スキキライ 第2話②
ほぼ強制的に軽音部に入部することになってから、一週間が過ぎた。
今日もなんとか外周と筋トレを終え、
防音設備のあるこの部屋が、ハニワの練習室だ。
「わっ!? 冷た……っ」
ふりかえると、ムダにさわやかな
いつのまに
「鈴は水のほうがいいんだよね。はい、どーぞ」
「……ありがと」
初日こそ「いらない」「
(これくらいなら、いいよね……?)
別に気を許したワケじゃない。今から頭脳労働が
「あ、いい
クールダウンのためか窓を開けた加賀美くんが、いきなり上半身を乗り出した。
気になって、わたしも
「……たぶんチーズケーキじゃないかな。フロマージュ・ブランを使ったやつ」
「フロマージュ? って、なんだっけ?」
「フランス語で『白いチーズ』っていう意味でね、ケーキとかお
「そうなんだ。オレ、食べたことないかも」
「文化祭でウチに来たら食べれるよ。なんなら、今から予約しておく?」
「ぜひお願いします」
加賀美くんが
忘れないようにメモして、あとでちゃんと部長にも話をしておこう。
これは
(部の売り上げにもつながるんだし、別にいいよね)
「………………り、鈴ちゃーん?」
「何? ちょっと待って、もう打ち終わるから」
「ムリ、待てない!」
「へ? ちょっ、わあああああ!?」
カッと目を見開いた加賀美くんが、わたしのケータイに飛びついた。
もっと正確に言えば、ピンクのストラップに。
「これ、スキキライ キュンキュンストラップ!? 厳選なる
「……そ、そうだよ。ずいぶん
このパンダとクマが
その名も、リア
「キュンキュンを持ってるってことは、リア充のほうも持ってるんだよね? もう
「その手には乗らないから! このストラップと一緒に告白すると、永遠にキュンキュンできてリア充になれるって伝説、わたしも知ってるから!」
お
加賀美くんからケータイを
しばらくしてあきらめたのか、加賀美くんがふっと構えを解いた。
「……気になってるよね、
「申し訳なさそうな顔しなくていいよ、白々しい。そんなことより、クールダウンはもう充分だよね。というわけで、一刻も早く曲を完成させましょう」
「えっ、何、ずいぶんはりきってるねー。そんなにオレといるの、イヤ?」
「
「鈴ってば、つーめーたーいー」
加賀美くんは不満げに頰をふくらませるけど、こっちはそれどころじゃない。
親衛隊のみなさんからの視線が、日に日に
(ほかのメンバーも同席してくれたら、また
ライブ前に集中して活動するスタンスらしく、
さらに加賀美くんが曲づくりに入ると、ほかの人たちは自主練習のターンになるらしい。
「……加賀美くんは曲をつくってる間、誰かに相談したくなったりしないの?」
「だから鈴に
「じゃなくて、バンドのメンバーに」
「あいつらには、できあがってからアレンジの相談する感じかな」
「今回もそれじゃダメなの?」
「言ったじゃん、MVPがとりたいって。そしたら、今までと同じじゃ意味がない」
(だったら、曲づくりからメンバーと一緒にやればいいのに)
とくにベースの
わたしなんかよりずっと気が合うだろうし、何より
「……ねえ、どうしてわたし?」
「新曲のテーマが降ってきたとき、鈴じゃなきゃダメだなって思ったから」
いつのまにか、すぐそばまで加賀美くんが近づいてきていた。
彼の
目がそらせずに、わたしは息を押し殺して次の言葉を待った。
そして、ゆっくりと加賀美くんが口を開き──。
「発表します! 今度のテーマは、ずばり『
「無理」
「えっ、
「無理なものは無理。だってわたし、
言いながら、サーッと血の気が引いていくのがわかった。
最悪だ、口がすべった。初恋もまだなんて、絶対からかわれる!
「……今の、本当?」
うつむくわたしに、加賀美くんの落ち着いた声が降ってくる。
(これは……からかわれるんじゃなくて、ひかれた……?)
ヤバイ。だったら逆に、笑いに変えてしまったほうがいいのかもしれない。
「そうだけど?」
「……そっか、そうなんだ……」
(いやいや、そこはノッてよ!)
思わずツッコミを入れたけど、バカにしたような空気は感じられなくて。
さすがの彼も、その手のデリカシーはあったみたいだ。
「じゃあさ、初恋相手はオレにしない?」
前言
わたしは深呼吸し、一気にまくしたてる。
「それこそ無理、絶対無理、何がなんでも無理!」
「フッフッフ……。
(
これまでずっと
まともに話すようになったのも、最近のことだ。
だから、本当にわからない。ノリなのか、悪ふざけなのか……。
彼はどうして、わたしにこだわるんだろう?
(……気にしない、気にしない。文化祭までの
そう自分に言い聞かせて、わたしはキーボードを
<続きは本編でぜひお楽しみください。>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます