第2話 第一惑星発見…?

ー2025年 4月2日 午前8時40分頃 アメリカ合衆国 ゴダード宇宙飛行センターにてー


地球が見知らぬ星に大転移して以降、始めての朝を迎えた地球。その光景は、かつて太陽系にいた頃と全く変わらないようにも見える。人々は地球と月ごと見知らぬ星に転移しているのにも関わらず、何事もなかったかのように日常を過ごしており、都市部では仕事に向かうべく大勢の人々が地下鉄やタクシー、バス等を使い、職場へと向かっていた。


しかし、アメリカにあるゴダード宇宙飛行センター内では、そんな朝にも関わらずやけに落ち着いた雰囲気ではなく、センター内は平常時よりもだいぶ騒々しく、人の往来が激しかった。何故なら昨日の緊急会議終了後の約1時間半後に行われた、NASA、ESA、JAXA等の宇宙機関が協力して行った、共同観測による数多くの地上望遠鏡や宇宙望遠鏡の運用によって、昨日まではっきりしていなかった惑星の有無が、偶然にもその惑星がアメリカの宇宙望遠鏡のレンズが向いていた場所を通りかかった事によって、地球以外の惑星の存在がしっかり画像に残されて、ここ、ゴダード宇宙飛行センターへと送信されたからである。


センターに送信されて最初の数分は地球外の惑星の存在が確定したことに喜んでいた職員らも大勢いたが、送られてきた画像を地球外惑星専門の分野に解析してもらったところ、驚くべき事にこの惑星に大気はほぼ確実に存在しているとしており、更にその惑星では地球のように陸地や海が存在している可能性が非常に高く、もしかするとそこに生命が存在しており、そこで進化を遂げて独自の文明を築いているのもおかしくはないだろうと結論付けたのだ。


この結果を聞いた職員らは更に興奮や感動が渦巻いてしまい、その影響かどうかは分からないが、一部の情報がゴダード宇宙飛行センター以外のNASAの施設等にまで漏れてしまってはいるものの、幸いにも民間人にその情報は行き届いてはいなかった。


しかし、発見された惑星は地球の軌道よりも少し離れた位置を公転しており、現時点では火星に比べほんの僅かだけ地球との距離は近いものの、どういった軌道で公転をしているのかについてはまだはっきりしていない。仮にもその惑星の軌道が地球みたいに円形に近い形ではなく、地球との距離や環境変化が激しい楕円形の軌道なのだとしたら、今後アメリカ含め各国の宇宙機関が行うであろう地球外への惑星探査が出来る時期が制限されてしまう。そういった最悪の事態にならないためにもNASAは念には念をという事で、惑星を周回しては地表や海面など撮影して地球に送信する探査機オービターと、地上に着陸して惑星の環境やその惑星にいる生命や生物などの画像を送る探査車ローバーの両方を一緒に載せて打ち上げる計画が考案されており、アメリカ政府からの許可さえ出ればいつでも計画に着手出来る準備はしているのだ。


地球と月ごと転移して以来、意外にも宇宙開発の調子は復活したかのように見える状況を迎えたNASAなのだが、大転移という異常事態が起きる前までのような状態にはまだ仕上がっていない。


これからNASAの一部の職員らとNASA長官は今日、政府が昼頃に再度緊急会議を開くと宣言したためワシントンへと向かう予定になっている。会議の主な内容については宇宙関連の話がほとんどで、中国やロシアの動向確認は今回の会議ではおまけみたいなものになっている。だが、NASAが観測した地球外惑星の件については特に注目視されており、発表の内容によってはその惑星の存在を全世界に公表することも検討するそうだ。


そして今の時間から約4時間半後の午後1時10分。アメリカもとい地球は、ついに新たに発見された地球外惑星に向けての本格的な調査活動が始まろうとしていた…。



ー同日 午後1時10分頃 ワシントンD.C ホワイトハウス 会議室にてー


「ええ…ではこれより、二回目となる緊急会議を開催いたします。この会議の内容については大統領や大臣らも既に分かっていらっしゃると思いますが、主にNASAから発表される例の地球外惑星についてがほとんどになるでしょう。ではNASAの職員の皆さま方、ご説明をよろしくお願いいたします。」


進行役がそう言い終えると、職員らは前回よりも移動を早めて、すぐさま発表の準備をしだした。するとスクリーンに映し出されたのは、青くて広大な海や、緑が豊かで所々に砂漠らしき地帯がある大陸と、現代の地球よりも更に地球らしい惑星が大きく映されており、その周りには、地球の月よりはだいぶサイズが小さいものの、うっすらだが2つの衛星が斜めに公転していた。


「これまで地球に似た…いや、地球よりも自然が豊かな惑星は見たこともないぞ…!」


「まるでファンタジーの世界にも出てきそうな惑星が実際に存在しているとはな…信じられないぜ…」


「こうなればもしや我々人間のような知的生命体がこの惑星にいてもおかしくはないんじゃないかね…?」


大統領や大臣らの予想に反したような惑星が映し出されているのを見て、おそるおそる各々の感想を呟く。


「ではただいまより、我々NASAによる説明を開始します。まず大統領や大臣の皆様も既に話はお聞きなさってるかと思いますが、先日の緊急会談後に開始された、多国間での共同観測をしている最中に、惑星の有無がはっきりしていなかったこの星に惑星の存在が確認されたことを報告します。今スクリーンに映し出されている、まるで我々が住む地球とほぼ変わらなさそうに見える惑星がそれです。」


