3月、桜の花弁、再会

アキノリ@pokkey11.1

第1話 千羽鶴と呼ばれた彼女

3月と言えば桜の季節だと思う。

もう10回この季節を感じてきた。

10回感じたとなるともう10年経っている。

俺、迫場龍(さこばりゅう)は毎年この時期になると10年前に別れた幼馴染の女の子を思い出す。


丁度、幼稚園の年長になった6歳の時。

両親の都合で転園していった.....女の子を、だ。

名前を千穂。

仙波千穂(せんばちほ)という。


千羽鶴に近い名前の為に彼女はとても慕われており。

幼稚園児の中でとても人気者だった。

何故人気だったのかというと.....顔が可愛かったのも理由の一つだ。

そして面倒見が良かった。

俺は.....そんな千穂に初めて恋をしたのを覚えている。


だから振り向かせようとしていたのだがその時には時既に遅しで.....。

彼女は両親の都合で引っ越して行ってしまい。

でもそんな彼女は泣いている俺に別れ際に俺にそれを託してきた。

それは.....おもちゃの鍵。


『.....肌身離さず持っていたら.....叶うよ』


その様に話してくれた彼女。

ニコッとしながら彼女は涙を拭って平たい四角い物が吊り下がったネックレスの様な物を頭から下げた。

俺はそれを見ながら.....鍵を胸に添える。


何が入っているんだろう。

教えて欲しかったけど彼女は一切語らなかった。

秘密、とだけ言って、だ。

そしてそのまま俺達は別れてしまった。


でも別れたとは言え、一応に文通とかをしていた。

だけどそれはいつの間にか音信不通になってしまい。

俺は.....その事に心が痛く。


だけど気持ちは変わらずに.....彼女が好きだと思い続けた。

有る年の3月。

つまり今だが.....俺は少しだけ錆びた鍵を見ながら手入れをしていた。

錆止めを付けながら、だ。


「よし」


俺は鏡の様に綺麗になった鍵を見ながら。

少しだけ柔和な顔をする。

そして.....横に有る棚に置いて有る当時の写真を見る。

それから窓が開いていて靡くカーテンを見つめる。


「.....10年か。早いもんだな。.....千穂。元気かな」


少しだけ呟きながら.....俺はシャーペンを握る。

何をしているのかと言えば勉強をしている。

教科書を読んで.....そして春休み前の試験の為に、だ。


俺は.....このまま精神科医。

つまり.....医者になるつもりだった。

何故医者になるかって言えば。


色々な人を救いたかったから、だ。

俺自身が若干の障害を持っている為に、だ。

その障害とは.....簡単に言えば。

自律神経の乱れ。


冷や汗が止まらなくなる。

その為に.....医者になると決意したのだ。

原因は分かっている。

何が原因かというと.....陰口だ。


俺自体があまり学校に行けてない。

その為に、アイツ誰だ?、的な感じになる。

それでイジメが起こるのだ。

自律神経が乱れる=学校に行けない=自律神経が乱れる=学校に行けない。


それはまさに負のスパイラルだった。

だから俺は.....人を地獄から救いたかったのだ。

ニュースで観たけど、同じ様な人が居るって知ったから。

だから勉強している。


半分不登校気味の俺は.....夢だけは俺の頭の中で登校させたかったから。

だから頑張っているのだ。

無謀かも知れないと思っている。

何故かって?そうだな。

俺は.....頭がそんなに良くないから、だ。


勉強をしながらも時折、手が止まる。

それは.....こんな事をやって意味が有るのだろうかと思ってしまうから、だ。

だから手が止まってしまう。

そんな時に何時も.....千穂の鍵を見て落ち着かせている。

千穂に助けられているのだ。


「.....さて.....頑張るか」


思いながら.....数式を当て嵌めて行く。

すると.....スマホに電話が掛かってきた。

俺は?を浮かべながら.....見る。

そこには非通知と記載が.....。


「非通知って.....イタ電か?」


その様に考えながらも何故か出てしまった。

何故かって言えば.....このまま家に電話が掛かって来るのも厄介と思ったから、だ。

そして出てみると直ぐに声がした。

女の子の声で、だ。


『.....あの』


「.....はい。どちら様ですか?」


『.....千穂だけど.....このお電話は迫場龍くんのお電話でしょうか』


「.....へ!?」


千穂って、え!?

