視えるふたりの恋愛相談室/おみの維音
第1話「それは幼なじみの恋のゆくえ」①
世の中にはごくまれに、人ならざるモノが
私──
視えるものは
幽霊といってもピンからキリまであって、うっすらと
どうして
もちろん、私が通う高校にも幽霊は存在する。
『
『ミィー』
『あ、今日はエビフライが入ってる』
中庭のベンチでお弁当箱を広げているところにやってきたのは、幽霊のなかでも積極的に
自分が食べるわけでもないのに、お弁当箱を
ベンチにあがって私のとなりでクワァっと口を開けてから丸くなったのは黒色の猫幽霊、ミィちゃんだ。セイゴ
ちなみに、セイゴが子猫ちゃんと呼ぶのはミィちゃんのことではなく私のことである。
どうしてそう呼ぶのかはわからないけど態度を見るかぎり、からかいの一種だろうと思っている。
高校に入学してから早一年ちょっと。幼なじみに彼氏ができたり、少しだけ
──卒業までそう大きくこの日常が変わるわけがない。
心の奥底では、そんな風に思っていたのだけど。
「束ちゃん……」
セイゴの言葉を無視して
声にひかれるように
今日の昼は彼氏の
それなのにどうしてここに?
よく見れば、彼女の
いったいなにがあったというのだろうか。
「ちょ、寧々、どうしたの?」
「束ちゃんっ……!」
「廉くんが……別れようって……」
彼女がなんて言ったのか、すぐには理解できなかった。
──寧々と緑間くんが別れる?
なんで──その言葉しか、頭には
別れる気配なんて全然しなかった。いつも
それなのにどうして急に……?
寧々になんて声をかけたらいいのかわからず、私はただただ彼女の背をさすることしかできなかった。
授業に出ると言ってきかなかった寧々をどうにか説得して保健室に送り届けた私は、午後の授業に出るために教室へと向かっていた。
寧々は
『子猫ちゃん、
ひっそりとついてきていたセイゴに
教室まであと少し。というところで、ふと
「緑間くん!」
呼び声に反応して足を止めて振り返った緑間くんの表情に私はぎょっとする。
「ああ、結野か……」
緑間くんはひどくつらそうな表情をしていた。それは、どう見ても自分から別れを切り出したとは思えない感じだった。
かける言葉が見つからないでいると、緑間くんは
「結野、悪い。あとは
そう言って声をかけるまえに行ってしまった緑間くんの背を、私は
「なにあれ」
『うーん、ちょっと前からどこか思い
首をかしげながらそう言ったセイゴに思わずキッと目線を送った。
──なにか察してたのになんでいまのいままで言わなかったの!?
はっきりとそう言いたくても、人が多く往来するこんな場所じゃ声にすら出せない。
でも、セイゴは私が言いたいことを察したらしい。
『だって、ふたりでいるときはいつもどおりだったし、てっきり部活のことで悩んでるんだと思ってたんだよね』
たしかにふたりのときの様子が
だけど、あまりにも
『そうだ。彼に頼めばいいんじゃないかな?』
突然、思い出したように言ったセイゴに私は首をかしげた。
──彼? いったい誰のことだろうか?
その答えはすぐにセイゴから返ってきた。
『
いつも浮かべている
五限目の授業に入ってからも一方的に説明を続けたセイゴの言葉を要約すると、学園にいるふたりのスクールカウンセラーのうちのひとり、
しかも、先生に相談すると一〇〇パーセントうまくいくらしい。
ただ、うまくいくというのは必ず
先生のことは入学式のときに一度だけ見たけれど、遠目でもはっきりとわかるぐらいすごく顔が整った人だなという印象だった。
イケメンというよりは美人。中性的な顔立ちだと思う。それ以降は視界に入ったことはなかったし、訪ねたこともないので実際にどんな人なのか私は知らない。
ただ、セイゴが言うには、性格は難ありらしい。
どう難ありなのか。
気になったので授業が終わってすぐ、クラスメイトの女子に声をかけてみると。
「人見先生? 見た目と中身のギャップがすごい」
「言葉に少しトゲがあるけど、親身に聞いてくれるよ」
と言われた。なるほど。これは少し身構えて訪ねたほうがいいかもしれない。
ついでに、
「結野さんも恋愛相談?
と、にこやかに
あきらかに
そんなわけで放課後。セイゴに
──ないわー、まじでないわー……。
私は遠い目をしながらも、
──なんでカウンセラー室のまえに、大量に
そもそも、
入学してこれまで来たことがなかった場所なだけに
どうりでセイゴが
私は指を
……
問題があるとすれば、ここにいる幽霊がほぼ人と変わらない、セイゴたちのようにはっきりとした幽霊だということ。そういった幽霊はだいたいが意思を持っていて
意思持ちで喋る幽霊というのは
幽霊たちは散ることなく、まるで野次馬のようにカウンセラー室の前を
いくら幽霊を見慣れてるとはいえ、正直これは
この、
出来ることならこのまま帰りたい。激しく帰りたい。
でも、ここまで来たからには意地でも行く。動くなら、なるべく早いほうがいいのだ。
すべては
「そんなところでなにをしている」
「っ!」
予期していなかった背後からの呼びかけに
どうにか体勢を立て直して私は勢いよく
なにせ、うしろにいたのが目的の人物だったのだから。
「ひ、人見先生……」
先生は片手に書類を持って
こうして先生を間近で見るのははじめてだけど、目測で一七〇センチちょっとの身長にさらさらで少し長めの
「二年の結野束だな。なにかあったのか?」
「ぇ、あ……」
顔を見ただけで学年どころか名前すら
「なんで名前……」
「全生徒の名前と顔は大まかだが
どうとでもないとばかりに言いきった先生だけど、この学園の生徒と言ったら八〇〇人ぐらいはいる。それを覚えられるというのは頭がいいどころの話ではない。
「それで、君はここでなにをしている」
啞然としていたら先生に
「あ、えっと。人見先生に用があったんですけど……」
まさか幽霊のせいでカウンセラー室に行けませんでしたとは言えない。
先生はじっと私の姿を見たかと思うと、軽く首をかしげた。
「君も恋愛相談か? 必要そうには見えないが」
言葉にトゲがあるどころか
たしかに
でも、気にしたところで先には進まない。ばっさりと言い切られたことにムッとしながらも、私はそれらの言葉を飲み込んだ。
「……相談したいのは私のことじゃなくて、幼なじみのことです」
いつもより少し低めの
少しの間のあと、先生はなぜか
「ふむ……確かにそのようだな」
「?」
──いったいなにをもって確信したのだろう?
先生の
「しかし、それがここで立ち止まっていた理由にはならないが……まあいい。ついてきなさい」
先生は私を追い
私も先生を追おうとしたけれど、カウンセラー室のまえにいる幽霊たちが再び視界に入って思わず足がすくむ。
だけど、次の
先生が幽霊に近づいた
ぽかんと口を開いてその光景を見ていたけれど、先生が
行くならいましかない。
──女は度胸!
そう自分に言い聞かせて、私は先生のあとを追った。
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