第5話「君の笑顔にカンパイ!」

 キタちゃんとタッグを組んだオリジナル漫画の制作に入って三日目。今日の昼休みは、二人で部室に集まって打ち合わせをしていた。

「主人公、こんな感じでどう?」

ぎんぱつ?」

「ううん、白髪しらが

「ベタりめんどいだけでしょ」

「バレたか」

 たいくうの日本。和風ファンタジー。ようかいとかおんみようとか式神とか。題材はよくある感じなんだけど、そこはキタちゃん、独自の色を出してくる。

 漫画の原作ってどうやればいいのか分かんないと言っていたキタちゃんは、得意の小説を書いてきてくれた。それを読んだ私ははかななみだした。二次もそうだが、オリジナルでも泣かせてくる。

 キタちゃんの小説は読んでいると情景がかびやすい。私の頭の中で登場人物たちに色がつき形ができて動き出す。絵にするのは早かった。

「なんかわきやくのキャラのほうが力入ってるように見えるのは私の気のせいなの?」

「いや、まあ、」

「いいけどね。書いてるちゆうであんたの好きそうなキャラだとは思ってた」

 キタちゃんは私のことなどお見通しであった。

 だってだって主人公のおさなみでひようひようとした性格で関西弁で、ってこれでえずにいられるか、いな。BL漫画ではないのだが、主人公へと注ぐ彼のまなしをイヤらしくびようしやしてしまいそうだ。

「あ~完成が楽しみ~。キタちゃん、直してほしいところがあったらばんばん言ってね」

 今日の打ち合わせはここまでにして、かしたお湯を私とキタちゃんのコップに注ぐ。お弁当の私はげんまい茶、パンを買ってきたキタちゃんは粉末のココアにした。二つのにおいが混ざり合って部室にじゆうまんする。

「漫画に関してはあんたの好きにしていいのに」

「ううん。私ね、キタちゃんの小説のふんっていうか空気をさ、かんぺきに漫画で表現したいんだ。今の私じゃ力不足なのは分かってるけど」

「……私もリホのく漫画の雰囲気好きよ」

「キタちゃんっ」

 めつに人をめないキタちゃんが視線を落としてずかしそうに言っている。そんなことされたら私はもう、

せんぱいたち、部室ではやめてください」

 キタちゃんにずずいと身を寄せた私は、部室のドアをにらみつけた。小さなお弁当を持って入ってきたのは一年生の女子だった。

「来たなメグっぺ! えぇいじやだ、私は今からキタちゃんと愛し合うのだ!」

そのは今日はお弁当なんだ」

「無視!」

 と、茶番はここまでにしておいて現在昼休みである。あと三十分しかない、ごはん食べなきゃ。

「メグっぺ、ココアと玄米茶、どっちか飲む?」

「玄米茶のほうをいただきます」

 部室にはたいていのインスタント飲料が常備されている。他にも部員のお気に入りの茶葉やコーヒーが棚に置いてあって、名前がなければ好きなときに飲んでいいことになっていた。

 お昼ごはんはいつも部室で食べているわけではないけど、今日みたいにクラスのちがうキタちゃんと示し合わせてくる場合もある。

 一年生のメグっぺこと園田めぐみは、いつも部室に来て昼ごはんを食べていた。教室で友達と食べないのだろうか、なんてな質問はだれもしない。空気の読めない五味が言いかけていたが、そこは空気の読めるマリちゃんがそくだまらせていた。

 クラスにめないのかもしれない。単にひとりが好きなのかもしれない。

 メグっぺを見ていると、自然と去年のことを思い出す。

 高校一年生のとき、私は中々友達ができなかった。

 自分から話しかけて友達をつくるスキルがあればいいものの、名前もしゆも知らない相手になんてこわくてできなかった。話しかけられればつうに話し返せるけれど、内心はビクビクしていてあまり会話が長続きしない。周りが仲の良いグループをつくる光景を横目に、ひと月たっても机にぽつんと座っているのが私だった。

 そんな私に友達ができたのは、まんけんに入ってから知り合ったキタちゃんのおかげだった。

 家は道場、中学三年間は学級委員長だったキタちゃんの顔は実に広かった。席に座っているだけだった私に知らない子たちが話しかけてきてくれたのは、キタちゃんが働きかけてくれたから。後日、お礼を言う私に、彼女は知らないとしらを切っていたけれど。

「先輩たち、二人で漫画描くんですよね」

「うん、そうだよ。世界のキタガワが原作ですよ!」

「できたら読ませてくださいね」

 私、先輩なのにな、あしらわれてるな。マリちゃんといい、今年の一年はちょっと生意気だぞ。

 まあいいだろう。食べながらだけど、描いたキャラクターを見せてみた。

「メグっぺ、どう思う? たんのない意見を聞かせてくれたまえ」

 惣菜おかずを口に運びながら、彼女の反応をうかがった。口に入れたからげは昨日の夕食の残りなだけあってけっこうかたい。なんとか一個食べ終わったとき、イラストに見入っていたメグっぺが顔を上げた。

「ヒロイン、うすいというか、とくちようないのはわざとなんですか」

「あぁうん。今回の話、ヒロインあんまり動かないんだ。ぼうかん者というか、ええと、キタちゃん、なんて言えばいい?」

「ヒロイン以外のキャラがけっこういからね。存在感は薄く設定してる。主人公引き立てたいし」

「というかむしろ男同士の友情がメインみたいな! みたいな!!」

「なるほど」

 またもさらっと流されたが、メグっぺは漫画やアニメに関してははっきりと意見を言う子なのでこういうときとても助かる。編集者に向いてるんじゃないだろうか。

げん稿こう、手伝ってね」

「はい」

 完成、楽しみですね。

 メグっぺは、はにかんだ笑みを浮かべながら小さくうなずいた。

 やっべ、メグっぺ萌えるんですけど。はだ白いから赤くなったらすぐに分かる。クラスの子達はそういうの知らないのかな、なんかもったいないな。

 私にキタちゃんがいたみたいに、メグっぺにもいたらいいのに。この子がいてくれたらだいじよう、そんな子が。

「なにニヤニヤ笑ってんのよ」

「先輩、不気味です」

 前言てつかい

 今年の一年生はたのもしくてなによりである。

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