第1話「告白」
高校一年生最終日。
みんなにとっては
でも、私にとっては違う。
今日は、十六年の人生のなかで最も勇気を
生まれてはじめて好きになった人に……
昨日、片想いの相手である、同じクラスの
西内くんからはすぐに【わかった】と短い返信が届いた。
スマホで
ただでさえ
すぐに連絡がきてうれしかったけど、一言だけのメッセージに胸がチクリと痛んだ。
「めんどくさいと思ってるのかなぁ。いや、でももともとそういう人かもしれないし……」
屋上で西内くんを待っている時間は落ち着かなくて、独り言をつぶやいたり、うろうろ歩き回ったりしていた。
女子から〝クールな王子様〟と呼ばれている西内くん、本当に来てくれるのかな。
来てくれなかったらどうしよう。
いっそ、ドタキャンされたほうが楽なのかもしれない。
ふられたらもう生きていけないかも。
自分で告白すると決めたくせに、いざこの日を
進級して違うクラスになって、接点がなくなってしまうことが
西内くんに新しい出会いがあって、彼女ができるかもしれないと思うと怖かった。
何も行動できないまま
「やっぱ無理だよぉ。
半泣きになりながら、カーディガンのポケットからスマホを取り出してアプリを開く。
昨日メッセージを送ったのはぜんぶ夢でした、なんてバカな期待をしたけれど、西内くんとのトーク
深いため息をつきながら未読のメッセージを
【
同じクラスで一番の友達、
千秋ちゃんは最初の
性格や
西内くんのことも親身になって話を聞いてくれたな。
〝持つべきものは友〟って言葉が身にしみるよ。
【ありがとう、気持ち伝えてくるね!】
千秋ちゃんに返事を送ったタイミングでよろけてしまうほどの風が
もう三月なのに、まだまだ風は冬仕様。
ブレザーの下にセーターを着て正解だった。
……って、今はそんなことどうでもいい。
強い風のせいで背中まである
「もう、せっかく朝から頑張ったのに、これじゃ台無し……」
スマホの内カメラを起動させて髪を直していたとき、ギギギ、と鉄の
屋上にやってきたのは、
彼は一歩一歩、私のところへと近づいてくる。
まだ髪を整えている最中だったけどあわててスマホをしまう。
どうしよう。
身だしなみも心の準備もできてないよ!
「悪い。……待たせた?」
「う、ううん。私もいま来たところだよ」
ありがちなセリフを口にしながら、なんとか落ち着いているフリをする。
「それならよかった。……屋上ってけっこう寒いんだな。もう春なのに」
「高いところにいると、余計に寒く感じるのかな」
「そうかもしれない」
「……かもしれないね」
あたりさわりのない天気のお話。
いきなり呼び出されて気まずいと思っているのかな。
どことなく顔がこわばっているようにもみえる。
ふたりきりで話すなんてあの時以来だし、当たり前か。
呼び出した私でさえ、どこを見てどんな態度で接したらいいかわからないのだから。
西内くんはすっきりとした目鼻立ちが
今日も制服、とくにネクタイがよく似合っている。
そんな彼が目の前にいるっていうだけでテンパって、どうやって話を切り出せばいいのかもわからない。
あんなに頭の中で練習したっていうのに……。
「それで……話っていうのは?」
「あ、そうそう! あのね……ええと……」
まさか彼から切り出してくるとは思わなくて、うまく言葉がでてこなかった。
どうしよう、早く本題にいかない私にあきれているのかもしれない。
西内くんの
わざわざ時間をさいて、屋上まできてくれたっていうのに。
早くちゃんと用件を伝えなくちゃ。
そのために、昨日時間かけて文章を作って、勇気を出して連絡したんだもの。
静かに深呼吸をして、ぎゅっと目をつむる。
セーターのすそを
……告白しようと決めたときの気持ちを思い出して、私!
「わ、私……西内くんのことが好きです! つ、つ、つきあってください!」
口ごもった。声がふるえた。
でも、言いきった!
私、ちゃんと伝えられたんだ……。
無事に告白することができてほっとする。達成感もおぼえた。
……でも、それと同時に生まれたのは、返事を待つという怖さだった。
西内くんがどんな反応をしているのかさえ、たしかめることができない。
ふたりの間にはしばらく
計ってみたらほんの数十秒かもしれない。
けれど、私にとってはまるで時間が止まったかのように重く感じられた。
どうして
いきなり告白されて困っているのかな。
どうしよう、怖い。
セーターのすそを握る手がふるえる。
目を閉じているせいか、やたらいろんな音が気になり始める。
ひゅうひゅうと冷たい風の音、ドクンドクンとうるさい心臓の音。
そして、西内くんが大きく息を吸う音。
彼が何かを言おうとしてるんだってわかった。
同時に、覚悟も決めた。
ふられても
教室に
千秋ちゃんになぐさめてもらうんだ、って。
「──
「……え?」
まるで予想していなかった言葉を聞いて、思わず目を開けた。
ゆっくりと顔を上げると……真っ赤な顔をした西内くんと目が合った。
彼はすぐに私から顔をそらす。
キレイな
……これって、もしかして、期待しちゃってもいいのかな?
私の告白を、西内くんが喜んでくれている。
受け入れてくれるかもしれないって。
「でも」
あわい期待をもった
〝でも〟という接続詞から、私にとってよくない内容であることは予想がつく。
そう言ったっきり黙りこくってしまった西内くん。
すぐに続きを話そうとしないのはきっと……私を傷つけないように言葉を選んでいるからだ。
いったい何を話そうとしているの?
私の気持ちはうれしいのに、こたえられないのはなぜ?
まだ続きを聞いていないのに、
一瞬にして天国から
泣いているところを見られたくないと思ってうつむこうとした、その時だった。
「俺と付き合ったら
……どういう、意味?
西内くんは少し間を置いて、話を続けた。
「放課後や休日は
西内くんの表情は
彼の申し訳ないという気持ちが伝わってくる。
私は正直理由を聞いてもピンとこなかったけど、西内くんが私を
やっぱり西内くんは
改めて彼のことが好きだって思った。
なかなかデートできないってわかっていても、私は……。
「私は西内くんのことが好きだから……忙しくても平気だよ」
「桜井……」
どうしてだろう。
二度目の〝好き〟は、彼の瞳をまっすぐに見つめて伝えられた。
今が一番の勝負所だって直感したのかもしれない。
〝私の気持ちがうれしい〟というあの言葉が本当なら、こたえてほしい。
そんな簡単にあきらめられるような想いじゃないって、西内くんに伝わってほしい。
心の中で何度も
「ありがとう。俺も桜井のことずっと気になってたんだ。今日からよろしくな」
「……うん!」
西内くんが優しく
やった。私の気持ち、受け入れてもらえたんだ。
そして、まさか西内くんも私を気にかけてくれていたなんて……こんなことってある?
飛びはねて喜びたいくらいにうれしいよ……。
西内くんのはにかんだ顔を見つめながら、これから
──このときの私は、
〝普通の恋愛できない〟ことがどういうことなのか、理解できていなかったのだ。
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