となりのキミに恋したら/りぃ

第1話「イケメン兄弟が引っ越してきた!」①

 その日は春らしいポカポカと暖かい気温がはだここよく、深呼吸をしたくなるくらいの気持ちのいい日。

 私は家の窓を開けて外の空気を取り入れ、思い切り深呼吸をした。


 しろさき あん。十五歳。


 この春、家の近くにある私立の高校一年生になる。

 身長も体重も平均であり、頭も平均なら運動神経も平均値まっしぐら。

 でも、中学時代からの親友でもあるあんざき が言うには、

「みがけば光る顔をしているのにもったいない! まさに残念女子!」

 ということみたい。


 真美の観察力は日々、人ごみの中からイケメンを見つけるという特技を持っているくらいだから、多分しんらいできると思う。

 そして、そうを持ってリビングを掃除しようとしていたお母さんから、いつもの言葉が聞こえてきた。


「もう杏ったら。またそんな地味な服を着てるの?」

「だって動きやすい服装が一番なんだもん」


 今の私の服はながそでのグレー色のTシャツにデニム姿。

 Tシャツのグレー色だって、休日に必ずするしゆであるお作りで袖がよごれてもいいようにという色だ。


 でも、身に着けているエプロンは、いちごがらふちには真っ白なフリルが付いている。

 これはお母さんに「せめてエプロンくらいかわいいのを着てちょうだい!」とお願いされて、去年の誕生日プレゼントにわたされたものだったりする。


 誕プレでもらったものを着ないわけにもいかないから、しかたなく着ているって感じ。

 ただ、そろそろこのエプロンも苺色がうすれてしまうくらい汚れてきた。

 お菓子作りは昔から大好きだ。

 学校でいやなことがあった時や、人間関係になやんでいた時でもお菓子を作っている間は嫌なことを忘れられる。

 でも、基本的なステータスが女っぽくないのに、お菓子作りが趣味だなんて周りにはずかしくて言えなくて、家族と親友の真美以外にはないしよにしている。


「今日はなにを作ろうかなー?」

 ごげんになって、リビングのソファに座りながらタブレットたんまつさわり、レシピサイトをけんさくする。


「あっ、新しいレシピがこうしんされているじゃん! これにしようっと」

 見つけたのは、〝サクうま! かんたんクッキーシュークリーム〟で〝かんたん〟というキーワードにかれて、画面をスライドさせている指を止めた。

 それにおづかいのほとんどをお菓子の材料や調理道具にあてているから、材料に困ることはないんだ。

「よし、これに決めた!」

 テンションが高くなり、自然とにやけてくる顔のまま私はキッチンに向かう。

 掃除機をかけ終えたお母さんがキッチンにやってきて、「今度はなにを作るの~?」とあきれ半分で聞いてきても、スルーしてストックだなから材料を取り出し、デジタルスケールで分量を量り始めた。


 そうすると、あっという間に時間はっていく。

 まず、表面になるクッキーを作り、次にカスタードクリームをなべに火をかけながら夢中になって作っていく。

 そして、最後にシュー生地をていねいに作り上げ、クッキー生地と一緒にオーブンで焼いたら、もう家じゅう甘いにおいでいっぱいになっていた。


「あらぁ、すごい匂い。お外のせんたくものまで移っちゃうわね」

 そう言いながらも、お母さんはうれしそうに笑っている。

 会社のゴルフの接待で今日は家にいないお父さんの分を一つ夜に残しておいて、残りの五つは私とお母さんのおやつにしよう。


 一緒に飲むのはミルクティーがいいかな?

 それとも、シュークリームが甘いからあっさりしたストレートティー?

 そんな気分で胸の中をワクワクさせていると、インターホンが鳴った。

「お客様? 杏、出てくれない? お母さん、洗濯物を取りこんじゃうから」

「はーい」


 休日にだれだろう?

 宅配便かなにかかな?

