はるひより 椿 更紗

 ねむい……。

 春の日差し、ぽかぽか。

 私の空っぽ頭に降ってくる。

 カラーリングしなくても色がけたような私のかみ

 やわらかい風にさらさらかれて、目や顔にこぼれてくる。

 そろそろ切ろうかな。かたにかかる髪、結ぶのもめんどうだし。

 うっすらと目を開ければ、机の上にだらんとばした私のうでに桜の花びらが一枚。

 二階の生徒会室にまで花がい込んできたらしい。

 セーラー服に桜って合うなあと思いつつ、再び上まぶたと下まぶたがくっつく。

 このままたい。

 大仕事の前にちょっとだけひと休み、と窓際の机にっぷしたのが運のつき。

 眠い……。

 起きたら体がバキバキになっているのは百も承知。でも眠りのあくには逆らえない。

 お日様ぽかぽか……。



 ぴくっ。

 だれ? 私の耳にれるのは。

 こぼれた髪をすくい上げて、こめかみから耳の後ろに引っかける。

 触れるか触れないかの指の先。

 髪の上をゆっくり流れる指が、うなじギリギリまで降りてくる。

 不思議。

 さわられているのは神経なんか通っていない髪なのに。

 ミクロのしんどうが伝わるの? 頭皮に、

 じゅわっ……

 じゅわっ……

 くすぐったい、とはちがう。

 快感? よくわからない。

「起きてくださいせんぱい………生徒会長」

 ……いや

 だってもっと触れていてほしい。

「入学式始まりますよ。祝辞やんなきゃですよ」

 どうでもいい。

 私は眠いの。

 君だって、口では私を起こしてるくせに、指は変わらず髪の毛の間を行ったり来たりしてるじゃない?

 直に、じゃなく。

 触れるか触れないかのギリギリのところで、ゆっくりと線をえがくように。

 本当は起こしたくないんじゃない?

 1学年下の書記殿どのはいつもこうやって、なんらかのいたずらを生徒会長の私にしてくる。

 君は知らないでしょう?

 最初は君が私の肩に触れるだけで、はらいたいほどうっとうしいと思っていたなんて。

「なんでいつもおこってるんですか?」

 君はそう言って、私にねた顔を見せる。

 そんな君を見てると怒ることもできなくて、ため息ついてたことなんて。

 だんだん面倒くさくなって好きにさせてるうちに、気がつけば触れられるのが嫌でなくなっていたことなんて。

 君は知らないでしょう?

 もう少しこのままで。

 このゆるい時間の中でふわふわいていたい。

「起きてくれないと困るんです。だって」

 ふいにまぶたに届いていた日差しがさえぎられた。

 びくんとふるえる私。

 触れるか触れないか。

 かさついた、でもあたたかな熱を持ったものがほおかすめていった。


「このままじゃ先輩を好きになりすぎる」


 耳の近くでささやかれたその言葉に。

 からっぽ頭はすっかり目覚めたというのに。

 かえって起きることができなくなって。

 きつくきつく、私は目を閉じ直した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る