第3話


おばあさんのお孫さんを探すと言ったはいいがどこに住んでいたのか、全く検討もつかない。手がかりと言えるものはランドセルしか無く、おばあさんから少し借りようとしたのだが相当な執着をしているようで引き剥がすことが出来なかったのだ。ランドセルの色は黒だったから恐らくお孫さんは男の子なのだろう。

「お孫さんは流された家の中にまだ1人で居るのかなぁ。」

「そうかも知れませんね。やはり片端から探すしか無いのでしょうか。しかしあまりにも範囲が広すぎる…。」

「あのおばあさん、相当後悔に縛られていたからそうそう後悔の場かは離れられないはず。一先ずこの周囲を探してみよう。」

そうして俺たちは街へ続く階段を降りた。


津波にのまれてしまった可能性がある男の子を探している、おばあさんが大事にしていたお孫さんだ、という風に聞き込みをして歩き回った。2ヶ月も経ったとはいえ未だ瓦礫は片付いておらず昼夜問わず住民が復興に取り組んでいる。俺たちのように震災で行方不明となってしまった人を探してまわる人も幾人かいて心が痛い。

「どうしてこんなことが起きてしまうんだ…。どうして止められないんだ…!」

涙を押し殺しながらそう呟くと遥さんが肩に手を置きぎゅっと力を入れた。

「未来様、あまり心を浸してはダメですよ。人類が幾年にもわたり超えてきた壁です。今はあのおばあさんだけを救いましょう。それだけでも救える人がいるのですよ。」

遥さんが落ち着いた様子で声を掛けてきた。透き通る優しい声に心が軽くなる。

「悪かった。聞き込みを続けよう。」

聞き込みをはじめて数日目にしてやっとおばあさんらしき人の情報が入った。隣に住んでいたらしい。

「それはもしかしてヨシノさんじゃなかろうかね。6歳の坊ちゃんがいたよ。ヨシノさんは亭主も亡くなってしまって寂しい中でな。1人孫だったもんだから本当に可愛がってたんだ。あの日は地区会の集まりがあってなぁ。俺ぁ用事があって行けなかったんだが…。きっとヨシノさんは行ったんだと思うよ。」

「じゃあもしかしてその帰りに…。」

「だと思うなぁ。あの坊ちゃん4月に入学でなぁ。本当に楽しみにしてたんだ。毎日2人で小学校を見に行ってるって言ってたよ。」

おじさんはそう言うと作業に戻った。俺たちはお礼を告げその場を後にした。


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