第41話 出陣する事、嚆矢の如し

 ――三日後。


 躑躅ヶ崎館つつじがさきのやかたの周りに続々と領民兵が集まって来た。

 普段は農作業に従事している連中だから、体格が良い。


 干ばつだが、しっかりと水、食料が、領内に行き届いているせいだろう。

 みんな血色が良く、表情が明るい。


「御屋形様。ご出陣の前にお言葉を」


 板垣さんに促されて、俺は馬上から兵たちに檄を飛ばす。


「みな良く集まってくれた! 駿河の今川家が、攻めて来る! 我らの食料を奪いに来るのだ! だが、心配は無用だ! 我に策アリ! 敵を撃退するぞ!」


「「「「「うおー!」」」」」


「出陣だ!」


 俺は先頭で馬を進める。

 ホントはマウンテンバイクで良かったのだけれど、馬に乗っている方がなんとなく様になるかなっと。


 躑躅ヶ崎館に集まった領民兵は、2500。

 このうち500の兵を俺が率いて、本栖城もとすじょうの増援に向かう。


 残り2000のうち、1600を甘利虎泰が、騎馬中心の400を飯富虎昌が率いる。

 二人は別動隊だ。

 俺とはまったく違う動きをする。


 編成は以下の通り。


 ■本栖城 後詰め 兵500

 大将:武田晴信(俺です!)

 副将:板垣信方

 足軽大将:横田高松よこた たかとし、武田香


 ■別動隊 兵1600

 大将:甘利虎泰


 ■別動隊 兵400

 大将:飯富虎昌

 ※騎兵、マウンテンバイク中心


 ■甲府

 留守居役:駒井高白斎

 情報担当:富田郷左衛門



 俺が率いる兵500は、本栖城に援軍として入るので足軽歩兵が中心だ。

 板垣さんは俺の参謀役なので、横田高松が兵たちを指揮する。

 香は、例の香隊と独自育成した特殊部隊を率いる。


 横田高松は、板垣さんの推薦で今回陣中入りした。

 甲陽五名臣の一人、百戦錬磨の名将だ。


 鑑定結果は、なかなかのものだった。



【横田高松 一芸:乱戦達者】

【乱戦達者:乱戦において非常に力強い能力を発揮し、兵を非常に巧みに指揮する】



 横田高松は、幹部ではないが、気になっていた人物だ。

 高松と書いて『たかとし』と読む。


 元々は近江の甲賀出身だったかな……、滋賀県南部にある甲賀市のあたりだ。

 甲斐国の人間じゃないから、領地を持ってない。

 給料制で使える家臣だから、中央集権を進めたい俺にとっても都合が良い。


 年齢は板垣さんに近いらしく四十歳を過ぎたあたりか。

 白いのが混じった髭を生やして、淡々とした表情で俺に付き従っている。

 乱戦達者なんて一芸を持っている割には、感情の起伏が少なく、淡白な印象だ。


 今回の作戦では、甘利虎泰と飯富虎昌は別動隊を率いて、俺たちとは別行動を取る。

 その分、横田高松の活躍に期待をさせてもらおう。


 500の後詰めは、コンクリートで舗装された道を早いピッチで本栖城へ進む。

 小山田虎満と馬場信春は、本栖城の改造を急ピッチで進め、本栖城~甲府間の道路を整備していた。

 道路状況が良いので、進軍速度は速い。


 さらに、荷物は俺が『蔵』に収納したので、みんな身軽だ。

 荷駄を積んだ馬もいない。

 こりゃ後詰軍の本栖城到着は、敵より相当早いな。


 甲府の留守番役は、駒井高白斎に頼んだ。

 元々文官よりで内政が得意な人物なので、戦働きは正直期待していない。

 俺たちが戦っている間も、領内の面倒を見てくれればそれでよい。


 情報担当の富田郷左衛門も甲府残りだ。

 今回は別動隊が二部隊動く。

 情報のやり取りと連携、そして別動隊が仕掛けるタイミングがカギになる。

 富田郷左衛門は、三ツ者からの情報を精査して、別動隊を指揮する甘利虎泰と飯富虎昌に情報提供をしてもらう。


 こちらの布陣は整った。

 あとは義元の首を取るだけだ。

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