第1章「再会」
「裁判同好会は、もう無い……!?」
押し売り男に会った翌日の昼休み、美空は職員室に来ていた。
初めて正々堂々断れたことに自信がついて、従兄の入っていた裁判同好会への入部を決めたのだ。
ところが、担任教師は「それは無理だ」と返してきた。
「裁判同好会は、もう無いから」と。
教師が
「たしかに数年前まではあったんだけどねぇ。
「そんな……!」
(クラブ案内に裁判同好会が
教師の言葉に、美空は言葉を失う。
(せっかく勇気を出して先生のところに来たのに……)
職員室はがやがやと
特に用事でもなければ来るはずのなかった場所に美空が来たのは、裁判同好会のためだけだ。
(……海音お兄ちゃんと同じように、高校生活を過ごしたかったのに)
思い通りにはいかなくて、美空はぎゅっと
「…………っ」
教師に何か言うこともできない。
そんな美空をどう思ったのか、担任教師は何かを考えるように
「葉常さん、そんなに弁論したいならさ」
「はい?」
(先生ってば、一体何を言い出すの?)
美空は裁判を学びたいのであって、弁論がしたいわけではない。
なのに、教師は美空の
「こんどの弁論大会、クラス代表として出るといいよ!」
「…………はい!?」
美空が目を大きく見開く。
担任教師がにこにこと
「急だけどさ、いいでしょ? それともだめなの?」
「え、そ、それは、その」
──
本当は美空はそう言いたい気持ちで
(だけど──……)
言葉が
教師の目が気になって、「無理です」と言うことができない。
(あの押し売り男には、ちゃんと言えたけど……)
教師は法律的に問題のあることを言ってきているわけではないからだ。
(そもそも先生には逆らいづらいんだもん)
何も言わない美空の反応を、教師は
「実はうちのクラスだけまだ決まってなかったから、今日くらいに希望者を
「な……!」
(全校生徒!?)
「楽しみにしていて!」
美空が
(全然楽しみじゃないんですけど────!)
■□■
(全校生徒の前で作文を読むなんて最悪すぎる……!)
職員室からの帰り道、階段を歩きながら美空はため息をつく。
弁論大会は約一か月後の五月二十九日、金曜日。
ゴールデンウィーク明けに一度
弁論大会のテーマは『私の夢』ということなので、しっかりとした夢がある美空にとって作文を書くこと自体はそんなに難しいことではない。
ただ問題は、それを
(
考えただけでも気が遠くなりそうな美空である。
(だからって今さら断ることもできないし……)
はあ、と、ため息ばかりが多くなる。
それでも、なんとか一年の教室が並ぶ
「──あ、葉常さん! 待ってたんだよ」
「桃井さん?」
(一体どうしたんだろう? 桃井さんに〝待ってた〟なんて言われるの初めてだよね?)
何事だろう、と美空はまず
萌は気にせず「早く!」と美空の腕を
向かう先はどうやら一Aの教室前のようだ。
「あ、あの、桃井さ──」
「あのね、葉常さんにお客さんなの!!」
「お客さん?」
客、という言葉に美空は首をひねる。
(まさかお母さんじゃないよね?)
とっさに母が
萌は
「ほら、あの人──」
言われて視線を向けると、そこに居たのは長身の男子生徒。
(え?)
「────見つけた! やっぱ君だ!!」
一部だけ赤く染めた、ゆるく波打つ
印象的な甘い目元が、美空に笑いかける。
「俺、君のこと探しまわったんだよね。……君と仲良くなりたくて!」
(えええええええええ!?)
昨日の押し売り男が、美空を見てにこにこと笑っていた。
<続きは本編でお楽しみください。>
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