小説版 パラレルスクールDAYS/三津留ゆう

プロローグ



 誰もいないろうの先、窓の外に広がる空は、夕焼けも終わりかけのあいいろだ。

 そのせいで、放課後の校舎はうすぐらくて、昼間とはぜんぜんちがふんで……。

 高校生になって一年と四か月、通い慣れたはずの学校なのに、なんだか別の世界に迷い込んでしまったみたい。

 心臓が、口から飛び出そう。

 声を出そうと開いたくちびるがふるえてしまう。

 でもそれは、夜の学校にどきどきしているからじゃない。

 わたしの前には、背の高い彼が立っていて──。

「あの……わたし……」

 やっとの思いで、わたしは言った。

「……ずっと前から、好きでした。つき合ってください」

 彼のかたが、おどろいたようにいつしゆんこわばる。

 その反応を見ていられなくて、わたしは彼から視線をそらした。

 一学期の終業式。

 夏休みで会えなくなってしまう前に、彼に気持ちを伝えなきゃ──。

 そんなふうにあせっていたから、この先どうえばいいかなんて、まったく考えていなかった。

 彼が、小さく息を吸う。返事をしようとしているのだ。

 ハッとして、わたしは意識を引きもどした。

 そのときだ。

 頭の上のけいこうとうが、チカチカとまたたきはじめた。

 寿じゆみようむかえるぎわ、なにかをうつたえようとするみたいに。

(えっ……なに?)

 きょろきょろとあたりを見回すと、教室の中で、なにかがぼんやりと光っている。

(あれ……スマホのバックライト?)

 もしかすると、生徒が残っていたのだろうか。

 どきりとしてそちらを見た、その瞬間。

 廊下の蛍光灯が消える。

 教室の電気が消える。

 街の明かりが消えていく。

 停電だ。

 暗くなった教室の窓は、きれいなグラデーションをえがく夕方の空を、絵画みたいに切り取っていて──。

 カーテンが、ふわりと夏の夜風をはらんだ。

 静かにれるカーテンの向こうに、一番星がかがやいている。

 わたしは、目の前にいる彼のほうへと向き直った。

 いつのまにか、教室にいた誰かの気配は消えていた。

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