第1話「イケメン兄弟が引っ越してきた!」②
それは低い声が出た。
十五歳らしくない、低い声。
そんな反応をしても隼介は気にもとめず、次の一口でシュークリームを全部食べ切ると、その早食いにキョトンとしていた私の両手を取り、お
そして熱い瞳を私に向けたまま、ジッと私を見つめる。
「ちょ、な、なに?」
「俺、好きになっちゃったかも……」
「はっ? あっ、シュークリーム? あんまり好きじゃなかったの?」
「違う、違う! 杏ちゃんのこと! こんなにかわいい子で料理上手だなんて本っ当ーに俺好み! ヤバい、運命の女の子に出会っちゃった!!」
「はぁっ!?」
「げっ……」
顔を真っ赤にして
「アホか、お前は。初対面の女に何言ってんだ。そのほれっぽい性格、どうにかしろ」
「兄ちゃん、いてぇ! それに俺はほれっぽくないから。いつだってマジだし!」
「うそつけ。その言葉、
「兄ちゃん、杏ちゃんの前で変なこと言うなよー!」
兄弟二人のやり取りに、ポカンと口が開いておいてけぼりの私。
でも、会話を聞くかぎり、どうやら隼介はほれっぽい性格らしい……
ということは、これも女の子に対するあいさつみたいなものなのかもしれない。
そう考えると落ち着いた気持ちになり、いつもの私が戻ってきた。
そしてコップに入った水を涼真に
「……私、帰るわ」
「えぇ、杏ちゃん! もうちょっと
「お前は片づけだろ。ちょっと、アンタ待って」
〝アンタ〟と言われ、待ってと言われたから待ってみる。
すると、初めて隼介より前に出てきた涼真が、
「きゃあ! なにすんのよ……!」
「動くな。ずっと気になってたんだよ、ここに白い粉が付いてるの。ほら、取れた」
右手の人差し指と親指をこすり合わせながら見せてくれたのは、シュークリームを作った時についたと思われる、
私は自分の雑さに恥ずかしくなり、両手で頭をかくす。
「なに? 頭ポンポンでもされるかと思った? あいにく、俺は隼介みたいにほれっぽくないから」
別に期待したわけじゃないけれど、今の流れじゃそういう考えになるのはしょうがないと思う。
図星だった私は顔に熱が集まり、つい大きな声で言いかえしてしまった。
「そ、そこまで言わなくてもよくない!? 隼介、あんたのお兄さん性格悪すぎ!」
「おっ、杏ちゃん俺の名前、覚えてくれた? うれしー」
「どこまで能天気なんだ、お前は。今、兄ちゃんの悪口を言われたんだぞ」
「悪口を言い出したのはあなたの方でしょ!」
「あははっ! 兄ちゃんとこんなに言い合える女の子、初めてじゃん。いつも
「顔がいい人は得ねー。口が悪くても、許してもらえるんだから」
「それはアンタもだろ。もーいいから帰って。はい、さようなら」
「アンタもだろ」と言われ、「はっ?」とまぬけな返事をした私に見くだすような視線を送る涼真は、そう言うとさっさとリビングに行ってしまった。
まさか
驚いて返事ができなかったけれど、あんな態度はやっぱりないと思う。
「……お
おすそ分けに来ただけで、モヤモヤした気分を持って帰ることになるとは思わなかった。
そして私は相良家を出て、となりにある自分の家へと向かう。
自分の家を出た時はまだ夕日はなかったのに、いつのまにか
「あっというまに時間が過ぎたな……」
と、ひとり言をつぶやく。
「たしかに……まぁ、しゃべりやすいよね。あの二人」
とくに弟の隼介の方は、こっちが会話を振らなくてもずーっと一人でしゃべっていそう。
その時は絶対にあの人なつっこい
兄の涼真はどうかな?
あいさつに来た時からの一連の流れを思い返してみる。
いくら考えても、思い出すのはイラっとくることばかり。
多分、隼介がいなければずっとケンカをしてしまいそう……
「隼介とはしゃべれそうだけど……涼真とは絶対にムリだわ」
またひとり言をつぶやきながら私は自分の家へと帰った。
そして私の帰りを待っていたお母さんに兄弟二人だけしかいなかったことを話すと「今日の夕食もちょっとおすそ分けしてあげましょ! お母さん、その時にあいさつに行ってくるわね!」と、かなり意気込んでいた。
その時はきっと、あの二人のイケメンぶりにすごく驚くんだろうな。
お母さんのその姿を想像して、私は一人でクスクスと笑ってしまう。
案の定、夕食のおすそ分けを持って行ったお母さんが家に帰ってきた時は、「となりにアイドルが引っ
「おとなりさんがあんなにイケメンの男の子の兄弟だったなんて……! 今まで全く
「それは絶対にないから」
一人ウキウキと浮かれているお母さんの声をさえぎって返事をした。
たしかに親友の真美にもとなりにイケメン兄弟が引っ越してきたなんて言ったら、「絶対ラブが始まる!」なんて言われるのかもしれない。
でも、弟はともかく、兄とは初対面なのにあんなにケンカ
そこからラブに発展するなんてことは、天と地がひっくり返ってもありえないと思う。
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