邂逅

「何だおめー?」


 少年は開口一番にそう言うと、叫びながら走ってきたポニーテールの少女に、冷徹な視線をぶつけた。


「あ、あの……そのウサちゃん……ポシェット……」


 咲子は少年の予想外の冷たい態度に戸惑ってしまい、言葉を詰まらせた。


 一瞬でこの少年を怖い存在と認識した。


「あ? この汚ねぇポシェットおめーのか?」


 少年は、少女の視線が自分の掴んでいるポシェットに向いていることに気が付いたようだ。


「……うん」


 少女はまるでしかられているかのように、下を向いたまま頷いた。


 二人の間に沈黙の時間が静かに流れた。


 太陽はまだ高く、僅かに風が吹いていた。 


「……ほら、もう失くすなよ。サキちゃん」


 少し汚れたウサギのポシェットが彼女の視界に現れ、笑いかけてきた。咲子が顔を上げると、少年はさ

っきとは打って変わって、子供っぽい無邪気な笑顔を向けている。


「ありがとう! あれ? 何で私の名前知ってるの?」


 咲子は目をまんまるくして驚いた。


 少年は笑いながら、咲子の左胸に付けている名札を指差した。


「あー! そっか! でもお兄ちゃん何で私のだって分かったの?」


「そのポシェット、裏返してみな」


 咲子はポシェットを裏返して、ちょっぴり恥ずかしくなった。


 隅っこに震えたカタカナで「サキ」と小さく書かれてあった。


 母親からポシェットをプレゼントされた日に、嬉しくて自分で書いたのを思い出す。


「それから僕の名前は京一。よろしくね」


「よろしく! 京兄ちゃん」


 咲子は笑った。


 さっきまで京一に感じていた恐怖は、不思議と何処かへ消えていた。

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