淳と明仁
淳は、あと数ヶ月程しかいることのないだろう街を、屋上からぼんやりと眺めていた。
何となく忍び込んだ夏休みの学校の屋上。
彼は、京一が来てから起こったことを整理しようと思い出していた。
しかし、考えれば考える程、何が何だか分からなくなっていった。
淳がポケットのラッキーに手を伸ばそうとしたその瞬間、急に背後で扉の開く音がした。
彼が驚いて後ろを向くと、扉の前に明仁が立っていた。
夏だというのに何故か学生服を着ている。
「うわっ! あ、明仁! 何だおめー? 何でここにいるんだよ!」
咄嗟に淳はいつもの喧嘩口調で聞いてしまう。
「……」
明仁は返事をせず、そのまま淳の方へ歩いて来る。
「おい! シカトすんなよ!」
明仁は淳の方まで近づいてくると、そのまま素通りして行こうした。
淳は明仁の肩を掴む。
「あ? なんとか言えよ!」
何も答えない明仁に対して、無性に腹が立ち、殴りたくなる自分を必死で抑えながら、掴んだ明仁の身体を無理やり自分の方へ向ける。
「……何で?」
消え入りそうな小さな声が聞えてきた。
明仁の腕がすっと伸びて来て、淳の両肩を捕まえた。
「あ?」
「何で、僕を、いじめるんだよ? 前は僕ら、友だちだったじゃんかぁああああ!!!」
言葉の最後は絶叫になっていた。
明仁の大きな瞳から、ボロボロと大粒の涙が零れ落ちる。
そして、力いっぱい淳を突き飛ばした。
不意を突かれた淳は、バランスを失いそのまま後ろに激しく倒れ込んだ。
「うわっ!!」
突然淳の視界に雲と青空が現れたと思ったら、今度は鈍い衝撃音が頭の中に響き、雲と青空は一瞬で闇の中へと飲み込まれていった。
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