となりのキミに恋したら/りぃ
第1話「イケメン兄弟が引っ越してきた!」①
その日は春らしいポカポカと暖かい気温が
私は家の窓を開けて外の空気を取り入れ、思い切り深呼吸をした。
この春、家の近くにある私立の高校一年生になる。
身長も体重も平均であり、頭も平均なら運動神経も平均値まっしぐら。
でも、中学時代からの親友でもある
「みがけば光る顔をしているのにもったいない! まさに残念女子!」
ということみたい。
真美の観察力は日々、人ごみの中からイケメンを見つけるという特技を持っているくらいだから、多分
そして、
「もう杏ったら。またそんな地味な服を着てるの?」
「だって動きやすい服装が一番なんだもん」
今の私の服は
Tシャツのグレー色だって、休日に必ずする
でも、身に着けているエプロンは、
これはお母さんに「せめてエプロンくらいかわいいのを着てちょうだい!」とお願いされて、去年の誕生日プレゼントに
誕プレでもらったものを着ないわけにもいかないから、しかたなく着ているって感じ。
ただ、そろそろこのエプロンも苺色が
お菓子作りは昔から大好きだ。
学校で
でも、基本的なステータスが女っぽくないのに、お菓子作りが趣味だなんて周りには
「今日はなにを作ろうかなー?」
ご
「あっ、新しいレシピが
見つけたのは、〝サクうま! かんたんクッキーシュークリーム〟で〝かんたん〟というキーワードに
それにお
「よし、これに決めた!」
テンションが高くなり、自然とにやけてくる顔のまま私はキッチンに向かう。
掃除機をかけ終えたお母さんがキッチンにやってきて、「今度はなにを作るの~?」とあきれ半分で聞いてきても、スルーしてストック
そうすると、あっという間に時間は
まず、表面になるクッキー
そして、最後にシュー生地をていねいに作り上げ、クッキー生地と一緒にオーブンで焼いたら、もう家じゅう甘い
「あらぁ、すごい匂い。お外の
そう言いながらも、お母さんはうれしそうに笑っている。
会社のゴルフの接待で今日は家にいないお父さんの分を一つ夜に残しておいて、残りの五つは私とお母さんのおやつにしよう。
一緒に飲むのはミルクティーがいいかな?
それとも、シュークリームが甘いからあっさりしたストレートティー?
そんな気分で胸の中をワクワクさせていると、インターホンが鳴った。
「お客様? 杏、出てくれない? お母さん、洗濯物を取りこんじゃうから」
「はーい」
休日に
宅配便かなにかかな?
いつものように、何気なく私は家の
そこには、今まで見たことがないくらいキラキラと
「ど、どちらさま……?」
イケメンなんて見慣れていないどころか、男子とロクにしゃべったこともない私は引きつった顔をしたまま、目の前にいる
すると、並んでいる
「兄ちゃん、やっぱりここだよ、甘い匂いの正体! スッゲーいい匂いー」
「やめろ、恥ずかしい」
そして「兄ちゃん」と呼ばれた人は、言葉の勢いのまま前に出てきた弟の服のえり首を右手でつかみ、動きを
「な、な、なに……? あなたたち……」
完全にドン引き状態の私に気付いたのか、弟は後頭部を左手でかき、笑ってごまかしている。
そして「兄ちゃん」の方が、左手に持っていた洗濯
「えーっと、となりに引っ越して来た
そう言いながら、洗剤二箱を私に押し付けるようにわたす。
そして、その容姿にも目を見張るくらい
……なんてきれいな顔をしているんだろう、この人。
たいしてセットもしていなさそうな
うん、真美が見たら、絶対興奮してめちゃくちゃはしゃぐような顔をしてるなって思った。
「ありがとうござい……ます」
「ねぇ、もしかしてなんか作ってんの? キミん
ニコッと笑いながら、平気で
私はいきおいよくうしろにのけ反ってしまった。
「つ、作って……たけど……。あっ、匂いおとなりまで届いてた!?」
「全然
「俺、甘い匂いきらいなんだけど」
「あー、兄ちゃんの言うことは気にしないでね」
家じゅうに
なに……この兄弟……
あからさまにいやな態度をしている兄とずっと笑顔の弟……この二人の性格、全く正反対だ。
そんな兄のいやがりかたにカチンと腹が立ってしまう。
「甘い匂いきらいだなんて変わってるのねー。変な人!」
「おっ、甘い匂い当たってる? てことはお
「げっ……。マジで」
そう言いながら口を手で押さえる仕草までする。
本当、最悪な人だ。この人。
いくらイケメンでも初対面でこの態度はありえないと思う!
