第二章 カシオレ唐揚げレモンをかけたら 第二話
高嶋君はしょんぼりとスマホをいじり始めていたけれど、アイドルソングっぽいキラキラしたイントロが流れ出すやバッと勢いよく顔を上げた。
「はいはいはーい、これ俺!」
声を
どうやら『アイライブ!』の曲っぽいけど、
てか高嶋君、やたら歌
最初は冷たかった女子たちの視線も、場の
「すごいすごい、好感度がゴキ●リからコバエ程度まで回復したよ」
「それでもコバエ程度なのか……」
私の
「全員好感度どん底、か~ら~の逆転劇! ってのも、ハーレムラブコメの王道だからな」
この
☆★☆
その後は和気あいあいとした空気でみんな、カラオケにおしゃべりに盛り上がっていた。
私は菜々子ちゃんとおしゃべりしたり、バカなことを言う高嶋君に思わずツッコミを入れたりしながら、いつのまにかそれなりに楽しい時間を過ごしていた。
──あの曲がかかるまでは。
カラオケの画面に映ったのは、『Mr.Music』というタイトル。
お、と思った直後、玲奈ちゃんが「瑞姫ちゃん歌って」と
ええええええ!?
「
どうやら私と菜々子ちゃんが話していたのが聞こえていたらしい。
世話好きの玲奈ちゃんは百パーセント好意から曲を入れてくれたみたいだけど、そんな、困るよー!
「いや、私は……」
「みんな注目~。瑞姫ちゃんが歌います!」
玲奈ちゃんの声に、「お~」と
ひー、歌わざるを得ない雰囲気になっちゃってる……!
そうだ、菜々子ちゃんと
そうこうしているうちに、前奏が終わり、Aメロがどんどん進んでいく。だんだんみんなが、あれ……? みたいな表情になってくる。やばい、どうしよう、歌わないと白けちゃうよね。でも……!
想定外の事態に固まってしまった私の手から、不意にマイクが
「ちょっと、この曲は瑞姫ちゃんに……」
「いいだろ、俺もこの曲好きだから、歌いたい」
玲奈ちゃんの目は見ないままそう言い切って、高嶋君は体を
玲奈ちゃんが、いいの? みたいに見つめてきたけど、私がコクコクと
高嶋君は幸福感いっぱいのメロディアスなこの楽曲をとても楽しそうに歌っていたので、いつのまにかみんな笑顔でノリノリになっていた。
そして、曲が終わる
☆★☆
「……ありがとう」
席に戻ってきた高嶋君にお礼を言うと、高嶋君はにやっと笑った。
「貸し一つな」
うう。不本意だけど、助かった……。
「カラオケ苦手なのか?」
「うん、音楽は好きだけど、人前で歌うのは
「ふーん」
「あ、これいいよ。まだ口つけてないから」
歌ってのども
「ほう、頂こう」
高嶋君は
……ん? このオレンジジュース、なんか色がおかしくない?
傾いたグラスの中で、底の方にたまっていた赤色が、みるみるオレンジ色と混ざっていく。
「高嶋君、ちょっと待って……っ」
異常に気付いて声を上げた時には、すでに高嶋君はジュースを一気に飲み干していた。
「……そのジュース、変な味しなかった?」
不安を押し殺しながら
「…………へ?」
間の抜けた声で答えた高嶋君の顔は、真っ赤に染まっていた。
ぎょっとして、空になったグラスに鼻を寄せると、オレンジジュースの
この匂いは知ってる──お母さんが好きでよく家で飲んでる、カシスリキュールの匂い。
高嶋君が飲んだのはきっと、カシスオレンジだったんだ!
どうしてカシオレがこんなところにあるんだろう? 店員さんが
「高嶋君、
な、何!?
高嶋君はつかつかつかと早足で前へ出ると、気持ちよく歌っていた男子からマイクを
「俺には、心に決めた人がいる──」
ビリビリと空気が
「それは、『アイライブ!』の空良ちゃんだ!!」
……いきなりこんなところで何を宣言してるんだよ、高嶋君!
「
とめどなく語られる空良ちゃん賛歌……みんな、高嶋君の熱量に
「どんなに
ゆでダコのように赤面しながら一方的に語り
「俺がいなくなったからって、泣くんじゃねーぞ」
フッと笑ってそう告げるや、ウィンクとともに人差し指の
そして、ポカーンとしている一同を残して、さっさと部屋を出て行ってしまった。
……えーと、つまり歌を聞いて空良ちゃんを思い出し、空良ちゃん愛が高まるあまり、公衆の面前で愛を
ハッと我に返った私は、高嶋君の分も立て
☆★☆
「
カラオケボックスを出て少し行ったところで、大声で歌いながらふらふら進む高嶋君に追いついた。
「高嶋君、もうここ外だから! みんな見てるよ」
通行人の視線に
「『みんな』って誰だよ? そんな言葉は
いきなり説教をされた。話が
「高嶋君、こっちこっち。こっちでちょっと休もう」
とりあえず、電車に乗る前にどこかで酔いを
高嶋君は千鳥足でついてきたけれど、にゃーん、と鳴く
「あの猫……!」
「うん?」
「『アイライブ!』の第八話で空良ちゃんが拾った猫に激似だ……!」
うわ~、どうでもいい。
「あの話は神回だった……
ほんと
でも、飲ませちゃったのは私だしな……。
「この時の
「そういえば、高嶋君って生身の女子苦手でしょ?」
ふと一つの疑問が
「でも、私とは
「……なんでだろうな……?」
酔っぱらっているからだろうか、女子苦手ということも
「……聖は女子っぽくないからじゃないか? なんていうか、
失礼な!
「それに、大和が『仲間』『仲間』
「……いや、仲間じゃないからね」
否定しながらも、そうか……と
そんな風に思ってたから、無理やり歌わされそうになった時、助けてくれたのか。
つくづく残念な人だけど、友達思いのところもあるんだな……。
少し感心しながら、横を歩く高嶋君の顔を見上げていたところ──
「そういや、
いきなりそんなことを
「え?」
「なんかずっと
まさか、今日も体調悪いことに気付かれてるとは。
「薬飲んだから、大丈夫」
いつもみたいにそっけなく答えながら……もしかして、と思い当たった。
高嶋君が席を立つたびにいちいち私の
……いやいや、まさか、それは好意的に
「──聖」
思い上がりを打ち消しつつも、なんだか
「え……?」
「俺……っ」
高嶋君はじっと私の
ただならぬ気配に、なおさら
「……どうしたの?」
必死に内心の
「気持ち悪い。……
口元を押さえながらそんなことを言われ、サーッと血の気が引いた。
「ちょ、ちょっと、こんなところで吐かないでよ!? あと少し行ったら公園のトイレが……」
「無理。出る」
「ああああ、じゃあここ! ここにして!」
もう、
口元を
「大丈夫?……はい、これで口すすいで」
「悪い……」
高嶋君はお茶でうがいをしてから、はあっと大きくため息をついて、
「なんか聖、今日はやけに
ポツリとそんなことを
「まあ──」
私のせいでもあるからね、と続けようとした矢先、
「さては俺に
……は???
呆れ果てる私のことは完全に置いてきぼりで、高嶋君は片手で
「しょーがねえな。
…………捨てて行こうか、こいつ。
<続きは本編でぜひお楽しみください。>
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