第6話「コンビニの変」
自宅のプリンターのインクが切れた。ストックはなかった。
頼むぜジョニー(プリンター)、コピーしたい原稿があるっていうのに。
時計を見ると、午後七時半を指していた。今からインクを買いに行ってもいつもの店には間に合わない。仕方なく私はコンビニに行くことにした。
「リホ、今から出かけんのか」
「兄ちゃん」
リビングから顔を出した兄は、顔に
「コンビニ行ってくる。なんか欲しいものある?」
「もう暗いぞ」
「うん」
「……っチ、早く行ってこい」
「う、うん」
相変わらず兄とは会話が
ますます兄が睨みつけてくるので、ぶん
■□■
高性能のプリンターが家庭に
コンビニに
いけるっ、店員はおにぎりを並べていてこっちには気づいてないぞリホコ、作戦開始だ!!
五百円玉を投入。原稿を取り出し、コピー機に並べてカバーを閉じる。この一連の作業があと十五回。早く終われぇえええ!!
「あ、吉村だ」
あと五枚というときだった。その
「ひぃっ、岩迫君!?」
「やっほー
そんな
岩迫君はテニスラケットの入ったバッグを背負い、手には通学
「吉村、家この辺なの?」
「えぇ、まぁ、うん」
「ここ部活帰りによく寄るんだ。買い食い楽しいよな」
「よ、
「羊羹は買ったことないなあ。パンとか
普通じゃないことをやってる私は早くこの会話を終わらせたくてたまらなかった。コピーされて出てくる原稿が彼から死角にあって本当に助かった。
「あ、また
「う、うん」
「よかったあ。あの先生、俺にばっか難しい問題当てるんだよな」
「そ、そうだね」
毎日寝てりゃあ先生も意地悪したくなるよ。それに気づかない岩迫君はもしや天然キャラなのか。
しかしそれも彼なら
「もうすぐ中間テストだよな。吉村、勉強してる?」
「いや全然」
「とか言ってー。本当はやってるんだろ」
やってない。テストは基本
それにしてもよくもこう会話のネタがあるものだな。これがリア
「なあ」
「な、なんスか」
「コピー終わってない?」
ギックーそこに気づきましたか!
あと五枚コピーしたいんだがそんな
そのときである。コンビニに救世主が来店した。
「マイナス二万点五味ー!!」
「うわぁっ、リホ
今! このとき! 現れた五味、いや五味君!!
私は声無きテレパシーを
「サコ先輩、パン見に行きましょうよ」
ナイス!
パンコーナーは店内一番奥。レジ横のコピー機とは正反対。お前はできる子だと思ってたよ!
「ね、早く行きましょうよ! 俺、お
……
「引っ張んなよ五味、じゃあまた明日な、吉村」
顔の横で小さく手を
女子が
危機が去り、私は原稿の回収にとりかかった。
「そうだ、吉村」
「うぁあああああ」
「えっ、どした?」
行ったんじゃなかったの? 五味おめーパンに夢中になって岩迫君を野放しにしてんじゃねーよ!
本日二度目の心臓停止にもはや
「
「は、はい、」
な、なにを訊くというのだ一体。ま、まさかコピー機で何を印刷してるのか訊きにきたとでもいうのか!?
「メアド教えて」
「へ」
「
高二男子がコテンと首を
駄目だ、岩迫君と話していると息が切れる。現実の男の子ってなんて
男子にメアドを訊かれるのは初めてだったせいか、私はちょっぴり
「ありがとな」
「いえいえこちらこそ」
「これで数学の問題、いつでも訊けるな」
「答えをメールで送るのめんどいからイヤだよ」
私は迷った末に名前を『天然岩迫君』と入力した。温泉みたいになった。
今度こそ別れを告げると、私は速やかに原稿を回収してコンビニを去った。
残り五枚の原稿をコピーするべく別のコンビニに行く途中、携帯が
早っ。そう思いながらメールを開く。
『吉村のメアドゲット! 今度部室に遊びにいっていい?』
うっ、
「三日前にはお知らせください、と」
送信。五分とたたずに返信がくる。
『何隠してるんだよ? 気になる。まさかエロ本!?』
「
『五味がすっげー笑ってる。乙女の夢ってなんだよー』
「この世には知らなくていいことがあります。返信不要、と」
携帯を閉じて
『乙女の夢ってなんスか。マジウケる!』
私は返信せずに携帯を閉じた。
<続きは本編でぜひお楽しみください。>
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