夢から覚めて

「んぐうう……」


 淳は意識を取り戻した。


 随分と長い間、眠っていたような気分だった。


 突然、頭の中で鈍い痛みが音となって鳴り響きはじめた。


「い、痛ってぇ……」


 淳は咄嗟に後頭部を抑えた。痛みを少し感じるが、出血はしていなかった。


 それからようやく、淳は自分が屋上に侵入したこと、明仁が突然現れたことを思い出した。


 彼はゆっくりと立ち上がると、周りを見回し明仁を探し始めた。


 いつの間にか日が暮れていて、空が真っ赤に染まりつつある。


 屋上には、淳以外に誰もいない。


「あれ?」


 淳は自分の足元に落ちている衣服に気が付いた。よく見ると、それは無理やり四つ折りにされた学生服だった。


 淳のものではない。


 彼の脳裏に、明仁が気を失った自分の頭の下に敷いてくれたのかと、都合のいい考えが一瞬浮かんだ。


 淳は学生服を訝しげに持ち上げた。すると、白い便箋がひらりと落ちた。


 視線が一瞬でその便箋に釘付けになる。


 便箋の中央には、やたら筆圧の強い達筆な字で「夢」と書いてあった。ふと、明仁が硬筆を習っていたことを、淳は思い出す。


 無意識に便箋を拾うと、ポケットに強引に捻じ込んだ。そして、もう一度、周りを見回した。


「おい、明仁!」


 淳の声が、屋上に虚しく響く。


 次の瞬間、淳はなぜだか途轍もなく嫌な予感がした。


 ゴクリと生唾を飲み込むと、彼はゆっくりとフェンスの方へ向かって歩き出した。

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