小説 千本桜 壱/⿊うさP/WhiteFlame・⼀⽃まる
序幕 千本桜夢現 第一場
満開の桜の下、街中が薄紅色に染まる季節。雲ひとつ無い絶好の花見
木陰に留まる薄汚れた冬の忘れ雪を、溶かすように
「ほんっと春っていいわねぇ……夜桜を
目の前に広がる春ならではの景観を他の花見客と同様に楽しみながら、日本酒の一升瓶を豪快にあおっていた深紅の
その美女の膝枕で心地よさげにうたた寝をしている男が「飲み過ぎ、
その視線の先、周囲の喧騒をよそに春風に舞う桜の花片をまとい、
「……
思わずそうつぶやき、そのまま再び眠りに落ちていく
突然の拍手に、
「やだ
「歌がうまくなったなぁって、素直に感心してんの。春を舞う、桜の歌姫って感じ? ……なかなか絵になってたわよ」
何気ない家族たちの褒め言葉がよほどうれしいのか、
「だって、ほら、本当に綺麗。こんなに沢山の桜の下で歌が歌えるなんて、まるで『夢の世界』みたい」
両の腕を広げ、桜色に染まった春風をその身いっぱいに受け止めながら、
「でもこの感じ……どこかで見たことがあるような?」
目を細め、空に右手を伸ばす姉を、端で眺めていた双子の
「夢の世界って……
一番下の弟の
「言ってた、言ってた。遠い昔の大ーっきな桜の木の話」
「遠い昔の大ーっきな桜……? 何それ、ボクそんなこと言ったかしら」
不思議そうに小首をかしげる
毎年、春が訪れる度にこの桜並木の下で花見をしながら食べたり飲んだり歌ったりすることが、
去年もその前もそうであったように、来年も再来年も、ずっとこうして家族みんなと一緒に日々を重ねていくに違いない。それはとても平凡な幸せだけれど、何ものにも代えがたい大切な日常なのだ。
桜の木々の間からこぼれる暖かな春光が、そんな
「こんな見晴らしのいい場所を、一ヶ月も前から確保してくれた
その横でまるで合わせ鏡のように同じ動作で三色団子を食べる
「でもその
「いくら場所取りで疲れているとはいえ、まったく失礼な男よねぇ。身近な花にも気づきやしない」
そう不満げにぼやくと、
「!」
まさか、その一升瓶を
宴もたけなわと、花見客たちのどんちゃん騒ぎが勢いを増す中、
「そういえばさ~、この辺りに伝わる奇妙な噂、知ってる~?」
酒豪で鳴らした
そんな姉に、
「奇妙な噂って?」
「美しい桜に心を奪われると、どこからか神様が
神様の謡う歌……神隠し……。
「ねえ、
好奇心たっぷりに尋ねる
「神隠しっていうのは……神様にさらわれて、どこかにいなくなっちゃうこと、かな?」
小学六年生になったばかりの
「じゃあ、
「
「だっていないもん」
そういえば上から二番目の姉、
「あの子のことだから、まーたどっかで迷子になってるんれしょ」
無論、
あれは去年の花見の席。同じようにふらっと出かけて、
「
保護色……。
確かに
「あの子、ケータイ忘れてってる。というより、バッグごと置きっ放し! あーあ、もう。ご自慢の一眼レフのカメラも持っていってないってナイんじゃない! いったい何をどう撮るつもりらったのよ!?」
開けっ放しの
問題の
「はあ、もう仕方ない。あたし、ちょっと
「あ、やっぱりボクが捜してくる。
疲労
「ん。そう? なんか悪いわね、
「だって
「はは、違いないわ」
すでに
「じゃあ、行ってくる。
立ち上がったその瞬間、
──あれ。なんで、こんなに急に眠く……。
「まさか
大きなあくびをしてふらつく
「ああ、待って、
「
「え……?」
「…………」
ボクが──ここで迷子になったことがある?
初耳だった。そんなこと、今
「まあ、あんたの場合は、すぐ見つかったんらけどね……」
そう、
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