第2話「キタちゃんと、」

 どうもリホコです。しがないオタクです。

 奮発してペイントソフト買ってよかったと思う今日このごろ

 漫画をくのもデジタルの波がやってきている。トーンりでひいひい言っていた昔から一転、今はデジタルトーンという便利なものも登場した。おかげで前ほどトーンに金銭を持って行かれるということがない。ペン入れの大変さは変わらんが。

「リホ、ゲーム」

 パソコンに向かって作業をしていると、いつの間にか部屋に妹が入ってきていた。勝手にクローゼットを開けて、ゲームがある棚をRPGの勇者のようにあさっている。あと私はゲームじゃない。

「ノックもしない奴には貸しませーん」

「うるせえオタクっ、いいから貸せよ」

「貸してくださいお姉ちゃんって言えたら貸してやる」

だれが言うか。持ってくよ」

「別にいいけど。今度あんたの友達が来てるときに部屋に乱入してやる」

 できないがな。あんたの友達こわいし。

「……貸してくださいお姉ちゃん」

「いーよ」

 最後に舌打ちしたけど許してやる。

 そう、会話から分かるようにこの姉を姉とも思わないこいつが我が妹である。ギャルメイクを落とした今、まゆが半分ないのがこつけいだ。

「また漫画描いてんの」

「うん」

「キモっ」

「はいはい」

 ここはおん便びんに済ませるのがきちである。に反発しようものなら、やつは頭を一ピクセルも使ってないようなぞうごんき散らしパソコンをなぐってくるからだ。妹よりもはるかに繊細で高価なパソコンのためなら私は何を言われてもかまわない。

「ソフトも持ってくからね」

 最後までえらそうにうと、妹はやっと出て行った。しかもとびらは開けっ放しという、無礼もここまでくると後はため息しか出てこない。

 それにしても夏の祭典に向けてそろそろ動きだすべきだな。まだ三ヶ月以上はあるけど今年は新刊三冊出したい。キタちゃんもがんばるって言ってたし、そうだサイト見てみよう。

 このネット時代、自家生産するオタクであれば自分のサイトをひとつは持っているものである。マリちゃんは読み専だと言っていたが、真実はどうだろう。五味は知らん。

 いつたんデータを保存し、ブックマークからキタちゃんの小説サイトへアクセスした。こうしんかくにんしてみると、今一番たぎっているという作品の二次小説をアップしている。ゆるむ口元を押さえながらキタちゃんの小説を読み始めた。

 最後まで読み終わると、私はの背もたれに寄りかかって、キタちゃんの小説の読後感にいしれた。

 ああもう、なんでこういうのが書けるんだろう。キタちゃんの書く小説の恐ろしいところは、原作を知らないのにのめり込んでしまうところだ。そのせいでこれまでに何度、原作漫画を買いに走ったことか。

 キタちゃんは将来、小説家になりたいのだという。笑っちゃうよね、と言っていたけど私は笑わない。笑えない。だって私も漫画を描いて生きていきたいから。

 険しい道だということも、そう簡単にかなえられるものでもないということも分かっている。でも夢なんだから何を言ったっていいはずだ、言うだけならタダである。

 キタちゃんのことを考えていたまさにそのとき、彼女からのメールがけいたいに着信した。タイトルには『たのみがある』とあった。

 なんだなんだとメールを開き、本文を読んだ私はニタ~と笑った。さっそくキタちゃんに電話をかける。

「もしもしキタちゃん?」

『メール見た?』

「うん、見たよ。ていうか、実は前からやりたいなあとは思ってたんだけどね。でも私から言えるもんじゃなかったし」

 メールの内容は、今度のイベントで出す小説本の表紙絵を私に描いてほしいというものだった。それまでキタちゃんが出していた同人誌の表紙はタイトルのみ。シンプルのひとことにきていた。中身は漫画ではないのだからいいかもしれないけど、キタちゃんの一番のファンを自認する私としては、表紙描きたいなーでも言えないなー、という思いをここ一年ほど胸にかくしてきたのである。

『じゃあ、いいの?』

「いいよいいよ! でさ、ついでと言ってはなんだけど、キタちゃん」

『なに?』

「キタちゃん原作で漫画を描きたいんだけど、だめ?」

 すうはくおくれて携帯の向こうからキタちゃんのさけび声が聞こえた。ときどき高校二年生とは思えないほど冷静な彼女にしてはめずらしいくらいの取り乱しっぷりに、私は少しおどろいてしまった。向こうはもっと驚いたらしく、家族を巻き込んでのそうどうが携帯しに聞こえてくる。

 数分後。キタちゃん原作、絵は私の、漫画の制作が決定した。

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