1.頂点男子とすそ野女子の攻防①
今日は休日で学校はお休み。
でもイチは午前中、バスケ部に出ていて、夕方からホネ会を開くという。フォネツの会を、略してホネ会と呼び出したのはそのメンバーたちだ。
「うわ、イチっ。そんな切り方したら手ぇ切っちゃうよ。こうだよ、こう」
「うるっせえな、蒼。俺はこういう切り方のほうが好きなの」
アイランドカウンターで向かい合って大量の野菜を切っている。イチの危なっかしい手つきに視線を
「おわぎゃっ!」
「切った?」
イチの
「ききき、切ってはないけど……」
イチの前のまな板にはズッキーニの
「もうちょっと
わたしは
「包丁の持ち方はこうだよ。ちゃんと
「あぶねーって蒼! 包丁のそんな近くに指を」
「怖がって遠くを押さえるから、ズッキーニが安定しなくてゆらゆら動いちゃうんだよ。押さえる手の形は軽いグー。こうだよ」
背後にまわり、イチの両手を、野菜を切る定型に形作り、上からわたしの両手で押さえた。
「ちょ、やめ……。こんな近く……密着やばい」
「
「いや、そういう意味じゃ……」
これくらいのことにフォネツのトップが怖がってまったく! イチの
「
「おおおお、おう」
イチは
中学の時は人数も少なかったからわたしひとりでがーっと作っていたけど、高校に入ったら女子まで仲間に加わり、多い時だと十人を超える。
これからも続けるつもりなら、イチにも一人前の戦力になってほしい。
イチはわたしとおなじで早くに父親を
美和ちゃんとはイチのお母さんのことだ。物心ついた時からうちのお母さんが美和とか美和ちゃんと呼ぶから、それで定着してしまった。ちなみにイチはうちのお母さんのことをミミちゃんと呼ぶ。わが母、
どうしてこんなに
それにしてもイチ、身長
「いーい? いくよ? 包丁このまま動かすよ?」
「…………」
固まっているイチにかまわず、イチの手の上から握った包丁をリズミカルに押し出す。
「こうやってすっすっすっ。ね? 難しくないでしょ?」
「わっ。わかったよっ。むずくねえってば。だから
「うん。もうイケる?」
「こんなのぜんぜんひとりで平気だよっ!」
「イチ、危ないから包丁
「別に振り回してねえだろ、これでいいんだな」
「え、違、あ─────っ」
「ぎぃゃああああーっ!!」
……けっきょくイチは人差し指の
「わりーな、蒼」
「いいえー」
大量の食材を
でもあのまま危なっかしい手つきのイチを気にかけながら自分の作業をしていたんじゃ、時間までに
イチのお父さんは料理が得意で器用なほうだったと
顔や性格は似ている。人を巻き込んでやみくもに
イチのお父さんは、今ではすっかり有名になったITベンチャー
時がたったのだ。あの事故から七年。わたしもイチも、こうしておだやかな日常を送れるようになっている。
しゃかりきになってじゃがいもの皮むきをしているわたしの近くで、リラックスした表情でスマホをいじるイチ。イチはたまに顔をあげてこっちを
たとえイチたちのホネ会に、わたしは入ることが不可能だとしても。
できればあの人たちが現れる前に、料理を作り終えて家に帰りたい。今日のステーキメインのメニューじゃ無理だけど。
「よおーっす! イチ、いーいー?」
「入ってこいよー、大和」
「ういーっす」
玄関まで
だめだ、料理が
最後に調理する予定のステーキだけは、できたてにこだわらなくちゃならないから、みんなが来てからのスタートでも仕方がないと思っていた。でも
「わっるいのー、なんだよイチ、手伝えよ。蒼ちゃんひとりでこんだけ料理すんのめちゃ大変じゃんか」
春日部くんはイチの背中をドーンと
「最初はやったんだよ。でも手ぇ切った」
「どんまい」
イチがひらつかせた絆創膏に視線を移すこともなく、春日部くんは口先だけでなぐさめた。
それからすぐ
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