非常時以外は開けないでください 寝癖
1
「お前のことが好きだから付き合ってほしい」
窓の外から照り付ける
「お前が好きだ。ずっとそばにいてくれないか」
二人だけの音楽室では克也の声は
それでも克也は続けた。
「お前のことが好きなんだ。俺と付き合ってください」
克也の言葉を
「いや、なんぼほど練習すんねん! もうええやろノイローゼなるわ。何回も何回も」
告白の練習に付き合わされていた隆はうんざりとしていた。
「アホか! 初めての告白やぞ! これくらい練習せなどうすんねん!」
これでも物足りないという気持ちで親友の隆に言い返す。
「そもそも告白の練習ってなんやねん。思ったことそのまま伝えな、そんな演技みたいなもんで
「練習せんと、
「じゃあ百歩
「お前はほんまアホやなぁ。
「はぁ?」
「好きやねん付き合ってくれへんか? 『えっ? やねん……ってどういう意味?』あっえっと、好きだからみたいな感じかな? あのなんというか、亜美も俺のこと好きだったら、いいなみたいな……いや、なんでもないです!! ……ってなったらどうすんねん!!」
「なるかー!! お前、大阪弁を異国の言葉やと思てんの? ほんで万が一、それで伝わらへんようならそんな
「その辺は愛でなんとかなるやろ!!」
「おぉ、お前の気持ちが強いのだけは伝わったわ」
高二の初め、東京の高校から転校してきた亜美に、克也が
それから三ヶ月、たびたび隆に相談を持ちかけていた。
そしてようやく来週、近くの
そこで亜美に人生初の告白をしようと考えていた。
隆が考えた作戦はこうだ。
隆と美香を二人きりにさせるために気を
ベタ過ぎるという反論に、こういう時は
こと
2
河川敷には屋台がたくさん並んでいる。
まだ花火が上がる時間には
四人で
その道中、亜美に伝えなければならない言葉を頭の中で
それは告白ではなく、隆
中々切り出せない克也に向かって隆が目配せをする。
意を決して亜美に近付く。
「なぁ、あいつら二人きりにしてあげへん? 俺らおったら
棒読みに近いそのセリフを聞いた彼女が笑う。
だが、克也の下手な
「いいね、その作戦。なんだかドキドキしちゃうね」
そう言って笑う彼女にドキドキしたのは克也の方だ。
隆と美香が屋台に夢中になっている
これで、この
「うまくいったね」
「そやな」
うまくいくのは当然なのだが、二人で罪を共有したような気がして、克也は
「私たちもなにか食べようよ」
「じゃあ東京コロッケ食べよか」
「東京コロッケって何?」
「えっ? 亜美、東京から来たのに知らんの?」
「えー知らない、食べたいな。行こう」
人混みの中、ゆっくりと屋台に向かう。
「これが東京コロッケ?」
「ほんまに知らんねんな」
「
「ほんまに? じゃあ東京コロッケちゃうやん」
「そうだね、大阪コロッケに名前変えてもらお」
「誰に言ったらええんやろ?」
「んー、府知事とか?」
「まぁまぁ大ごとやな、政治が
これがほんまのまつりごとやな、という言葉を東京コロッケと一緒に飲み込んだのは克也の好判断だったに違いない。
二人が屋台に夢中になっていると、
「あれもう始まったん? 全然見えへん……」
克也が言うのを
「もう始まる時間なの? 屋台に夢中になり過ぎちゃったね。もっと見えるところに行こう?」
「ここの屋上からだったらよく見えるはずだよね」
亜美が階段を
「あかんて、勝手に。見つかったら
克也も後から付いていく。
「
屋上へと
「非常時以外は開けないでくださいって」
克也がそう言うと、亜美は幼い子どもがいたずらを思い付いた時のように、
「花火大会は非常時でしょ?」
と
「見て見て、すごい
とはしゃぐ彼女の
3
「練習の意味は?」
「はい?」
「告白の練習や」
「はぁ、すいません」
「本番でやらんねやったら練習なんかやめてまえ!! 練習のための練習やったらいらんぞ!!」
「すいませんでした!!」
花火大会翌日の音楽室では、名監督から熱血コーチへと
「なんで告白せんかなぁ。二人きりでいい感じやったんやろ?」
「いや
「まぁでも、美香に聞いたら亜美も楽しかったって言ってたみたいやから進展はあったんちゃうか?」
「ほんまか?」
克也の顔が目に見えて明るくなる。
「でもな、亜美、人気あんねんから
「そうだよな」
「次はお前、一人でデート
「わかってるんだけどな、難しいよな」
「男やったら当たって
「そうだよな。俺
「そうやな。それはそうと……標準語やめろや! 気持ち悪いなぁ!! 何を一日で亜美の
「あぁわりいな」
「それを言うてんねん! わりいてなんやねんムカつくなぁ」
「まぁまぁそうカッカすんなって」
「告白できひんかったくせになんでカッコつけれんねんこいつ」
隆の前ではふざけている克也だが、亜美を目の前にするとどうしても
好きだと言おうとするだけで、顔が紅潮しているのが自分でもわかる程に。
このままではいけないことを克也は知っている。
隆の言う通り亜美は人気があるから、取られてしまうかもしれない。
それだけは絶対に
「よし! 今日帰りに告白してくるわ」
「いやそんな、ちょっとコンビニ行ってくるわ! みたいな感覚で告白すんなよ」
「そんな軽い気持ちちゃうわ! 24時間いつでも近くに居てあげられる存在になりたいねん」
「コンビニにかけたつもりなん?」
「いつだって必要な物が
「それは都合のいい男ちゃうんか? コンビニにたとえたい気持ちが強過ぎて、自分を下げる形になってるで?」
「そんなことないわ! 俺の亜美に対する気持ちは、ボリューム満点、激安ジャン●ルやぞ!」
「コンビニちゃうやんけ! 気持ちディスカウントしてどうすんねん。もうええわ、それより告白のセリフ決まったんか?」
「当たり前やろ」
「なんて言うねん」
「あなたとコンビになりたいですって」
「ファ●マのキャッチフレーズ!! あかんよそんなん。今はコンビニの話してたから伝わったけど、いきなりそれ言われてもキョトンやって」
「マジでか? けっこう気に入ってたのにな」
「シンプルに好きです。でええから、あとはどうにでもなる! がんばれよ!」
4
いつもはうるさいだけの
亜美を連れ出す決意をする。
授業が終わり、帰ろうとする彼女の元へ克也は向かった。
「亜美、ちょっと来て」
「どこに?」
「いいから」
「ねぇ、どこ行くの?」
先へ先へと歩を進める克也に向かって亜美が問いかける。
「屋上」
克也が階段を駆け上がる。
「屋上って、勝手に入ったらダメなんじゃなかったの? 見付かったら怒られるよ?」
亜美も後から付いていく。
「その時は、俺のせいにしていいから」
二人は屋上へと繫がるドアの前に立つ。
「今日は非常時じゃないから入っちゃダメだよ?」
昨日と同じように亜美が笑う。
その顔がたまらなく
「お前のことが好きや。だからここで告白すんねん」
そう言ってドアを開ける。
あっ……、と克也が自身から出た言葉に
二人の間に短い
真夏の
「それは非常時だね……」
と彼女は少し照れて笑った。
<続きは本編でぜひお楽しみください。>
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