第22話 男子side

「はい、愛理沙ちゃん!」

「はい! 千春さん」

「おっと、亜夜香さん!」


 波や流れがあるわけではない、ごく普通のプールで三人の美少女たちがビーチボールのパスを互いに回していた。

 特に明確なルールはあるわけではないが、水に落としてはいけないらしい。 

 

 そして三人の美少女を遠巻きに眺めている男が二人。


「由弦、俺はたまに思うんだ」


 宗一郎はしみじみと、どこか悟りでも開いたかのような表情で断言する。


「この世に男って、いらなくないか?」


 その言葉に対し、由弦は小さく鼻で笑った。


「何を言ってるんだか」

「だから……」

「と、少し前の俺なら、そう答えたかもしれない」


 由弦は三人の美少女――つまり愛理沙、亜夜香、千春――が楽しそうに遊ぶ姿を眺める。


 愛理沙は海外の遺伝子が強く、肌の色や髪色、そして顔の造形もやはり普通の日本人とどこか異なる雰囲気を身に纏っている。

 華奢な体に凹凸のある体はどこか芸術的で、いやらしさを一切感じさせない。

 そんな愛理沙は中央にリボンで飾られた黒い三角ビキニを身に纏っている。

 清楚な印象を持つ彼女だが、こういう大胆な水着を着ていると急に大人っぽく見えてくる。 

 白い肌に黒い生地が映えて、彼女をとても美しく見せていた。



 亜夜香は由弦と同様に遠縁にコーカソイド系の遺伝子を受け継いでいるためか、どこか日本人離れした容姿で、顔の造形も彫が深く、とても整っている。

 高い鼻、桜色の美しい唇と一つ一つのパーツはとても美しく、それが黄金比とも言えるバランスで配置されている。

 髪は艶やかな黒絹で、瞳は赤みの強い琥珀色。

 肌は美しい象牙色で、とても滑らかだ。

 彼女は愛理沙に負けないほど、素晴らしいプロポーションの持ち主だ。

 手足は長く、ウェストはほっそりとしていて、胸部と臀部は美しいフォルムを描いている。

 そんな亜夜香は非常にシンプルな、真っ赤な三角ビキニを身に纏っていた。

 大人顔負けのスタイルを持つ情熱的な赤い水着を身に纏うと、途端に官能的になる。

 その姿はとても十五歳には見えなかった。

 


 千春は古い歴史と伝統を持つ神社の跡取り娘だ。

 それ故か、もしくは全く関係ないかもしれないが(多分、関係ない)、どこか神秘的な雰囲気を漂わせている。

 榛(はしばみ)色の瞳に、陽光に照らされた明るい茶髪が印象的だ。

 通った鼻筋に、長い睫毛に覆われたパッチリした瞳を持つ、和風な顔立ちをしてる。

 肌は白磁のように滑らかで、美しい。

 胸部と臀部の膨らみは愛理沙、亜夜香以上だが、ウェストはキュッと細く括れている。

 手足はほっそりと、長い。

 そんな千春は白とピンクの生地に、縁がフリルで飾り立てられたビキニを身に纏っていた。

 フリルによって胸の谷間や、臀部が僅かに隠されているため、露出の割には清楚な印象を感じさせていた。



 そんな彼女たちが仲睦まじく、戯れている姿は非常に絵になる。 


 何より素晴らしいのは、彼女たち三人は共に素晴らしい胸部の持ち主たちであることだ。

 ボールを上に上げるたびに、彼女たちの胸部のボールも大きく揺れるのだ。

 天国のような光景と言える。


「うん、この世に男は要らないな」


 それが由弦の感想だった。


「由弦……ようやく分かってくれたか」

「あぁ……今までの俺は未熟だった」


 由弦は少し前までの、世界を知らなかった自分自身を恥じた。

 今までは、あの素晴らしい景色を知らなかったからこそ、宗一郎の意見に賛同できなかった。

 だが、今ならば共感できる。


「いや、分かってくれたなら良いんだ。……親友よ」

「宗一郎、ありがとう」


 由弦と宗一郎は固く、握手を結んだ。

 それから二人は両手を離し……


「と、茶番は良いとして、宗一郎。正直、助かった。……雪城と二人っきりで一日を過ごすのは、正直、難しかったからな」


 由弦は宗一郎に対して、先ほどのおふざけとは異なる、真面目なお礼を口にした。

 別に愛理沙のことは嫌いではない。

 一緒にいて楽しいと、今はそう思える。

 実際、彼女と一緒に流れるプールや波のプールで遊ぶのは楽しかった。

 だが……限界がある。


 これが本物の恋人同士ならばイチャイチャと、ボディタッチやらなにやらを繰り返して永遠に盛り上がり続けることができるかもしれないが、由弦と愛理沙はそんなことはできない。(少なくとも由弦は、彼女の信頼を裏切るような真似をするつもりはなかった)


 そのため亜夜香や千春と合流できたのはありがたかった。

 女の子同士ならば、気兼ねなく遊ぶことができる。


 そして由弦は宗一郎の前で、肩の力を抜くことができる。

 ……女の子の前ではどうしても良いところ見せたくなり、緊張するのが男の性だ。


「それはこちらもお互い様だ。……あいつら二人を一日相手にし続けるのは、正直、疲れるんだ。いや、楽しいけどな」


 女の子一人を相手にするだけでも大変なのだ。

 それが二人一緒となれば、余計に大変だろう。

 由弦は宗一郎に同情した。


 ……が、冷静に考えてみると二股を掛けているのは彼の自業自得なので、同情の余地は一切なかった。

 由弦は一瞬でも同情したことをすぐに後悔した。


「ところで由弦。実際のところ……無理矢理結婚させるなんて、できると思う?」

「できないことはないが、それだけのリスクを冒すメリットがないんじゃないか?」


 宗一郎の問いに由弦は答えた。


「だよな。……一昔前ならともかくとして、このご時世、できないよな」

「ああ。……そんなこと、させるのは時代遅れだろう」


 ひと昔なら泣き寝入りするしかなかったことが、今ではパワハラ、セクハラで訴えることができる素晴らしい時代になっている。

 愛理沙の意思を無視して結婚させるような真似をすれば、訴えられるかもしれない。


 だからリスクマネジメントができていれば、そんなことはしない。

 

「結局、意にそぐわない縁談なんて、無理に勧めても破談するのが目に見えているし。常識があればやらないだろう」


 一番最悪なのが、週刊誌に取り上げられるような事態だ。

 笑えない。

 

「つまり雪城さんの親には常識がないと?」


「どうだろう? ……養母は分からないが、彼女の養父はそれなりに優秀な人と聞くぞ」


「……リスクに頭が回らないはずがないか」


「そういうことだ」


 もっとも、だからと言って愛理沙が嘘を言っているのかと言えば、そういうことではないだろう。

 だから由弦の推測では……


「雪城はああ見えて、気弱な性格だから。精神的なモノなんじゃないかなって思っている」


 引き取って貰った立場で養い親には、精神的にも立場的にも逆らえないのだろう。

 愛理沙の側がはっきりと拒絶しなかったために、乗り気だと勘違いをして縁談を進め、そうしているうちに今さら嫌とは言えなくなってしまった。

 という事態は考えられる。


 そんなことを由弦と宗一郎が話していると……


「おーい、宗一郎君! ゆづるん!! 一緒にやろう!!」


 丁度、亜夜香からのお誘いが来た。

 由弦と宗一郎は顔を合わせてから、三人のもとへと泳いでいった。

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