由弦は自分自身が非常に緊張していることを自覚した。
「こ、告白の……し、シチュエーション……ですか」
「うんうん、プロポーズでも良いよ?」
チラっと、愛理沙は由弦の方を見てきた。
その顔は……トマトのように真っ赤だった。
「具体的にと言われると、まだ実感が湧かないので答えられないですけれど……」
恥ずかしそうに、もじもじとする愛理沙。
その仕草はとても可愛らしい。
そんな愛理沙の声に由弦は耳を傾ける。
「ロマンティックな感じが、好きです。……特別な日に、特別な場所で、特別なプレゼントと一緒にとかが、良いです……」
そう言ってから愛理沙はもう恥ずかしくて言えないと言いたそうに、顔を両手で覆った。
さすがの亜夜香もそんな愛理沙に無理強いはできないらしい。
「だってさ、ゆづるん」
唐突に標的を変えてきた。
その言葉は当然由弦にも、そして愛理沙にも聞こえていた。
二人揃って顔が赤くなる。
「揶揄うのはやめてくれ、亜夜香ちゃん」
「そ、そうです……私たちは、そんなんじゃ、ないですから……」
由弦と愛理沙がそう言うと、亜夜香はニヤニヤと笑い……
「ん? 何の事かな? 私、わかんなーい」
しらばっくれた。
墓穴を掘った由弦と愛理沙は、いたたまれない気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます