第4話

「小学校にいるでしょうか。」

悲しい現実を目にした俺たちの重い足取りの中、遥さんがぽつりと言う。

「お孫さんは本当に楽しみにしていたらしいから、行ってみる価値はきっとあるよ。」

5分ほど歩くと目的の小学校が見えた。ぐにゃりと歪んだ黒い門の前に1人の男の子が立っていた。鼻をつく匂いと薄黒く霞ががった黄色を纏いながら。

「あのランドセル…。もしやあの子が…。」

「うん。たぶんね…。とりあえず話掛けてみよう。」

「こんにちは。こんなところで何をしているの?」

しゃがみこんで男の子に問いかけてみる。男の子は虚ろな目をしながら口を開く。

「がっこうたのしみ…。ぼくのがっこう…。小学生になるんだ…。あといっかげつ後にがっこうにいけるようになるね…。たのしみだね…。かえるころにはおいしいごはんをよういしてまってるからね…。」

きっとおばあさんと話しながら学校を見ていたのだろう。始まると信じてたありきたりなごく普通の日々を思い浮かべながら。叶わないなんて考えもせずに。

「おばあさんが向こうで待ってるんだけど、一緒に来ない?ずっと誰にも会えなくて寂しかったんじゃない?」

そっとてを差し出してみると、男の子がこちらを向く。

「でも…ぼく…。あしがうごかないの…。」

男の子の足と地面に黒いモヤがかかっていた。

「俺が外してあげるよ。」

そう言いモヤに手をかけようとした瞬間、遥さんが話を割ってくる。

「お待ちください!未来様…!」

「なんだよ。突然。もう決めたことだ。あのおばあさんとこの子を救いたい。」

「しかし…未来様にはもう力が残っていないのをご存知ですよね。どうして貴方はそんなにも人をおもうことを優先してしまうのですか…!」

遥が俺のことを止めたいのは分かる。もう力も残っていない。この2人を助けたら俺は間違いなく消滅するのだろう。だけど俺は…。

「俺は人に創られた“かみさま”なんだ。人が何かを信じて信じて信じきった果てに“かみさま”はうまれる。何年も信じてくれて、俺を存在させてくれた。そんな人間を俺は救いたいんだ。」

遥は無言で俯く。

「お願いだ。もう楽にさせて欲しいんだよ。力ももう残ってなくて、毎日毎日寝るばかりでなにも出来ないのが心苦しいんだ。それに力がないお陰でこんなに大切な遥を忘れてしまったじゃないか。そんなこと俺はもう耐えられないんだよ。」

すると遥は雪のように美しい白い肌に涙を伝わせながら笑ってみせた。

「貴方はいつまでも本当にお優しいお方ですね。この狐城遥、未来様のお仕事を最後まで見届けさせて頂きましょう…!」

遥がそう言った後、俺は男の子の足元に重く陣取るモヤを睨みつけながら男の子を抱きしめる。するとジワジワとモヤが薄くなっていき、男の子がハッとした顔をする。

「おにいさん、ありがとう。」

「さぁ。おばあさんが待ってる。行こう。」

俺たちは足早におばあさんのいる神社に向かった。

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