少しの間だけ間が空いた後、職員は説明を再開する。


「今回発見されましたこの惑星についてなのですが、惑星の位置は地球よりもやや遠く、火星よりかは僅かだけ近いといった所です。更に画像を詳細に分析した結果、この惑星には地球と同じく大気が存在しており、極地に近い部分ではオーロラのような現象も微々たるものですが発見され、更に月よりも小さいサイズの衛星が2つ公転しています。この事から、恐らくこの惑星は地球の環境とほぼ同じで、なおかつ生命が存在する可能性はとても高いだろうと結論付けました。」


すると今度はさっきまで映されていた画像とは打って変わって、人工衛星がその惑星を周回して観測をしている様子や、地上をゆっくりと進む探査車のコンセプトアートが映し出された。これを見た大統領と大臣は、NASAの思惑を映し出された画像から何となく察したが、一応説明を聞いてから発言をする事にした。


「ですが、いくら地球と似たような惑星が偶然にも発見されたとはいえど、もっと詳しい情報──その惑星の生態系や生物といった、現地に行かないと分からないような情報を得るためには、その惑星に直接探査機を送らなければなりません。なので我々は今回発見された惑星の地表を観測し、その画像を地球に送る探査機と、地表に着陸して実際に惑星を探索する探査車両方を一度に送り込む計画を考案しました。もし大統領からの許可が下りれば、我々は明日にでも計画を実行しますが、如何でございましょうか?」


この職員らの発言に、大臣らは内心とても期待を寄せていたが、大統領はこれに少し疑問に思っていたのか、発言をするべくすぐに挙手をした。


挙手をしているこの男は第47代目アメリカ合衆国大統領のアンドリュー・ウェスリーであり、前大統領の政策理念を引き継いで中国とロシアに対してより強硬的な立場をしている人物である。


「すまないが、一つ聞かせてくれないかね…?」


「はい大統領…遠慮なく質問なさってください。」


「そちらが提案している探査計画は、予定ではいつ頃にその探査機と探査車両方を完成させるつもりなのかね?」


「その点についてですが、幸いにも本来であれば火星の周回軌道に乗せるために計画された探査機がまだ打ち上げられずに残っているので、探査車を載せる部分と探査車自体さえ完成すれば打ち上げは可能です。ですが仮に探査車が順調に完成出来たとしても…早くて10ヶ月半といったところでしょう。」


「うむ……あの惑星の存在はNASAが主導の下で発見されたものだ。だから我々アメリカがどこの国よりも先に惑星の周回軌道に入り、それと同時に探査車を一緒に送らせておいた方が、新たな惑星探査の先駆者としてたくさんの称号を得られる。多分あのロシアや中国は惑星転移の影響で未だに混乱していて、まだ本格的な宇宙開発行為は恐らくしていないだろう。だからあの2ヶ国が本気にならない内になるべく早く打ち上げておきたい所なのだが…無理か?」


「…お言葉ですが、探査車というのはその惑星の環境や地表等を調べるために開発される車輌です。ですのでそれらを分析するには最先端の観測機器を探査車に搭載させなければなりませんし、あまり観測機器を詰め込みすぎては打ち上げに支障が出ます。なので探査車を早急に用意することは難しいです…。それに、まだどこの国も周回軌道にすら到達した事がない惑星だったら尚更です。」


「…なるほど、無茶なお願いをしてしまって申し訳無かった…。あの2ヵ国、特にロシアの最近の宇宙開発がここ最近進展しだしたからちょっとでも対抗したくなってな…。」


「まあ…確かに冷戦時のスプートニクショックのような屈辱を二度と味わいたくないのは分かります。ですがいくらロシアや中国とはいえど、そう簡単に人工衛星や探査機をたくさん打ち上げれるほどの資金や国力はないはずです。ただ我々もなるべく探査車を早く完成させるように努めて参りますので、どうかご承認を…。」


大統領はNASA考案の探査計画を許可するか否かで少し頭を抱えた。そして大統領の前に置いてあったコーヒーを一服した後、軽く深呼吸をしてから口を開いた。


「…分かった。例の探査計画については明日にでも開始してもらって構わない。そちらの言い分も聞かせてもらったから十分納得したよ。計画の成功を実に楽しみにしてるよ。」


「我々の計画に賛同していただき…あ、ありがとうございます…!」


「いやいや、私だけじゃなくて周りにいる大臣も計画にとても期待を寄せておる。だがあまり無理をしすぎずにな。」


その後も会議は少しの間続き、主に発見された惑星の名前もこの会議で決められた。その結果、今回発見された惑星の名前は『アルヴァルディ』と名付けられ、更にアルヴァルディを公転する二つの衛星にも『ヴィリ』『ヴェー』という名前が付けられた。


こうしてアメリカは大転移してから約数日以内で大転移前の近い状態に調子を戻すことが出来たのだが、それと同時にアメリカのライバルでもあるロシアや中国も、ゆっくりではあるが本来の調子を取り戻しつつあった。


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