 いつものように、何気なく私は家のげんかんとびらを開ける。

 そこには、今まで見たことがないくらいキラキラとかがやいた、今日の空の天気にも負けないくらいのさわやかな二人の男の子が立っていたんだ。


「ど、どちらさま……?」

 イケメンなんて見慣れていないどころか、男子とロクにしゃべったこともない私は引きつった顔をしたまま、目の前にいるとつぜん現れたイケメン二人に声をかける。


 すると、並んでいるがおが明るい方のクリクリとした大きな目を輝かせた男の子が大きな口を開け、人なつっこい笑顔をりまいてきた。

「兄ちゃん、やっぱりここだよ、甘い匂いの正体! スッゲーいい匂いー」

「やめろ、恥ずかしい」

 そして「兄ちゃん」と呼ばれた人は、言葉の勢いのまま前に出てきた弟の服のえり首を右手でつかみ、動きをおさえている。


「な、な、なに……? あなたたち……」

 完全にドン引き状態の私に気付いたのか、弟は後頭部を左手でかき、笑ってごまかしている。

 そして「兄ちゃん」の方が、左手に持っていた洗濯せんざいが二箱入ったかみぶくろを私の前にさし出した。


「えーっと、となりに引っ越して来た相良さがらというもんです。どうぞよろしく。あっ、これ仕事に行ってるおやから。どうぞって」

 そう言いながら、洗剤二箱を私に押し付けるようにわたす。

 そして、その容姿にも目を見張るくらいおどろいてしまった。

 ……なんてきれいな顔をしているんだろう、この人。


 たいしてセットもしていなさそうなかみなのに、サラサラの黒色の髪と切れ長のひとみの色は同じ色をしていて、長いまつ毛にすうっと通った鼻筋と整い過ぎているくちびるの形と、まるでとうのようなきれいなはだ


 うん、真美が見たら、絶対興奮してめちゃくちゃはしゃぐような顔をしてるなって思った。

「ありがとうござい……ます」

「ねぇ、もしかしてなんか作ってんの? キミんの窓からね、朝からずっと甘い匂いしてたの。俺、気になっちゃって」

 ニコッと笑いながら、平気できよをつめてくる弟。

 私はいきおいよくうしろにのけ反ってしまった。


「つ、作って……たけど……。あっ、匂いおとなりまで届いてた!?」

「全然だいじよう! いい匂いしてるねって言ってたんだ。それにキミ、エプロン似合うね、かわいい!」

「俺、甘い匂いきらいなんだけど」

「あー、兄ちゃんの言うことは気にしないでね」


 家じゅうにじゆうまんしている甘い匂いにいやそうな顔をしている兄と笑顔がたえない弟。

 なに……この兄弟……

 あからさまにいやな態度をしている兄とずっと笑顔の弟……この二人の性格、全く正反対だ。

 そんな兄のいやがりかたにカチンと腹が立ってしまう。


「甘い匂いきらいだなんて変わってるのねー。変な人!」

「おっ、甘い匂い当たってる? てことはお? すげぇ! お菓子作れるんだ」

「げっ……。マジで」


 そう言いながら口を手で押さえる仕草までする。

 本当、最悪な人だ。この人。

 いくらイケメンでも初対面でこの態度はありえないと思う!