俺は素っ頓狂な声が出た。

と同時に椅子から立ち上がってしまった。


だが.....相手は、ヒッ、と声を発する。

まるで.....怯えている様な、だ。

俺は?を浮かべて話し掛ける。


「千穂?マジなのか?」


『う、うん。そうです.....』


ちほの声には確かに似ている。

でも何だろう。

活気が無い。

まるで.....ビクビクしながら電話を掛けてきている様な。

何処で電話番号を知ったのか.....は置いておいて。


「.....随分と活気が無い.....様な感じだけど.....どうした?」


『.....私ね、今.....イジメられているの』


「.....え.....」


『.....電話したのはこれで最後だったから。この後に私は死ぬつもり』


ちほは涙声で話して来る。

俺は.....青ざめた。

ちょっと待ってくれよ。

一体、何を言っている.....のだ?

意味が分からないのだが.....。


「.....千穂。お前.....今現在で何をしようとしている?」


『電車に飛び込もうとしている』


「冗談だろ。お前.....?」


『嘘じゃ無いよ。それで最後にと思って.....電話を掛けたら.....繋がった。何でこの電話を知っているかって言ったらね.....生徒手帳落としてたよね。龍。だから知ったの。.....私ね、君に出会って幸せだったよ』


確かに生徒手帳はこの前、落としたかどうなのか失くした。

でも拾ったのがまさか千穂が拾ったなんて.....思わなかったって言うか。

そんなコトは今はどうでもいい。

何が起こっているのだ本当に。


「確かに電車の音が聞こえる。だけど.....千穂。悪い冗談だよな」


『もう.....良いの。本当に』


駄目かもしれない。

これは結構マズイかも知れない。

俺は.....舌舐めずりをする。


ここで選択肢を間違えたら.....死ぬ。

でも何だろうかこの怒りは。

俺だって死にたい最中に居るのに.....何だか怒りが湧いてくる。

死ぬという事を軽々しく言う.....千穂に頭が来る。

俺の苦しみは何なのだろうか。


「お前.....さ。俺もイジメを受けているんだけど.....」


『.....え?』


「絶対に許さない。お前が死ぬって言うなら俺も死ぬ。今この場で」


『何を.....それは.....駄目だよ!ご両親に迷惑が掛かる.....』


何を言ってんだ!お前だって迷惑を掛けているだろ!

全然、大声を出さない俺から大声が出るとは思わなかったが.....出た。

だが次の瞬間。

電車がカンカンと音がしてゴォーッと通り過ぎる音がした。

俺は血の気が引く。


「おい!千穂!千穂!」


その必死の呼び掛けに.....千穂が電話に出た。

涙を流して.....嗚咽を漏らしている。

どうやら.....死ななかった様だ。

俺は.....心底安心しながら千穂に語り掛ける。


「.....お前が死ぬのは自由だけどな。だけどな.....後に残された俺が.....お前の母親が父親が。苦しむんだ。考えてくれよ.....頼む」


『分かった.....』


「千穂。今度会おう。折角なんだし.....」


『.....私に会ってどうするの?私.....こんなにストレスで痩せてボロボロ.....』


俺は.....眉を顰める。

言い淀む。

だが.....意を決して赤面で答え、カーッと熱くなる。

喉を鳴らした。

そして思っている事を口にする。


「俺は千穂が好き」


『.....え?』


「どんな姿になっていようが.....俺はお前を愛している。お前の.....胸元に有る箱の中身を教えてもらってない。だから.....自殺なんて許さない」


『.....それって本当に?』


涙声が聞こえる。

震えている。

しかし.....こんな感じで再会と告白をするとは思わなかった。

思いながら俺はスマホを握って上着を着る。


「その発車音はこの近所と思う。迎えに行く」


『.....でも.....』


「イエスかイエスだよ。千穂が言えるのは。だから.....迎えに行く」


答えが無い。

だけど迎えに来て欲しいと言う感じの言葉の途切れかただ。

千穂がどんな姿であっても。

俺は千穂が好きだから。

だから.....死ぬ時は一緒だから。


「迎えに行くから」


『.....はい』


これは.....俺と千穂と。

周りの奴らによる.....ラブコメだ。

ラブコメって言えるのかどうなのか、だけど。

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