第2話 幸せの意味

イジメられているから私は死にたい。だから最後の別れで龍に電話をしたの。

その様に昔、家族の都合で引っ越して行った幼馴染の彼女が久々の電話で言った。

確かに死ぬのは簡単だけど。

俺.....いや。

周りが苦しむなら話が変わってくる。


苦しいのはお前だけじゃ無いと説得した。

死んで楽になるなら俺だって死にたい。

だって俺だってイジメられているのだから。

なのに勝手に死ぬなんて許されない。

思いながら俺は駅までやって来た。


そこには.....痩せ細った彼女が居た。

ガリガリになっている。

そして俺を見ていた。

彼女の名前は仙波千穂という。


俺が好きな元幼馴染の女の子。

昔はこの様な感じでは無かったのだが.....。

周りのみんなに千羽鶴と慕われていたのに、だ。


その面影は何処にも無い。

だけどそれでも。

生きて俺の前に現れてくれた。

それだけでも感謝なのかも知れない。


「.....あの.....何で私なんかを好いているの?龍」


「お前が憧れの存在だったから。アイドルの様な.....存在だったから。優しいお前が好きだ」


「.....私って.....そんなに良い人じゃ無いよ.....」


自重気味に笑う千穂。

俺はその言葉に溜息を吐いてポコッと音を鳴らして千穂の額に拳を優しく打つけた。

そして着ていた服を脱いでからバサッとその服を千穂に被せる。

それからその服で千穂を丸めた。

千穂は.....その温もりを感じる様に目を丸くする。


「俺は今でもお前が好きだ。どうなっていても.....憧れで。そして.....お前が全ての女性と思っている」


「.....何で.....」


「何でとかそんなこと言われてもな。お前の事が好きだから」


「.....」


俯く千穂。

涙を流している様に見えた。

俺はそれを和かに見ながら周りを見渡してコンビニを見る。

それから千穂に向いた。

コンビニを指差す。


「.....コンビニ行くぞ」


「.....え?」


「.....何か飲もう。それからお前の話を聞かせてくれよ。お前がそこまで追い詰められた理由とか.....」


「.....うん.....」


そして俺達はコンビニに向かう。

するとギュッと千穂が俺の手を握り返して来た。

それから.....俺を涙目で笑みを浮かべて静かに見てくる。

有難う、と言いながらだ。


「.....有難うはこっちのセリフだよ。俺の前に来てくれて.....有難う。死ななくて有難うな」


「私.....龍に出会えて良かった。死ななくて良かったって思った」


「俺も今まで死ななくて良かったって思った」


それからコンビニにやって来ると。

そこに.....山地春樹(やまじはるき)が雑誌を読んでいた。

ばったり会う形だ。

数少ない友人で有る。

俺を見ながら目を丸くする。


少し小太りながらも性格はお淑やか。

そして身長高く俺よりも高いが面倒見が良く。

黒の短髪に眼鏡、という同級生。

大丈夫か?その子は?と雑誌を置いて駆け寄って来た。


「.....ああ。春樹。紹介するぜ。俺の幼馴染の女の子、仙波千穂だ」


そんな紹介をすると.....千穂は春樹を萎縮していた。

俺はその姿を見ながら、此処まで弱っていたんだな.....、と思う。

春樹を見ると春樹は状況を察した様にして笑みを浮かべた。

そして.....俺を見てくる。


「.....千穂さんは.....何か.....悩んでいるのか?」


「そうだな。うん」


「.....そうか。まあお前と同じって事だな」


「そういう事にしておいてくれ」


取り敢えず.....奢るぜ。

と春樹は適当な飲み物を持って来た。

いやいや、何でそうなるんだ。

俺は慌てて俺は春樹を見る。


「だって.....龍が外に出るの珍しいからよ。お前の為にってこれぐらいしか出来ないし。何本か買ってくるわ」


「.....お前という奴はな.....」


だから好きなんだよな。

コイツの事。

そして憎めないって言うか。

良い友人だよ本当に。

俺にとってはもったいないぐらいに。


「.....龍。.....良い友人を持っているんだね」


「そうだな。本当に良い奴だよアイツは」


「私、少し安心した」


ニコッとする千穂。

俺は首を振ってから千穂の手を握る。

それから......俺は笑みを浮かべた。

そしてお前も幸せになるんだ、と呟く。


「.....私は.....もう良いよ。幸せになれなくても」


「駄目だ。お前も幸せになるんだ。千穂」


「.....こんな私に.....幸せなんて似合わないよ」


「.....大丈夫だ」


千穂は?を浮かべて顔をゆっくり上げる。

そして.....俺の顔を見て来た。

俺は.....千穂に再び笑みを浮かべる。

それから千穂の頬に触れる。


「.....今から幸せにしていくからな」


「.....龍.....」


そんな感じでしていると。

背後からジト目を感じ俺は慌てて振り返る。

そこには.....溜息混じりで苦笑している春樹が立っていた。

そして買い物袋を見せてくる。


「幸せそうなのは良いけど.....この場所でイチャイチャってのもな。.....取り敢えず出ようぜ。恥ずかしい」


「.....あ.....」


「.....そ、そうだな」


コンビニ店員も他の客も困惑しながら俺達を見ている。

少しだけ赤面していた。

俺達は慌ててその場を後にする。

そして表の駐車場に来た。


「.....で、お前の彼女さんは何でそんな俯いているんだ。悲しませたのか?」


「彼女じゃねーよ.....春樹」


「そんなイチャイチャしておいてか?.....まあ良いけど。.....でも本当に何でそんなに俯いているんだ?」


「千穂はな。電車で自殺未遂を起こした」


見開く、春樹。

俺は事の有様を全て説明した。

春樹は顎に手を添える。

それから.....成る程、と納得する。


「.....本当に大変だったんだな」


「.....ああ。色々とな」


「でも申し訳無いけど死んでも良い事なんて無いぞ。.....それに千穂さん。せっかく人間に生まれたんだし.....満喫してから死のうぜ」


「.....」


春樹は少しだけ柔和になる。

俺は.....その姿を見ながら千穂を見る。

千穂は、はい、と少しだけ反省した様に.....頷いた。


その中で春樹は、さてさて、と言いながらカシュッと缶を開けてグイッと大きくソーダをあおった。

それから俺達に飲み物をビニール袋ごと見せて来る。

適当に取ってくれ、的な感じだ。

俺達は顔を見合わせて.....それから受け取る。


「.....まあ、飲もう。な?」


「有難うな。春樹」


「.....桃のジュース貰います」


手を大きく広げてパーッと今はやろうぜ。

と春樹は、にしし、と言いながら笑顔を見せた。

俺はその姿を見ながら.....溜息を吐く。

それから、そうだな、と苦笑した。

春樹の言う通りだ。


「.....コイツの言う通りだ。落ち着こう。千穂」


「うん.....」


頷く千穂。

そして暫く.....俺達は春樹とその場で他愛ないを会話した。

それから俺達は.....家に帰る。

その時には既に夕暮れだった。

俺の部屋に.....千穂はやって来る。

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