「いやな匂いがする家にまでわざわざごあいさつしてくださり、どうもありがとうございました! お母さんにも言っておきますので! ではさようなら!」

 もう話すこともなく、顔を見ないまま深く頭を下げて私は玄関の扉を閉める。

 扉一枚向こうからは「あーあ、兄ちゃんはどうして女の子にはそんな態度取っちゃうのかなぁ。せっかくおとなりさんかわいい子だったのに」という弟の声が聞こえてきた。

「か、かわいい……? む、無視、無視。もうかかわることもないわよ」

 顔を赤くしたまま、ふんっと鼻息をあらくして家の中へと入って行く。

 あいさつの土産みやげでもらった紙袋をリビングのゆかに置いてから、オーブンを見に行くとちょうどいいころいにシュー生地がふくらんでいた。

「やった。成功!」


 長い時間をかけて出来上がったお菓子を見たしゆんかん、私はとっても幸せな気持ちにつつまれる。

 今だってそうだ。

 さっき引っして来た、イケメンだけど性格が最悪な兄の方にいやな気持ちにさせられたけど、今この瞬間はそんな気持ちはすっかりとぬけている。

 ごげんになってシューをオーブンから取り出してかなあみの上で冷ましていると、お母さんが取り込んだせんたくものかかえて二階から下りてきた。


「さっきのインターホン誰だったの? あら、この洗剤なに?」

 兄の方に押し付けられた紙袋を発見したお母さんは、中に入っているのが洗濯洗剤だと知ると、瞳がうれしそうにかがやいた。

「引っ越してきた相良っていうおとなりさんから。男兄弟二人で来てたよ。お父さんは仕事だって。お母さんは……わかんないけど」

 さっきのできごとをかんたんに説明した。

 だってもうあんなめんどうそうなイケメン兄弟に関わりたくないもの。


「そういえば、二階のベランダから引っ越しのトラックが見えてたわねぇ。たしかにお母さんの姿が見えなかったけれど、いらっしゃらないのかしら」

 兄弟で引っ越しのあいさつに来ること自体、めずらしい。

 しかも、兄は明らかに年上というふんだったけれど、弟にいたっては私とそんなにねんれいは変わらないくらいだった。

「もしかして、ワケありのおうちなのかしら。だから、お母さんがいないのかもね」

 私が今、頭の中で考えていたことをお母さんがズバッとストレートに口にした。

 こういうところ、私とお母さんはとても似ていて親子だなぁっとよく感じる。

「杏、あなた、このシュークリーム、おとなりさんにおすそ分けしてあげなさい」

「はっ? なんでせっかく作ったシュークリームを……!」


 冷めたシュー生地に、キッチンの明かりの下でピカピカに光るカスタードクリームをしぼり袋でたっぷりと入れていると、お母さんがとんでもないことを言い出す。


「こんなに大きいシュークリーム、二つも食べちゃったら絶対に太っちゃうわよ。それに、もしかしたらお母さんがいらっしゃるかもしれないじゃない。これからお付き合いがあるのなら、顔を合わせた方がいいわよね。お母さんもあとから行くから」

「えぇー……」

「杏、おとなりさんとのお付き合いは大切なのよ。とにかく、行ってらっしゃい。ラッピング用品もたくさんあまっているから、それを使ったらいいわ」

 お母さんにそう言われて、しぶしぶシュークリームの六つあるうちの四つを一つ一つていねいにとうめいのラッピングぶくろにつめていく。

 あっ、お父さんには結局プレゼントできなかったな。

 心の中で(うらむのなら今日という日にとなりに引っ越して来た相良家をうらんで)とぼやきながら、ラッピングは完成した。


「行ってきます」とお母さんに伝え、私はスニーカーをはいて家を出る。

 私の住んでいる家は、静かな住宅街にたたずむふつうのいつけんだ。

 周りには同じような二階建ての一軒家がずらりとならんでいて、となりとのさかい目はあるにはあるけれど、窓を開けたら大きな声を出さなくてもすぐにあいさつができるくらいの距離。


