恋愛裁判 僕は有罪?/40mP・西本紘奈

プロローグ


「────うわです」


 告げた声の冷たさに、は自分自身でこわくなる。

 こんな時に、何の感情もこもっていない声を出せるなんて思っていなかった。

「……え?」

 美空の言葉に、彼が目を見開く。

「ちょ、待っ」と何か言いかけるが、美空は「浮気。ていこう」と彼の言葉をさえぎった。

 何も聞きたくなかったからだ。

(それに……これ以上、ここに居たくない!)

 ぎゅっとにぎりしめた手をかくして、美空は彼をにらみつけた。

 思いかぶのは、何度も読んで覚えていた言葉。

 それを、美空は手にした六法全書とともにきつける。



「民法第770条。

 不貞行為があった場合、またはその他こんいんけいぞくがたい重大な事由があった場合、こんうつたえを提起できます」



「ねえ、待って──」

 彼があせった顔で口を開く。

 だけど、その言葉を聞く前に美空は告げた。

「だから──有罪」


 お別れですね、と美空は彼に背を向ける。

 必死に言い訳する彼の声が聞こえた気がしたけれど、美空はり返らなかった。

(泣きそうな顔なんて見られたくない……!)

 ──……きっと四月のあの日、出会ったことがちがいだったのだ。


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