スキキライ 第1話③
新入生
部長の説明に一年生たちの反応も上々で、この分なら放課後は
「さて、本日最後の部になります。お待ちかねの『あの人たち』をお呼びしましょう。逢坂学園が誇る、軽音部の登場です!」
司会の千歌の
それを合図に、ゆっくりとステージの幕が上がっていく。
「──ようこそ、逢坂学園へ」
スポットライトに照らされ、王子ことボーカルの加賀美蓮が
ギターを
ただそこにいるだけで、
「新入生も、
大歓声に包まれながら、ハニワのライブがはじまった。
一曲目は、定番ともいえる『竹取オーバーナイトセンセーション』。
メンバーが
続いては『告白予行練習』という新曲だった。
はじめて
(この音の感じ……。きっとこれも、加賀美蓮が作ったんだろうな)
最後の一音が鳴り、三曲目に入る前にMCがはじまった。
曲のことやバンドメンバー、そして軽音部の活動について紹介されていく。
新入生たちは圧倒されたのか、ほかの部のときのように
代わりに、いつもの『王子親衛隊』の子たちがにぎやかだった。
「こっち! こっち向いて、王子!」
「王子、カッコイイ! 手ふって!」
加賀美蓮を王子と呼ぶ彼女たちの様子は、アイドルの追っかけを見てるみたいだ。
(定期ライブなんかでは、ペンライトもふるらしいけど……)
今日は会も会だし、これでも遠慮したほうなのかもしれない。
当の本人も一度ぺこりと頭を下げたくらいで、ファンの子たちには反応しないでいる。
「──というわけで、次がラストになります」
いつの間にか部活紹介が終わっていた。加賀美蓮の言葉に、メンバーが楽器を構える。
そして次の
『これで終わりね泣かないの』
曲名は言わなかったけど、すぐにわかった。
(『泣キ虫カレシ』だ……!)
未来さんのデビューシングルの、シークレット・トラックに収録されていた曲。
もとからスキだったけど、去年の文化祭で加賀美蓮がうたうのを聴いて以来、耳から離れなくなった。
友だちなのか、
それとも、あいまいな関係なのか。
切ない歌詞には、二人の別れが
(一度でいいから、未来さんがうたってるとこも見てみたかったな)
そう思う反面、この曲は加賀美蓮にぴったりな気もするから不思議だ。
まるで、彼のためにつくられたかのように。
(ああ、また……どうしよう、もう……)
やだな。去年の文化祭でも、彼の歌声で泣いちゃったのに。
指先でぬぐってもぬぐっても
(
暗い体育館の中じゃよく見えないけど、目を
彼の歌声は、
(……実際の加賀美蓮は、ただのチャラ男なのに)
今日は
ギャル男とまでいかなくても、
女の子たちが面と向かって王子なんて呼ぶのも、本人が笑って受け入れてるからだ。
そんなことを考えていると、ステージ上の彼と目があった気がした。
びっくりして、息がつまる。
────そのあとのことは、よく覚えてない。
キーボードが最後の一音を鳴らし、少し
きっとみんな、曲の
わたしも、周りの音に気づいてようやく我に返って手を
興奮さめやらぬ中、加賀美蓮はマイクをスタンドからもぎとった。
もしかしてアンコール? まだうたってくれるの?
みんなが期待にわく中、わたしもドキドキしながらステージを見上げる。
「ごめーん、
体育館中の視線を一身に浴びながら、加賀美蓮がにっこり笑う。
────次の瞬間。
とんでもない言葉を続けた。
「新入生に告ぐ! あそこで目を潤ませてる音崎鈴という名の天使は、オレの彼女になる予定だから、手を出さないよーに。あっ、もちろん
ご
いろんな種類の視線が、
(この男、ホントにサイテー!)
体中の血液が逆流するようなめまいを感じながら、同時に
そう、これは──去年の文化祭とまったく同じだ。
今でこそ加賀美蓮は王子なんて呼ばれてるけど、入学当初は
背もわたしと変わらないくらいだったのに、GWを過ぎた
そうして
同時に、加賀美蓮が……その……何かっていうとわたしを構うようになったのだった。
(あのときも、ステージ上の加賀美蓮と目があったかも? なんて思ったんだよね)
実際のところはわからないけれど、そのあと後夜祭で本人から声をかけられた。
地味なわたしに、なんで学園の王子様が?
不思議に思いながらも、二人で話がしたいという彼にわたしはうなずいてしまっていた。
彼がうたった『泣キ虫カレシ』に感動したばかりだったから。
今にして思えば、これがすべてのはじまりだった。
■□■
「あの、話って何かな……」
「スキだ」
「え?」
「もう返事は決まってるはずさ」
「……ハイ?」
聞き
それまでまともに話したこともなかったのにいきなり告白とか、
身構えるわたしに、加賀美蓮は
「だって、待って、なんで? つきあうとか……」
「スキだ」
「……あ、あのねぇ……だから! ちょっとは話聞いて、バカ──!!」
■□■
手を
そうして千歌が
以来、半ばストーカーのように追いかけ回されている。
高二になってからはクラスが
何より頭が痛いのは、周囲の視線が
男子はそうでもないけど、やっぱり女子は何かとシビアだ。
なんで蓮くんが、あんな地味な子に?
王子ってば、どこがいいわけ?
そんな風に、背後でひそひそと話しているのを何度も聞いたことがある。
だから、わたしのほうが知りたいんだってば!
心当たりなんて、これっぽっちもないんだってば!
彼女たちにそう言えれば、どんなに楽だろう。
「あーあ、ほんとショック……。蓮
「でもまだわかんないじゃん。その『リン先輩』って人から、
新入生まで
ステージ上で千歌たちが
わたしの理想の高校生活が、おだやかな生活が……。
すごいスピードで、どんどん遠ざかっていく。
このとき、気が遠くなりそうなわたしは予想もしなかった。
加賀美蓮と一緒に、もっとにぎやかで騒がしい生活を送ることになるなんて──。
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