第2章 一瞬で恋をした
「
「本当だね。まさか
今日は土曜日。そして、クリスマスイブ!
私とクラスメイトであり親友の
駅から歩いて七分の、中心市街地にあるライブハウス『
よく見るとひときわ人が集まっている場所があった。あれが入り口かもしれない。私と瞳は
私たちは会場一帯を包む独特の
「花音! やっと来た……。
「わッ!」
急に後ろから名前を呼ばれ、心臓が
「翔!」
勢いよく
(ん? 翔、なんかいつもと
「翔、こんなところで何してるの? いていいの?」
「チケットあげたはいいけど……二人とも、ライブ初めてだろ? なかなか来ないから
「……それでわざわざ? 準備もあるのに、ありがとう翔君」
瞳は翔に向かってにこりと
「あ……。今日はありがとう。瞳さん。花音に付き合ってここまで来てくれて」
「ううん。私も興味あったから。翔君がギターやってるって花音から聞いて、絶対に行きたいって思ってたの!」
「そうなんだ。来てくれて
入ってすぐの受付でチケットを渡し、奥に進む。通路の
奥はロビーで、ここもたくさんの人で
「ね、今日のライブって何時まで? 帰りが遅いとちょっと……」
私はマフラーを小さくたたみ、バッグに
「俺ら『
「つまりトップバッター?」
「そういうこと。だから俺らのだけ聴くなら、花音の門限までには帰れるんじゃない?……どうした?」
「……終わったら、
「勉強?」
信じられない! と言いたげに、翔は目をまん丸くした。
「……だって。受験もあるし、成績が……
「あ。そういえば花音は今日、
瞳の言葉に私がこくりとうなずくと、翔がしれっとした顔で言った。
「テスト明けくらい別にいいだろ」
「よくない! 二人は頭いいけど私は……。今日のテスト、半分以上わからなかった……」
瞳は成績がよくいつも学年でトップテン入りだから問題なし。翔も何事も器用で優等生。学校の
(……いいなぁ。私も『テスト明けくらい別にいい』とか言える
「うちのボーカル、めっちゃかっこいいんだ」
「ん? ボーカル?」
受験のあせりから、ついうつむいていた私は翔の言葉に反応して、パッと顔をあげた。
「『キョウ』って名前なんだけど、歌がずば抜けてうまい。だからま、
「ありがとう。楽しみにしてる。翔君
『STAFF ONLY』と書かれた通路に翔は入って行くと、あっという間に姿を消した。
「楽しみだね。花音」
「そうだね」
二人
これから『初めて』を体験するという実感が
「……ねぇ、中、入ろっか!」
「うん……!」
(わッ! なにこの人の多さ。ぎゅうぎゅう
中は外以上に人で埋めつくされていた。なのに、ステージ上には
少し音量を落としたBGMと、笑顔でおしゃべりをする人たちのざわめきが聞こえてくる。
(人がいっぱいで近づけないけど、意外とステージまではそんなに遠くないかも!?)
ドキドキする胸を押さえ、しばらく待っていたら、
「瞳、出てきた!」
「シッ。もう始まるよ!」
グワアン! と、大きな音が鳴ってビクッと肩が跳ねた。思わず耳を手で
「わ、うるさッ……」
ステージ
(……ボーカルって、どんな人なのかな?)
曲が始まっているのに、まだマイクスタンドの前には誰もいない。
私の周りには、勉強ばかりの日常を忘れさせてくれる
『何かが始まる』という期待で胸の高鳴りが最高潮に達したその時、急に音がぴたりと
「「キャ──ッ!! キョウ──ッ!」」
『キョウ』と呼ばれたその人は、手を振る観客には見向きもせず、まっすぐ進んでいく。
ステージ中央、マイクスタンドの前で立ち止まると、正面を向いた。
真上からコバルトブルーの間接照明がその人を照らす。
みつめていると、彼はギターの
すう……と、大きく一つ、息を吸ったのがわかった。
次の
同時にまるで
(……なにこれ……!?)
そこにあるすべての音が巻きこまれていく。黄色い歓声すら、曲の一部のように感じた。
ギター、ドラム、ベース。それぞれが持つ
観客みんなが大きくジャンプしてリズムを刻んでいた。一つの
その中で私は一人、足を
頭に焼きつくメロディーとフレーズ。激しい楽器の音をすり抜け届く、シャウトが混ざった印象的な歌声に、心が……
彼は、今まで感じたことのない、見たことのない空気をまとっていた。
……
印象的な切れ長で意志の強そうな目。男の人なのに、
「……かっこいい……」
今まで体験したことのない感覚だった。すっかり音の世界に包まれて抜け出せない。
ずっと、歌っていて欲しい。もっと
この
(お願い。終わらないで……)
……すべてを
気がつくと
それが彼、RAISEのボーカル、『キョウ』との出会い。
すべてが彼に染まった瞬間だった。
私は、
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