第62話 偵察する事、ドローンの如し
蒲原までの道のりは順調だった。
富士山の横をマウテンバイクで駆け抜け、太平洋にぶつかったら西へ。
蒲原の手前にある富士川は、干ばつの影響で水量がゼロに近く、マウンテンバイクをかついで乾いた川底を歩いた。
道中、今川軍はまったく見当たらない。
油断しきっているのだろう。
日暮れ前に無事蒲原に着き、俺たちは街道から外れた丘の上に茂る森の中に身を潜めた。
ここから蒲原の街が一望出来る。
蒲原の街は鎌倉時代から続く宿場町だけに、それなりに大きい。
左に太平洋。
海岸から少し平地があって、蒲原の街が広がるが、すぐ右側は山だ。
右の山上に蒲原城が見える。
俺の横で香と飯富虎昌がヒソヒソ声で話す。
「兵士がいないわね」
「我らが攻めて来るとは、夢にも思っていないのでしょう」
「領主が倒されたのにノンビリしているわね……」
そう。
この蒲原の領主は、香と恵姉上がクロスボウで倒した蒲原氏徳なのだ。
もしも、蒲原氏徳が生きて逃げ帰っていたら、蒲原の街の抵抗は激しくなっていただろう。
領主を欠いた状態なら、蒲原を攻め取る難易度はぐっと下がる。
香様々、恵姉上様々だ。
「ハル君。偵察しよう。ドローンを出して」
「はい、はい。【上大蔵】!」
俺は【上大蔵】から、香愛用のドローンを取り出した。
【ネット通販『風林火山』】で、三万円で買ったカメラ付きのドローンだ。
香はこのドローンを気に入っていて、躑躅ヶ崎館で良く飛ばして遊んでいる。
研究の息抜きに丁度良いそうだ。
ラジコン感覚なのだろうね。
香が操作するとX字型のドローンは、四つのプロペラを回転させて蒲原の街へ飛んで行った。
香の手元の送信機のモニターにドローンの画像が映し出される。
俺、香、飯富虎昌が送信機のモニターを覗き込む。
上空から見た蒲原の街は、とても穏やかだ。
家からは、炊煙が上がっている。
ああ、もうすぐ日が暮れるな。
「街の様子は、いたって普通だね……。領主の屋敷はどこかな?」
「ハル君、これじゃない?」
「これか……」
モニターには、土塀で囲まれた広い屋敷が映し出された。
ここが蒲原家の屋敷だろう。
香がドローンを上昇させると屋敷の全体がモニターに映る。
飯富虎昌が作戦案を提示してくれた。
「三方が壁で、背後に裏山……。なら、御屋形様と香様は正面から攻めかかり、私が裏山から攻めましょう」
「虎ちゃん。良い作戦だね」
「ありがとうございます!」
香に褒められて飯富虎昌はニコニコしている。
まっ、放置で。
作戦自体は、飯富虎昌の案で良い。
後、気になるのは……。
「香、蒲原城の方を見せてもらえるかな?」
「蒲原城は……えーと……
「北側の山の方だよ。ドローンを移動させて」
「了解」
蒲原城は山城だ。
ここに籠られてしまうと厄介だ。
爆薬は持って来ているが、攻略に時間を掛けたくない。
ドローンが高度を上げて、蒲原の街から北側にある山の方へゆっくり移動する。
送信機モニターの映像に蒲原城が映し出された。
「守備兵はいないな」
「みたいね」
「飯富虎昌! 攻め手を三隊に分けるぞ。正面から領主屋敷を攻める隊、裏山から領主屋敷を攻める隊、そして無人の蒲原城を占拠する隊だ」
「承知しました。蒲原城の方は少数で良いでしょう」
「そうだな。人員の振り分けを頼む」
「ははっ!」
よし!
蒲原の街はいただくぜ!
■作者より
連続掲載はここまでです。
次話以降は、書き上がり次第アップします。
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