スキキライ 第2話①
GW明けの教室は、プールのあとみたいな気だるい空気で満ちていた。
どんよりとした気分とは裏腹に、窓の外は今日も
(ほんと、クジ運ない……)
高二になってはじめての
「……千歌、今日って部活に顔出せそう?」
五限が終わり、わたしはそっと千歌の
「ごめん、ちょっと厳しいかも。球技大会の準備がねー……」
「謝ることないよ! もう来月だもんね。あっ、何か手伝えることあったら言って?」
「鈴ってば~! ホント、なんていい子なの……っ」
「わあ!? ちょ、ちょっと千歌……」
イスの上に
「会えない時間が愛を育てるとも言うし、私たちも
「マジないわー。千歌ちゃーん、それオレへの当てつけ?」
「あれ、蓮くんじゃーん。いたの?」
「いた、いた! 会話にも参加してた! ねっ、鈴ちゃん」
わたしは
「蓮くん、これが答えよ」
千歌がアゴをしゃくり、加賀美くんが後ろをふりかえった。
わたしも
(……あれって、やっぱにらんでるよね……)
クラスでも
ファンクラブでは
「ねえ、もう少し気を配れない?」
千歌が声をひそめ、ジロリと
「それは無理な相談だなぁ。オレが鈴をスキなのは事実だし?
「ハァ? 単に自分の気持ち押しつけてるだけじゃない。本当に鈴のことを思うなら、時と場所を選びなさいって言ってるの」
言い回しこそ
でも、答えはいつも一緒。
「鈴が逃げずにオレのこと見てくれるなら、それでもいいよ」
これじゃあ、いくら声のボリュームを落としても意味がない。
案の定、王子親衛隊の
(思い切って無視しても、結局こうなっちゃうんだよね……)
一向に
終わりの見えない三角形は、担任の先生がSHRをしにやって来るまで続いたのだった。
■□■
また話しかけられる前にと、わたしは逃げるように
部室へと急ぎ足で向かう
『──二年一組、音崎鈴。至急、音楽準備室まで来るように』
機械
声の主は、今年の春に
(なんで呼び出されたんだろう……?)
心当たりはないけど、とりあえず指定された場所へと急いだ。
「はーい、どうぞ」
「失礼します。あの、二年一組の音崎鈴ですけど……──えっ? ええ!?」
ご用はなんですかと聞こうとして、飛びこんできた光景に目を白黒させてしまう。
そこには芽衣子先生と、なぜかジャージ姿の加賀美くんの姿があった。
「待ってたわよ、期待の新入部員!」
イスから立ち上がり、満面の笑みの芽衣子先生に
ヒールを
(ん? この流れって……まさか、新入部員=わたし!?)
どういうことなんだろう。まったく事情が見えない。
チラッと加賀美くんに視線をやると、先生と同じようにうれしそうに笑っていた。
「入部届のほうも
「あ、あの! 入部って、どこにですか?」
「軽音部に決まってるじゃない」
「えっと、わたし、家庭科部に入ってるんですけど……」
「ウチの学校、かけもち禁止じゃないでしょ?」
「そうですね。って、そういう話じゃなくて!」
このままじゃ強制的に入部させられそうで、わたしはとっさに大きな声を出していた。
(どうしよう、
「ねえ、音崎はさ……」
「は、はいっ」
「長いことピアノ習ってたんでしょ? なら、作曲も編曲もかじったことあるわよね」
思いがけない言葉に、反応が
それでもなんとかうなずくと、いきなり
「加賀美と協力して、新曲をつくって! あたしが見る限り、あんたが一番適任なの」
「む、無理です! ピアノ習ってるっていっても、本当に
「あたしが顧問になったからには、今年の文化祭でMVPをとるわよっ」
「そのために、鈴の力を貸してほしいんだ」
「……加賀美くんたちのバンドなら、今のままでもMVPをとれると思います。むしろ、わたしなんかがいたら足をひっぱるだろうし……」
「オレは、鈴がいいんだ」
きっぱりとした、
「鈴じゃなきゃイヤだ。鈴じゃなきゃ、ダメなんだ」
こんなの反則だと思った。
目の前にいるのはいつものチャラ男じゃなく、どこまでも
強い光を放つ
「ウチの部で最もMVPに近いボーカリストがそう言ってるんだけど、どう?」
芽衣子先生に声をかけられ、わたしは
「……わ、わたしは……その……」
まごついていると、芽衣子先生はヒールをカツンと鳴らして加賀美蓮へと向き直った。
「それじゃあ、加賀美! 話は以上だから、外周行っといで」
「
ウインクをひとつ残して、加賀美くんが準備室を出ていく。
その背中を追いかけようとして、今度はわたしの名前が呼ばれる。
「音崎! あんたも入部届を書いたら、ジャージに
「へっ? あの、でも、まだ入部するとは……」
「聞こえないな。なんだって?」
「…………
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