「いやな匂いがする家にまでわざわざごあいさつしてくださり、どうもありがとうございました! お母さんにも言っておきますので! ではさようなら!」
もう話すこともなく、顔を見ないまま深く頭を下げて私は玄関の扉を閉める。
扉一枚向こうからは「あーあ、兄ちゃんはどうして女の子にはそんな態度取っちゃうのかなぁ。せっかくおとなりさんかわいい子だったのに」という弟の声が聞こえてきた。
「か、かわいい……? む、無視、無視。もう
顔を赤くしたまま、ふんっと鼻息をあらくして家の中へと入って行く。
あいさつの
「やった。成功!」
長い時間をかけて出来上がったお菓子を見た
今だってそうだ。
さっき引っ
ご
「さっきのインターホン誰だったの? あら、この洗剤なに?」
兄の方に押し付けられた紙袋を発見したお母さんは、中に入っているのが洗濯洗剤だと知ると、瞳がうれしそうにかがやいた。
「引っ越してきた相良っていうおとなりさんから。男兄弟二人で来てたよ。お父さんは仕事だって。お母さんは……わかんないけど」
さっきのできごとをかんたんに説明した。
だってもうあんな
「そういえば、二階のベランダから引っ越しのトラックが見えてたわねぇ。たしかにお母さんの姿が見えなかったけれど、いらっしゃらないのかしら」
兄弟で引っ越しのあいさつに来ること自体、めずらしい。
しかも、兄は明らかに年上という
「もしかして、ワケありのお
私が今、頭の中で考えていたことをお母さんがズバッとストレートに口にした。
こういうところ、私とお母さんはとても似ていて親子だなぁっとよく感じる。
「杏、あなた、このシュークリーム、おとなりさんにおすそ分けしてあげなさい」
「はっ? なんでせっかく作ったシュークリームを……!」
冷めたシュー生地に、キッチンの明かりの下でピカピカに光るカスタードクリームを
「こんなに大きいシュークリーム、二つも食べちゃったら絶対に太っちゃうわよ。それに、もしかしたらお母さんがいらっしゃるかもしれないじゃない。これからお付き合いがあるのなら、顔を合わせた方がいいわよね。お母さんもあとから行くから」
「えぇー……」
「杏、おとなりさんとのお付き合いは大切なのよ。とにかく、行ってらっしゃい。ラッピング用品もたくさんあまっているから、それを使ったらいいわ」
お母さんにそう言われて、しぶしぶシュークリームの六つあるうちの四つを一つ一つていねいに
あっ、お父さんには結局プレゼントできなかったな。
心の中で(うらむのなら今日という日にとなりに引っ越して来た相良家をうらんで)とぼやきながら、ラッピングは完成した。
「行ってきます」とお母さんに伝え、私はスニーカーをはいて家を出る。
私の住んでいる家は、静かな住宅街に
周りには同じような二階建ての一軒家がずらりとならんでいて、となりとのさかい目はあるにはあるけれど、窓を開けたら大きな声を出さなくてもすぐにあいさつができるくらいの距離。
ちなみに
明日に入学式をひかえているというのに、面倒なことになったなというのが正直な感想。
ため息を一つはき、私は引っ越しのトラックがちょうどさって行ったとなりの相良家へと向かう。
「これわたしたらすぐに帰ろ……」
自分にそう言い聞かせ、そっとインターホンを鳴らす。
するとすぐに足音が鳴り、
「父ちゃん、お帰りー、早かったね……て、あれ? さっきの女の子?」
私を仕事から帰ってきた父親とまちがえたのは、弟の方だった。
笑っていた顔は、すぐにキョトンとした顔になる。
「わ、私でごめんなさい……。あの、これ、作ったんだけど……。おすそ分け」
なんだか申し訳なくなってしまって、あやまりながらラッピングしたシュークリームをわたす。
ちょっとさびしそうになっていた弟の表情はシュークリームを見ると、
「おぉ、手作りだ! 兄ちゃん、見てみろよ、手作りのお菓子もらった! ありがとー、すげーうれしい……あっ、キミの名前は?」
ラッピング袋をしっかりとにぎりしめたまま、弟は私との
その勢いに負けて、私はまだだった自己
「杏……、城崎 杏です」
「杏ちゃんかー。顔もかわいかったら名前もかわいいね。俺、相良
「近い、お前は他人との距離が近過ぎるんだって。はなれろっていつも言ってるだろ」
元気いっぱいに自己紹介をしてくれていた間、隼介の顔が近すぎていつここに来たのか全く気付かなかった。
兄の涼真が隼介のすぐうしろに立っていたんだ。
隼介の向こう側から現れた涼真は、やはりそこにいるだけで存在感がある。
弟の隼介も、クラスの中でもトップになれるくらいのイケメンだと思う。
短く
顔のパーツも兄のおさないバージョンって感じで、どこからどう見てもイケメンだ。
隼介も涼真も二人の持つ雰囲気は、今まで見てきた中学生の男子なんかと全然
「ほら、兄ちゃんもお礼言わないと。せっかく持って来てくれたんだから」
「はっ? わざわざあいさつのお返し? しかも甘いもんじゃん」
それでも、こんな言い方をされればいくらイケメンでも頭に血が上るくらいカチンとくる。
「まーたそんな言い方をする。いいじゃん、シュークリーム。母ちゃん大好物だったし」
「隼介、もうそれ以上しゃべんな。これどーも。ありがたくイタダキマス」
本当、弟とくらべると愛想がないなと思う。
「もう兄ちゃん、
「へっ? ど、どうぞ?」
そう言うなり、隼介はシュークリームを一つ、ラッピング袋を勢いよく開けて取り出す。
涼真から「
そして大きな口を開けて、ガブッとほお張り、口周りにクッキー生地をつけながらモグモグと食べている。
その顔は心から喜んでいて、とてもうれしそう。
部活をしている
「そんなにほお張ったらのど、つまるぞ。ったく、しょうがないヤツ。待ってろ、水持ってくる」
隼介の行動に
その慣れた行動に、
「ウマッ!!」
ぼうっと涼真の後ろ姿を見ていたら、私のすぐそばで耳の
「杏ちゃん、これ、めっちゃウマいよ! なにこれ、本当に杏ちゃんが作ったの!?」
「そ、そうだけど……。なに? うたがってるの?」
やっぱりお
でも隼介は首を横にブンブンと
しかも、私の目を真っ
「ヤバい。杏ちゃん、俺の好みドストライクだ」
「……はっ?」
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