第1話

雨音が屋根を規則的に鳴らし続ける中、俺は今日も縁側で昼寝を貪っていた。五月だというのにここ一週間程ずっと薄暗い空からぱらぱらと雨が振り続けている。こんな天気じゃ外に出る気は起こらない。洗濯物も溜まりに溜まって洗濯機からはみ出て来ている。男の一人暮らしなんてこんなものだ。パッと誰が現れて洗濯やら掃除やらしてくれたらいいのに。


《ピンポーン》


そんなくだらない事を考えていたその時、玄関のチャイムが鳴った。一体誰がこんな雨の中 山の上にある家を訪ねて来ると言うのか。聞き間違いであると考え、もう一度眠りにつこうとしたとき、もう一度同じ音が鳴る。


《ピンポーン》


さすがに聞き間違いではない。やっとのことで重い瞼を開け起き上がろうとするとまたチャイムが鳴る。


《ピンポーン ピンポーン ピンポーン》


一向に戸を開けない俺にしびれを切らしたのかしきりに連打される。

「あー!わかったよ、今出るから待てって!こんな日に一体誰なんだよ?」

花柄のすりガラスの引き戸をガラガラと開けると、俺は思わず息を飲んだ。そこにはとんでもないイケメンがタキシードを着て立っていたのだ。細く流れる美しい白髪に見上げる程の高身長、眉はキリッとしていて鼻筋も綺麗に通っている。しかし目が細めだ。にもかかわらずこんなにも美しいと感じる一番の理由はこの人が纏う空気が澄んだ青色で優しい匂いがするからだろう。

「…すか。聞こえておりますか。」

その声でハッとした。なんで俺が男にこんなに取り込まれてしまったのだろうか。慌てて返事をする。

「あぁ、えっと…どちら様ですか?」

男は少し驚いたような顔をした後その美しい眉を戸惑ったような、悲しいような、そんな形にした後、こう言った。

「単刀直入に言いましょう。私をこの家に置いていただけませんか。お願いします。」

開いた口が塞がらないとはこのことを言うのか。俺はただただ驚いて立ち尽くした。家に置く?どういうことだ。一緒に住めと言うのか?大体たった今会った素性も分からないような男と住むだなんて無理な話だ。

「いやいやいや。無理だろ。大体お前誰だよ。」

すると男はハッとした顔をした後微笑んで言う。

「申し遅れました。私 孤城遥と申します。貴方は空条未来様でいらっしゃいますよね。なんでも知っておりますよ。身長は167cm、体重59kg、誕生日は4月の…えっと…たしか23日でしたか。好きな食べ物は牛タンと春雨。嫌いな食べ物はピーマンと随分お可愛らし…」

「わー!なんでそんなことまで知ってんだよ!?怖いわ!!」

思わず止めて入る。なんでそんな詐欺にすら使えないような個人情報を持ってるんだ。こいつは。怪訝な顔で彼を覗き込むとニコニコ微笑んでいる。状況分かってるのか?こいつ…

「私をお家に置いてくださいますか?」

透き通る美しい海色の目でじっとこちらを見る彼に思わず言ってしまう。

「…わかったよ。少しの間だけだぞ。」

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