第一章 放て! おれのサーチライト 第二話
「おれはこの試合、なんとしても勝ちたい! 勝たなきゃならない! だがおれ一人の力では無理だ。みんなの力を貸してくれー!」
野田君の声が響き、「おー!」とノリのいい男子たちの声があとに続く。
私が転校してきてから一週間が
校庭でサッカー、バスケ。体育館でバレー。
私はバレーを
スポーツ
「いくぞ……バーニングドライブ!」
「みたか! ノーフォームシュート!」
「まだだ、まだ熱が足りない……もっとおれを熱くしてみろおおお!」
やたらと必殺
野田君は時にボールをグーパンチで
「ピンク! 勝ったぞ」
極力
「なんだよー、ぼっちみたいだから話しかけてやってるのに」
「あなたたちが話しかけるからぼっちになってるの!」
いかん、つい応じてしまった。
運動ができる野田君と
そしてそんな二人からしょっちゅうちょっかいを出されることで、私まで同類とみなされて、女子から
視線が合うと、サッと顔を
消しゴムを拾って渡そうとしても、目を合わさないまま「あ、ありがと」とぎこちなく
結果、
ちょっと天然っぽい菜々子ちゃんだけは変わらず接してくれるけど、今日は
「てか、野田君、ジャージは?」
皆神高校は制服自由校だけど、体育の授業用には指定のジャージがあった。
けれど野田君は
「忘れたから、
「体操服が普段着ってのもどうかと思うよ……」
野田君は中学生時代のこの体操服がお気に入りらしく、日常的にこの姿で登校してきていた。外見にこだわりがないにしても、限度ってものがあるよね……。
「動きやすいんだよ」
野田君はあっけらかんと答えたけど、この体操服姿なら、下手すると小学生でも通用しそうだ。今でも赤白
「ピンク、右目の『力』は安定したのか?」
ものもらいが治って眼帯の取れた右目を見て、そんなことを言ってくる野田君。
「安定って、もともと『力』なんてないから」
「
相変わらず話が通じない。
げんなりしていたところ、ふと
スポーツに熱中する生徒、応援に
ざわざわと緑が風に激しく
「どうした、ピンク?」
「……なんか今日、しきりに視線を感じるんだよね」
ただの気のせいかもしれないけど……ずっと、
「そーいや、学校に
高嶋君の言葉に、ぎょっとした。
不審者!? うそ、気持ち悪い……。
と、次の
な、なにごと!?
「大和?」
高嶋君が後を追い、私も思わずついていく。
かなり離れた場所にあった生け
「どうしたんだ?」
「ここで、
怪しい光……? って、もしかしてカメラのフラッシュとか?
本当に不審者が
野田君が難しい顔で
「とうとう『組織』の連中にこの場所を気付かれたか……
また出たよ『組織』……ツッコみたいけどツッコんだら負けだ。
野田君は「仕方ない……あれをやるか」と
「放て! おれのサーチライト!」
やがて、「くっ……」と
「半径十キロ以内のあらゆる
──もう無理。この子、誰かなんとかしてー!
「今日は朝から
「はいはい、がんばってね。じゃ、私はこれで」
これ以上は付き合ってられない、とそそくさとその場を離れて歩き出した時。
ひときわ激しい
え……?
「危ねえ!」
誰かに押し
「……!」
息をのむ私と野田君のすぐ真横に、大きなバスケットゴールが
もし
「……
青ざめながらも先に立ち上がった野田君に手を差し
「……ありが、とう……」
手を取りながら顔を上げたその時、校庭の向こう側からこちらを見つめる、ジャージ姿の赤い
その男子生徒は私と目が合うや、ニヤリと
……なに、あいつ……。
「大和! 聖!」
「ゴ、ゴールが倒れたー!」
「大丈夫か!?」
高嶋君をはじめ、近くにいた生徒や先生たちが集まってきて、すぐに周囲は
どうやらゴールのベース部分に
結果、強風に
こわい。マジこわい。一歩
「……いよいよ、『奴ら』との戦争が始まったってわけか……」
……ぶれないなあ、この子。
☆★☆
「1‐Cファイト!」
「野田ー、決めろーー!」
球技大会はクライマックスを
野田君の
一年生にしてこの
「あの運動神経は半端ないよな。うちの陸上部に……」
「無理無理。どこの運動部が
ほんと
──とはいえ、相手の三年生チームには
やっぱり厳しいか……という空気が
「
野田君の大声が、コートに響き渡る。
「諦めたら、そこで終わりだ。思い出すんだ、あの厳しい練習の日々を! ここまで支えてくれた人々の存在を……!」
……いや、厳しい練習って、せいぜい体育の授業で数回やったくらいでしょ。
「たとえ手足が折れても、
バスケの試合だよね、これ……?
「おれたちは……勝つ!!」
気合いとともに
我に返って行く手をふさぐ選手たちを、軽快なステップと
わあっと
勢いに乗った1‐Cは、そこから連続してゴールを奪い、とうとう敵にあと一点のところまで追いついた。
ほー、すごい。これは優勝も夢じゃない?
「1‐C! 1‐C!」
「野田! 野田!」
さすがに敵も
「……そこだ!」
息をのんで見守る観衆の前で、周囲の様子を
やはりパスか──!? と思いきや、バスケットボールはコート外の
その場にいる全員が呆気にとられる中、黒い
学校指定ジャージに身を包んでいるが、カメラを手にして、顔はマスクで
「
マスク男を追って、バスケットコートを飛び出す野田君……。
──もしかして、例の
校庭の端を
「野田ー!?」
「こら、何をしてる……!」
先生たちの制止の声も完全に無視して、
うなりを上げたサッカーボールはマスク男のお
マスク男は激しく
ですよねー。
野田君もひるまず
進行方向にいた先生の背中を馬飛びして、置かれていたカラーコーンをなぎ
ライン引きを蹴り飛ばして、校庭に白い粉が
「聖、こっちだ」
すぐに意図を理解し、走り出した高嶋君の後を追う。
……まさかとは思うけど……。
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