僕がモンスターになった日/れるりり(Kitty creators)・時田とおる

プロローグ

はや! おもしろいゲーム教えてもらった! いつしよにやろう!」


 そのゲームをすすめてきたのは、うれし疾斗の幼なじみだった。

「……まもる。お前、ノックしろってば。──何だよ、スマホゲーム?」

 自分の部屋に向かってくる足音で、幼なじみの親友、しようどう護だとはわかっていた。疾斗はころがっていたベッドから起き上がり、興奮した護の顔を見上げる。

「そう! 『Lv99』! 面白いんだよ! ファンタジー世界で勇者になってモンスターと戦ったり人助けしたり! 疾斗、絶対ハマるよ!」

 護が自分のスマホを疾斗に見せ、『Lv99』の画面を見せてくる。面白そうだ。さっそくアプリを見つけてインストールを開始する。

「そうだ。どっちが先にレベル99になるか、競争しようよ!」

 にまっと笑う護に、疾斗は冷ややかに言葉を返す。

「別にいいけど、お前が俺にゲームで勝てるとは思えねえけどな」

「なっ……! こ、今回はちょっとだけ僕の方が早く進めてるんだから、絶対勝つよ!」

 護はぐっとこぶしにぎって、キラキラした目でくうを見上げた。

「人々を救う勇者とか、正義の味方とかってさ、やっぱり男のあこがれだよね!」

「お前はどうしてそうずかしいことをさらっと言うかな……」

「心配しなくても、疾斗の前でしか言わないよ。僕、学校ではな優等生だし?」

「自分で言うな。ホントはただのゲーオタのくせに」

 冷たく言うと、護はどさっとベッドにたおれ込んで顔をおおった。

「そうだよ……僕はただのゲーオタなのに何でみんなハードル上げるんだよ……!」

 高校に上がり、一年の一学期も終わろうとしている。顔も頭も性格もいい──改めて考えると腹が立つほどかんぺきな護は、男女問わずクラスの人気者になっていた。

 うだうだ言っている護をりながら、疾斗はインストールの終わったアプリをタップする。『Lv99』はまずは自分があやつる勇者のアバターを作るようだ。さっそくアバターを作り始めた時、ふと護が疾斗を見つめてきた。そして。


「疾斗ってさぁ……好きな子、いる?」


「は!? い……いきなり何だよ!? いるわけねえだろ!」

 護の言葉に、のうにふわふわした長いかみかんだが、それをあわてて打ち消す。

 あんなのは、たかの花。自分にり合うはずがない。

「……そっか」

 護はぽつりとつぶやきつつうなずく。心なしかその耳が赤くなっていた。

 疾斗の手からスマホがすべり落ちる。

「まっ、ま、まさかお前……!?」

「あ、あははははは……」

 かわいた笑い声を発しながら、護の顔がみるみる赤くなっていく。マジなやつだこれ。

「お前、か……彼女できたのか!?」

 疾斗の声に、護の顔からたんに赤みが引き、彼はひざかかえてずーんと落ち込んだ。

「彼女じゃなくて……ていうか、告白もしてなくて……」

 ホッとしたのもつかの間、護の顔を見て、疾斗はすぐにケッと言葉をき捨てた。

「どーせお前ならすぐOKしてもらえるっつの。ほろびろ」

「わ、わかんないだろ! 僕はしんけんなやんでるんだけど!? 蹴るなってば!」

 昔から顔が良くてやさしい護は女の子から大人気だった。告白された数も、疾斗が知っているはんでさえ両手じゃ足りないぐらいだ。なのに、何を悩むというのか。

「チッ! 強くてニューゲーム状態のお前が何を悩むんだよクソが!」

「……死ぬほど口悪いけど、いちおうそれはなぐさめてくれてるんだよね……?」

 さすが幼なじみ。わかってしまったか。こうていも否定もせず、疾斗はアバター制作にもどる。その間も、護のうれしそうな声が聞こえてきた。

「……何かさ、守ってあげたくなったんだ。彼女が弱いとかじゃなくて、こう、大切にしたいっていうか。だれかに対してこんな風に思ったの、初めてだなって」

「あ、そういうのいいです。聞いてるだけで恥ずかしいんで」

「聞いてよ! こんなこと疾斗にしか言えないんだってば!」

 疾斗の気のない返事に、護は不満そうだったが、聞いてるこっちが恥ずかしい。

 きっとそれだけ護におもわれているなら、相手も大切にされていることを感じ取っているにちがいない。そして護は、ちがいなくその子を幸せにできるやつだ。

 絶対に言ってやらないけど、疾斗のまんの親友なんだから。

 ちょっとムカつくけど、彼女ができたあかつきには、ちゃんと祝ってやろう。

 ふと、不安とともにふわふわの髪が疾斗の脳裏によみがえる。

 ないと思いたい。でも、もしもだったら……疾斗に勝ち目などあるはずがない。いや、別に、そういうのじゃないけど。

「ち、ちなみに相手って……誰?」

 疾斗がおそる恐るたずねると、護はそのの名前を口にすることすら恥ずかしそうな、でも嬉しそうな顔をした。こんな護の顔を見るのは初めてだった。

 幸せそうながおの護に、何だか疾斗まで嬉しくなってしまう。




「■■■■だよ」

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