第3話「スポーツイケメン現る」
一時限目、数学。
「やばい! 俺今日当たってんのに問題やってない!」
そりゃ大変だ。
数学担当の
「なあなあ吉村、問4やってない!?」
「え」
いきなり話しかけてきたのは問4をやっていない
「……やっ、てない、けど」
「うわーやばいっ」
今は絶望的な顔をしているが、
「吉村、数学得意だったよな?」
「あー、うん、まあ」
「頼むよ、教えてくれない? ジュース
人見知りな私と
「吉村さん、教えてあげたら?」
中々返事をしない私に、別方向から声がかかる。岩迫君の
「時間がない! 頼む!」
「……分かった」
ルーズリーフを一枚取り出し、問4を解きはじめる。基本的に予習復習はしないが、今のところ数学を苦に思うことはなかった。オタクは文系ばかりではないのだよ。
「できた。どうぞ」
「助かった! ありがとう!」
「よかったね、岩迫くん」
私に注がれた女子の視線が
■□■
放課後になると、私はいつものように
キタちゃんと漫画の打ち合わせをしていたところに、珍しく五味から電話がかかってくる。
「もしもし、どーした五味」
『ちゅーっス、リホ
「は? え、ちょっ、」
『吉村? おれおれー』
五味てめぇこっちは心の準備ができてねえんだよ! てか当たり前だけど声が近いっ。男の子と電話するのは
『あれ? 吉村聞こえてる?』
「……き、聞こえてます。なんでしょうか」
『今日の朝、ジュース奢るって言ったじゃん。なのに昼どっか行っちゃうし、だから放課後奢ろうと思ってさ』
「あー……」
本気で奢ってくれるつもりだったのか。どうせイケメンのその場しのぎの
「じゃあそこにいる五味に
テニス部が終わると、たとえどんなに短い時間でも五味は漫研に顔を出す。パシリに使って悪いが、ほとんど話したことがないクラスメイトよりも後輩の五味のほうが
しかしである、ここからが真のイケメンの本領発揮であった。
『そんなのダメだって。お世話になったんだからさ、俺が直接渡したいんだけど。あ、じゃあ、今休憩中だからそっち行っていい? 旧校舎の二階だったよな』
やめろぉおおおおお!!
何を好き好んでテニス部のイケメンエースをこの
「ダメ! ぜったい!!」
『え、なんで?』
「なんでも!! 岩迫君だってベッドの下
『漫研ってそんなヤバいものが
ヤバいのベクトルが違うがそんなものだ。私は彼に旧校舎の
「わざわざ、どうも、」
息を切らしてやって来た玄関ホールには、岩迫君以外の生徒の姿は見えなかった。ユニフォーム姿の岩迫君を見て、
「じゃ、買いに行こっか」
「え、買ってないの?」
「だって吉村の好きなジュース知らないもん」
この
あいつは二次元に重きを置いてるからか、三次元の女の子の
「え、いや、悪いよ」
「あの問題の答えは百五十円以上の値打ちがあるって」
「でも高校生の百五十円はけっこう痛いよ。もっと自分を大事にしなよ」
「さっきの電話もそうだけど、吉村って
そこでニコっと笑うかー!
面白人間扱いされたがまあいい、その笑顔プライスレス。お言葉に甘えてペットボトルの『よっちゃん白ぶどう味』を買ってもらった。
「じゃ、私はこれで」
「うん。また
またがあるのか。
どんな顔をしていいのか分からなかったので
以降、私の高校生活において岩迫君とは深く付き合っていくことになるんだけれど、ジュース一本で浮かれていた私にそんな未来が想像できるはずもなかった。
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