第1章「信じたくて信じられなくて」②
ただただ教室にいたくなくて、目的もなく早足で
(うざい、うざい、うざい。何なんだよあいつ。何でいつも俺に構うんだ。クラスで人気だからって、俺も
つかさを巻き込んでまで、疾斗をイジって楽しいのだろうか。
(俺も、何で見ちまったんだよ。──何で、こっち見たんだろ……)
つかさも、疾斗を見て
(別に
これ以上、つかさとの
以前──護と仲がよかった頃は、疾斗ももっと人と上手く付き合えていた気がする。人当たりのいい護のそばにいたから、疾斗も他人と
これでは、護がいないと何もできないみたいだ。
(ちがう……護がいないからじゃない。あいつが、俺から
誰より
信じたくて……信じられなくて。
傷ついたり、自己
いつからか、疾斗はそんなふうに考え、誰とも関わろうとしなくなっていた。
自然と足が止まっていて、角を曲がってくる
うつむいていた疾斗に気付き、その人物は
「お……っと。すまない」
「あ、いや、こっちこそ……すみません」
交友関係がほぼない疾斗でも知っている有名人だった。
眼鏡の奥から、切れ長で
全国模試でも上位に入るほどの
彼のうわさを聞く
悠弦の優しさは、他人の疾斗にさえも例外ではないらしい。
「俺もよそ見してたから。ごめんね、嬉野くん」
「いえ……って、え? 何で俺の名前……」
「嬉野疾斗くん、だろ? 知ってるよ。──護の幼なじみだよね?」
その言葉は悠弦の背後に向けられていた。悠弦の後からやってきた人物と目が合う。
染めたわけではない、昔から色素の
悠弦に向けられていた
「疾斗……」
髪と同じく色素の薄い、
物心つく頃から
親友だったのは、一年ほど前までの話。
ケンカらしいケンカをしたわけではない。ただ、護は疾斗から離れていった。
護はそれまで疾斗と同じようにゲームが好きだった。が、ある時から護はぱったりとゲームをやめた。代わりに幼い頃から続けていた
そんな護の様子は、疾斗から見れば少し異常だった。何かから、必死で目を
「お前、何かあったのかよ?」
思い切ってそう
「何もないよ。ただ、ゲームばっかりしてちゃいけないって気付いただけだよ」
違う。
それだけじゃないはずなのに、どうしてかそれ以上、疾斗は護に
疾斗にもゲームをやめるよう
きっと、疾斗と護は生きる世界が違ったんだ。二人とも子どもだったから、気が合ってただけ。
悠弦は疾斗と護を取り巻く空気を感じ取ってか、それ以上はつっこんでこなかった。が、疾斗の顔を見てふと心配そうに
「嬉野くん。何か、顔色悪くないかい?
「……大丈夫です。すみませんでした」
「そんなに気にしないでいいから。じゃあね」
悠弦が
ふと、クラスの女子に
今、護は彼女がいるのか。
疾斗も少し気になっていたところだ。今朝見た夢で、護は誰かのことを好きだと言っていた気がする。……どうして今まで忘れていたんだろう。
「……あのさ、クラスの女子に頼まれたから
目を逸らしていた護が、不思議そうな目で疾斗を見る。
「お前って今、彼女いんの?」
「……は?」
護は心底
(え……)
護はぐっと
「……いない、よ。作る気もない」
平静を装っているが、無理をしているとわかる微笑。
(まさか……こいつがフラれた? でもそれならうわさになってないわけないし、それに……)
(俺が訊いて、どうなるもんでもない。俺なんかに話すつもりもないんだろうし)
何かあったとしても、護に解決できないことを、疾斗が解決できるはずもない。
「あ、そう……。じゃ」
疾斗が先に歩き出し、護のそばを通りすぎたその時。
「疾斗」
「……まだ、あのゲームしてる?」
「は? 何?」
「『Lv99』だよ」
疾斗は答えなかった。次の護の言葉はわかっていたからだ。
「……早く、やめた方がいい。それが疾斗のためだから」
これまでに何度も言われてきた言葉だ。将来のための勉強をしろとか、もっと周りに目を向けろとか、そんなことが理由らしい。
きっと護の言っていることが正しい。勉強は必要だし、疾斗は人に気を
護から
(何で、そんなに簡単にやめられるんだよ……!)
今さらやめられない。
こんな
こちらを向こうとしない護の背中に、疾斗は言った。
「……お前に、そんなこと言われる筋合いない……っ」
護も疾斗の答えはわかっていたのか、反応がなかった。
「護ー? 早く先生のところに行かないと、昼休みが終わってしまうよ?」
「あ、はい! すみません」
何か言おうとしていたのかもしれないが、悠弦が護を呼ぶ声が聞こえてきて、護は早足で悠弦の方に向かっていった。
護は成績も学年上位。剣道部ではエースであり、最近では個人優勝もしている。次の生徒会長は護だとうわさされていた。
そんな幼なじみとは
疾斗が人と
──どっちが先にレベル99になるか、競争しようよ!
護との繫がりでさえ、今はあの競争だけのような気がして、今も疾斗は『Lv99』を続けているのに。
「お前なんかに、わかるかよ……っ!」
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