 ちなみに明日あしたは私が通う高校の入学式でもある。

 明日に入学式をひかえているというのに、面倒なことになったなというのが正直な感想。

 ため息を一つはき、私は引っ越しのトラックがちょうどさって行ったとなりの相良家へと向かう。

「これわたしたらすぐに帰ろ……」

 自分にそう言い聞かせ、そっとインターホンを鳴らす。

 するとすぐに足音が鳴り、げんかんが開いた。


「父ちゃん、お帰りー、早かったね……て、あれ? さっきの女の子?」

 私を仕事から帰ってきた父親とまちがえたのは、弟の方だった。

 笑っていた顔は、すぐにキョトンとした顔になる。

「わ、私でごめんなさい……。あの、これ、作ったんだけど……。おすそ分け」


 なんだか申し訳なくなってしまって、あやまりながらラッピングしたシュークリームをわたす。

 ちょっとさびしそうになっていた弟の表情はシュークリームを見ると、ひとみの光がもどってきたみたいに明るくなった。

「おぉ、手作りだ! 兄ちゃん、見てみろよ、手作りのお菓子もらった! ありがとー、すげーうれしい……あっ、キミの名前は?」

 ラッピング袋をしっかりとにぎりしめたまま、弟は私とのきよを一気につめてくる。

 その勢いに負けて、私はまだだった自己しようかいを他人の家の玄関で始めてしまった。


「杏……、城崎 杏です」

「杏ちゃんかー。顔もかわいかったら名前もかわいいね。俺、相良 しゆんすけ。隼介って呼んでね。あっ、兄ちゃんの名前はりようね。よろしく!」

「近い、お前は他人との距離が近過ぎるんだって。はなれろっていつも言ってるだろ」

 元気いっぱいに自己紹介をしてくれていた間、隼介の顔が近すぎていつここに来たのか全く気付かなかった。

 兄の涼真が隼介のすぐうしろに立っていたんだ。


 隼介の向こう側から現れた涼真は、やはりそこにいるだけで存在感がある。

 弟の隼介も、クラスの中でもトップになれるくらいのイケメンだと思う。

 短くっているツーブロックのかみがたは隼介らしいさわやかさがあって、人なつっこいがおにとてもにあっている。

 顔のパーツも兄のおさないバージョンって感じで、どこからどう見てもイケメンだ。

 隼介も涼真も二人の持つ雰囲気は、今まで見てきた中学生の男子なんかと全然ちがう。


「ほら、兄ちゃんもお礼言わないと。せっかく持って来てくれたんだから」

「はっ? わざわざあいさつのお返し? しかも甘いもんじゃん」

 それでも、こんな言い方をされればいくらイケメンでも頭に血が上るくらいカチンとくる。

 おこった私がまた言い返そうとしたら、隼介が涼真に怒った表情を見せていた。

「まーたそんな言い方をする。いいじゃん、シュークリーム。母ちゃん大好物だったし」

「隼介、もうそれ以上しゃべんな。これどーも。ありがたくイタダキマス」


 だれが聞いてもわかるくらいの棒読みで礼を言う兄の涼真。

 本当、弟とくらべると愛想がないなと思う。

「もう兄ちゃん、なおによろこべばいいのに。あっ、俺今ここで食ってもいい? 片づけばっかしててちよう腹へってんの! それに杏ちゃんにすぐに食った感想を言いたい!」

「へっ? ど、どうぞ?」

 そう言うなり、隼介はシュークリームを一つ、ラッピング袋を勢いよく開けて取り出す。

 涼真から「ぎようが悪い! せめて座って食べろ」と注意されていたけれど、聞く耳持たずだ。

 そして大きな口を開けて、ガブッとほお張り、口周りにクッキー生地をつけながらモグモグと食べている。


 その顔は心から喜んでいて、とてもうれしそう。

 部活をしているしよくよくおうせいの男子ってこんな感じで食べるんだろうなってかんたんに想像ができちゃうくらい。

「そんなにほお張ったらのど、つまるぞ。ったく、しょうがないヤツ。待ってろ、水持ってくる」

 隼介の行動にあつに取られていたけれど、兄の涼真はこんな弟を見慣れているみたいで、あきれた顔をしたまま隼介のために飲み物を取りに部屋に入って行った。

 その慣れた行動に、めんどうがいいんだなぁと後ろ姿を見ながら感心していた。


「ウマッ!!」

 ぼうっと涼真の後ろ姿を見ていたら、私のすぐそばで耳のまくがやぶれそうなくらいの大きな声で隼介がさけんだ。


「杏ちゃん、これ、めっちゃウマいよ! なにこれ、本当に杏ちゃんが作ったの!?」

「そ、そうだけど……。なに? うたがってるの?」

 やっぱりお作りなんて似合わないと思われているのだろうか? と隼介の言葉に反応してしまう。

 でも隼介は首を横にブンブンとっていて、大きな目をさらに大きくしてかがやかせていた。

 しかも、私の目を真っぐに見て……

「ヤバい。杏ちゃん、俺の好みドストライクだ」

「……はっ?」

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