第51話 裏切る事、メロディーの如し

 ――本栖城防衛戦、三日目。


 今日は大きな動きがあるはずだ。

 昨晩届いた情報担当の富田郷左衛門の手紙に寄れば、時間は昼頃……。


 今川軍は朝から攻撃を仕掛けてはきたが、手探りをしているような感触だ。


『御屋形様。これは間違いございませんな』


 城壁中央を守る小山田虎満がトランシーバーで話しかけて来た。

 俺は足場城壁の竹束の間から、双眼鏡を覗き答える。


『そうだな。そう思う。本陣からこちらに兵が来ている割には、攻撃に参加していない』


『城壁左の香です。こちらも同じです』


『こちら見張り台の馬場信春。上から見ても、攻撃参加せず後ろに控えている兵が多いです。今日で間違いないかと』


 やはりそうか。

 今日が勝負だな!


 今川軍は、昼過ぎに自分たちの策略が成功すると思っている。

 昼過ぎを待っているのだ。

 それまでは、ゆるゆると形だけ攻撃して、策略が成功したら一気に攻めるつもりだろう。


 それなら……。


『よし! じゃあ、昨夜の打ち合わせ通りに行動しよう。板垣さんは搦め手からめてに移動。横田高松よこた たかとしと渡辺縄は、出発だ!』


『搦め手の横田高松、了解』


『城壁中央、小山田虎満、了解。渡辺殿を出発させます』


 さて、妹の南の献策通りに動かしたぞ。

 後は……待つだけだな。


 俺たちは守備兵をローテーションさせたり、食事をとらせたりしながら、その時を待った。

 トランシーバーに横田高松の報告が入った。


『こちら横田高松。渡辺殿と位置につきました』


『了解。待機せよ』


 トランシーバーから手を離す。

 不安が、そして、弱気が首をもたげる。


 いや、俺たちの作戦はきっと上手く行くはずだ!

 自信を持て!


 すると守備兵たちから、ワッと歓声が上がった。

 遠くの右斜め前、本栖湖から山の方へ延びる道を指さし騒いでいる。

 あの道を進むと身延方面へ抜けられる地元道だ。


「お味方だ!」

「穴山様だ!」


 トランシーバーから、馬場信春の報告が入った。


『三つ花菱の馬印! 穴山信友あなやま のぶとも殿の軍です! 数はおよそ五百!』


 馬場信春の声は、やや緊張している。

 穴山信友は、甲斐国の西南にある河内地方一帯を抑える有力国人だ。

 味方であり、援軍である……はず……。


 だが、穴山軍は、今川軍とは交戦せずに、今川軍に合流してしまった。


「そんな!」

「穴山様はお味方ではないのか?」

「裏切りだ!」


 守備兵が騒ぎ出したな。

 俺は腹から声を出し、なるたけ落ち着いた態度で守備兵に語りかける。


「安心しろ! あれで良いのだ! 安心せい!」


 守備兵がざわつく中、トランシーバーから板垣さんの声が聞こえて来た。


『搦め手の板垣です。搦め手門前に小山田信有おやまだ のぶあり殿兵五百を率いて到着。予想通りの言葉を口にしております。お聞き下さい』


『我ら小山田衆は、今川義元殿にお味方いたす! そもそも武田信虎は、傍若無人に振舞い甲斐国を混乱させた。武田晴信も同じに違いなし!』


 本当にありがとうございました。

 裏切り確定ですね。

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