第一章 放て! おれのサーチライト 第三話
マスク男は校門とは反対方向に逃げていた。ということは、校舎裏に回り込んで裏門へとでるつもりだろう……。
そう予想して、校舎を反対側から回り込んでしばらく行ったところで、案の定、向こうから走ってくる人影とかち合った。
ハッと息をのみ、足を止めるマスク男……いや、この人は──
「そこまでだ、この悪党!」
「一つ、人より力持ち。二つ、
そこで野田君は足を開いて、
「おれ、推参!」
それにしても動きにキレがありすぎる……人知れず練習していたのかと思うと、なんというか、こみ上げてくるものがあった。
「
これも決め
「やめてー!」
響き
「ピンク……?」
「どういうことだ、聖?」
「どういうつもり?──お父さん」
「……へ……?」
「お父さん……聖の……?」
声を聞いた時からもしやと思って、近距離から見て確信したけど……現実を
「すまない、瑞姫……」
ガクリとうなだれるお父さん。遠目では学校指定のものと思われたジャージは、よく似た別商品のようだ。わざわざ似てるジャージを用意したらしい。
「いくら女子高生が好きでも、
「違う!!」
なぜか感心したように
「私の目的は瑞姫だけだ! 娘の晴れ姿をどうしても
「「…………はあ」」
「
気の
「重度の
「だって、また来月にはフランスだぞ!? 次はいつこんな機会があるか……!」
半泣きですがりついてくるお父さんだけど……ウザい。
「フランス?」
「仕事の関係で、先日まで二年間海外
二人に説明していたら、「瑞姫が
「私は日本が好きなの」
「
「規則は規則だから。それに、キモイ」
「とにかく、娘の
「はうっ……」
「ほんと、信じられない」
「瑞姫……っ」
私の言葉にいちいち身を反らして
「だが……よかったよ。瑞姫は不器用なところがあるから、まだ友達がいないんじゃないかと心配したが……」
そう言って、野田君と高嶋君を見て、
「…………」
思わず返答に詰まっていたら、「はい!」と野田君が大きく
「ピンクは……聖は、おれたちの仲間です」
「そうそう、だから心配しなくていいですよ」
高嶋君も同調する。
「ありがとう。瑞姫を、
がっしりと二人と
……いや、お父さん、私がまだ友達を作れないのは、むしろその二人のせいなんだけど……説明するのも
複雑な気持ちで目の前の光景を
お父さんが潜り込んでるところなんて
サーッと青くなる私の前で、野田君が「
「ここはおれに任せて、あんたは先に行け!」
野田君、それ「死亡フラグ」──アニメとかでそれ言ったキャラは、たいていその後死んじゃう系の
「こら、野田! お前のせいで決勝戦がめちゃくちゃだぞ!」
「でも組織の
「組織!? またお前はわけのわからんことを……マスクをしてる男子を追いかけていたと聞いたが、
……「組織の刺客」じゃなくて「
よっぽど
結局、私は
長いお説教の末、野田君に罰として一週間の放課後のトイレ
何事かと一緒に集まってきていた生徒たちも、またいつもの野田の
「……ごめんね」
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら頭を下げると、野田君はけろりとした顔で「気にすんな」と首を
「身内がつかまったりしたら、お前も
いやいや、相手は野田君だよ。冷静になれ、私。
「大和は
高嶋君がにやっと笑って言う。
「智樹もトイレ掃除手伝えよ」
「げっ」
「私も手伝うから」
思わず声を割り込ませると、二人は目を
「仲間だもんな」
「
☆★☆
バスケの決勝戦は、
内心で平謝りをしていたけれど、幸いクラスメイトたちは「野田だから仕方ない」と
責められずに済んだのは、そもそも決勝まで行けたのは野田君の力によるところが大きいというのもあるだろうな。
でもやっぱり、うちの父のせいで、すみません……。
「ほんっとうに
放課後、トイレ掃除をしながらひたすら
「
真っ
「う、うん……」
なんだろう……今の
首をかしげる私を横に、野田君は
「こんな時間か……じゃあ、おれはこれで。イエロー、ピンク、また明日な!」
それだけ言い残して手早く掃除道具を片付けると、バタバタと下校していく。
──「どこの運動部が
ふと、
野田君が放課後忙しい理由ってなんだろう……?
──「『孝行のしたい時分に親はなし』だ」
……もしかして。ご両親はすでに事故で
「……ねえ、野田君って、放課後、なんの用事があるの?」
のんびりと帰りの準備をしていた高嶋君に思い切って
「……見に行くか?」
高嶋君に連れて行かれたのは、学校から歩いて三十分ほどの場所にある広い川原だった。
オレンジの夕日が、あたり一面を染め上げている。
「あそこ」
高嶋君が指さした先では、
その後に腹筋、背筋、
「……野田君、なにしてるの……?」
「いつか来るであろう地球の危機に備えて、日々トレーニングをしてる」
「…………は?」
高嶋君は真顔だった。
「まさか、このためだけに、運動部の
「ああ。『おれには大切な使命がある』って……雨の日も風の日も欠かさず毎日、自分で作った訓練メニューをストイックにこなしてるんだ」
……なんとまあ……。
「野田君の家族って、元気?」
念のために尋ねると、高嶋君は「は?」と意表をつかれたように目を丸くした。
「おじさんもおばさんもピンピンしてるけど……なんで
「ごめん、なんでもない」
いかんいかん、私もいつのまにかこの人たちの
野田君は
「……体を
「この訓練メニューのメインは……あれだ」
シャドーボクシングを終えたらしい野田君は、今度は川に向き合い、大きく深呼吸をすると、右足を引いて
両手首を合わせて手を開き、体の前から右
そして、両手をゆっくりと後ろに引いていったと思いきや、「破ーっ!」という
ま……まさかあれは……かの
──かめはめ波!?
野田君は、はあっと
どこまでも
「………………残念……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます