第2話「騒がしい入学式」①

 今日も昨日に負けないくらい春の日差しがポカポカとここよい気持ちのよい朝。

 とうとう私も高校一年生だ。


 今日から通う高校は、親友の真美に、

「制服がとにかくかわいいの! 雑誌の制服ランキングでもいつも上位なんだよ? 杏、一緒に受けようよー!」

 とさそわれて受験した高校。

 たしかにかわいいものに苦手意識があった私でも、ここの制服は一目で気に入るくらいかわいいデザインだ。


 上質のベージュ色のブレザーは黒色でふちられていて、制服とは思えないくらいかわいい。

 スカートはグレーと白のチェックの少しミニたけのもの。

 大きくて真っ赤なリボンが、女子の制服で一番のポイントだ。

 そんなかわいい制服が意外と自分ににあっていて、ニヤニヤしながら鏡を何度も見てしまう。

「いいかげん起きてきなさーい! 入学早々、こくするわよー!」

「はーい!」


 その声を聞き、朝食を食べ、もう一度げんかんにある鏡でチェックした後、私は大きな声で両親に声をかけた。


「行ってきまーす!」

「はーい、行ってらっしゃい! お母さんたちもあとから行くからねー」


 今日は入学式だから、両親もあとから来る予定。

 せっかくのかわいらしい制服なんだもの。

 親友の真美といつしよに高校の正門でたくさん写真をってもらおう。

 きっと、私の数少ないかわいらしい服を着た貴重な写真になるはず。

 そんな考えにかれながら家を出ると、門を出てすぐとなりからまくをやぶくくらいの男の子の大きい声が早朝の住宅街にひびいた。

「あぁっ!!」


 ビクッ! と上がる私のかた

 おそるおそる声の主の方を向くと、予想通りの人物がそこに立っていた。


「杏ちゃん!」

「はぁ……」

 私の姿を見つけ、満面の笑みで名を呼ぶ隼介と、重いため息をはく兄の涼真が相良家の玄関から出てきた。

 しかも二人は、私が通う高校の男子の制服とそっくりな服を着ている。

 いつしゆんにしていやな予感がした。


「ま、まさか……あなたたちが通う学校って……」

「杏ちゃんのそのかわいい制服、俺たちが通う学校と同じ制服だよね。ということは、俺たち一緒の高校なんだ! うわっ、スッゲーぐうぜん! 杏ちゃん、俺たちやっぱり運命……」

「行くぞ、隼介。遅刻する」

 隼介の大きな声は涼真が制服のえりを引っ張ると苦しそうな声に変わる。

 そしてズルズルと私の目の前を弟を引きずって通り過ぎていく涼真と、引きずられてもがおを絶やさない隼介。


「ちょっと、アンタも早く行かないと遅刻するよ。時間、結構ギリギリだから」

 私の前を通って行った涼真がり返って私に声をかける。

 おどろいてかたまっていた私は、そこでハッと意識がもどった。


「い、行く行く! 学校行かなくちゃ!」

「俺も弟のめんどうを見て転校初日から遅刻なんてごめんだからな」

「杏ちゃんと一緒に初登校だなんて最高だね」

 学校が同じだから、私は自然と相良兄弟に合流する形で初めて通う高校の通学路を歩き始めた。


 新しい制服を着て、本当なら浮かれた気持ちで見なれた住宅街を一つ大人になった気分で歩くはずだったのに。

 私にとってあこがれの高校への第一歩という道なのにそんないんにひたれることなく、あわただしい初登校をむかえる。

 駅のホームでも、満員電車の中でも、とつぜん現れたテレビに出てくるアイドル並み……いや、それ以上なイケメンオーラを放つ二人の兄弟の存在感はすごかった。

 それは通学する電車内だけでなく、高校にとうちやくしてからがもっと大変だった。


「うわっ! だれあのイケメン二人! すっごくレベルが高いんだけど!」

「芸能人かなー? テレビカメラ来たりしちゃってる?」

「顔、結構似てるよね? 兄弟かな? それにしてもカッコいいー!」

 うるさい……相良兄弟を取り巻く、特に女子たちの声がとにかくうるさかった。


 正門をくぐると、私たち新入生はしようこう口へと向かって入学式の受付をする決まりだ。

 さっき電車の中で親は仕事で来られないと隼介が言っていたから、親代わりに涼真が受付を行っている。

 多分、こうなるだろうとは思っていたけれど、兄弟そろってイケメンの二人は、主に女子を中心とした注目の的となっていた。


「うわっ! ちようぜつイケメン発見! なにアレ! あんなスペック高い男子、この高校にいるの!? 杏、知ってた?」

 私のすぐとなりで大きな声を上げたのは、一緒に教室に向かおうと思い正門辺りで待っていた親友の真美だった。

 真美は今日のためにうすい茶色のかみいろのボブカットをきれいに整えている。

 まゆもはだのスキンケアもリップまでもちゃんと手入れをする女子力が高い女の子だ。

 そして、イケメンを見つけるのも高校生になってもおこたらないらしく、相良兄弟を見つけては早々にテンションが高くなっていた。


「真美、声が大きい! しかも私にあいさつもナシにいきなりそれ?」

「だって、ほら! 周りの女子、せんぱい後輩関係なくみんな見てるよ! 周りの男子、ジャガイモにしか見えないね! 周りがジャガイモならあの二人は高級スウィートポテトだわ!」

「おたとえるのやめてよ。それにそんな大声出したら、聞こえちゃう……」

「あっ、笑顔の方がこっちに気付いた! ちょっと、こっちにめちゃ手を振って向かって来るんだけど!」


 真美があっちの方向を指さしながら、私の新品の制服のそでを引っぱる。

 私は二人がいる方を向きたくなくてそっぽを向くけれど、それは隼介の大声のせいでげられなかった。

「杏ちゃーん! 受付ここだよー!? おばさんは来た? あっ、あとで一緒にクラスめい簿見に行こうね! くつ箱の前に張り出されてるんだって! 今、そこで聞いたー!」

「うるさい、バカ。入学早々、目立つことをするな」


 言い終わると同時に隼介が私と真美の前に着いて、そしてうしろからやってきた涼真のげんこつが頭にさくれつする。


 涼真の言った言葉は私も心の中で大きくさけんでいたことだ。

 涼真の言い分にはげしくうなずこうとしたら、その肩は真美の強力な手でつかまれ、ブンブンと振り回されてしまう。


「えっ? なに? えっ? ど、どういうこと? 杏、知り合い……? あんた、中学の時からの親友の私にこんなイケメン兄弟の存在をかくしていたの!?」

「杏ちゃんの親友? さっそくお友達が見つかったんだ、よかったね。俺、杏ちゃんの家のとなりに引っして来た相良 隼介。よろしくねー」

「なんだ、ツレがいたのか。じゃあ、俺はもういいな。隼介、あまり面倒をおこすなよ。アンタ、コイツのこと見てて。よろしく」

「はぁ!? ジョーダンでしょ! やだ、待ってよ!」

 涼真は私に隼介を押し付けると手をヒラヒラッと振り、あくびをしながら私たちの前から去って行った。

 混乱状態の真美とうれしそうに笑顔をたやさない隼介が私をジッと見ている。

 そんな私たちのやり取りが目立たないわけがなく、その場にいた生徒全員と保護者の注目の的となってしまい、入学式が始まるというきんちようかんを味わうよゆうもないまま、校内へと向かった……

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