第69話 魂の力と想いの力 7
一人の少女が夜道を走っている。
向かっている先は町はずれの一軒家。
「お、なんだ今日は女の子がよく走る夜だな。何かあるのか?」
一人の冒険者が声をかけた。
ニコアは少し歩みをゆるめ、声をかけてきた冒険者に視線を向ける。
「あ、あの。よく見かけるとは?」
「さっき君と同じように走っていた女の子がいてね。向こうの方に走っていったけど、なんかすごく急いでいたよ」
向こうは商業地区。
この時間にはほとんどの店が閉まっている。
それでも急いで向かっている先に、何があるのだろうか?
……鍛冶屋? ノックスさんのところ?
嫌な予感がする。
「ありがとうございます!」
私は急いでノックスさんのところに向かい走り出す。
まさかとは思うけど……。
「すいません! 誰かいませんか!」
カウンターの奥から頭だけが見えた。
「誰じゃ?」
「ニコアです! あの、剣は? 紅の剣は今どこに!」
ノックスは立ち上がり、ニコアに向かって話し始めた。
「少し前にが取りに来たぞ。アクトの使いの者ですってな。少し怪我もしていたし、急いでいたようなので、先に剣だけ渡したが? 何かあったのか?」
リリアさん? それともセーラさん?
どちらにしても、剣を必要としている状況には間違いがない。
「ありがとうございます!」
振り返り、店を出ていこうとするニコア。
「待て! ニコアよ、これを持っていけ」
投げ飛ばされたのは鞘。
「これは?」
「紅の剣の鞘じゃ。今完成した。本来は、明日渡す予定だったが、必要になるかもしれん。持っていけ」
「ありがとうございます!」
「その鞘の説明だけしておく。その鞘は――」
ニコアは鞘の説明を聞き、大切そうに抱きしめる。
「わかりました。アクトさんに伝えますね!」
「よろしく頼むぞ。ニコア、お前さんとの付き合いも長い。無茶はするなよ」
無言でうなずき、ニコアは店を後にする。
鞘を抱きかかえ、アクトの待つ家に向かって走り出した。
間に合って、どうか神様、お願いします。
もう、誰も傷つけたくないの。
もうこれ以上、私の大切な人を奪わないで!
ニコアは鞘を抱きかかえながら懸命に走る。
アクトの待つ家に向かって。
――
向かい合い、互いに剣を振るう二人の姿。
少し離れた所からセーラは二人を見ている。
自分の入るスキがない。
きっと、その場に入ってたのなら主様の邪魔をしてしまう。
何もできない自分が嫌になる。
「主様……」
「――トさん!」
聞きなれた声が聞こえてきた。
声のした方に視線を向けるとそこにはニコアさんがこちらに向かって走ってくる。
「アクトさん! セーラさん!」
「ニコアさん! どうしてここに!」
「ごめんなさい、説明は後で! これを、アクトさんに届けないと!」
ニコアの視線がアクトとバイスに移る。
ニコアの目に二人の姿が映し出された。
「バイス……。セーラさん、あの黒剣を持っているのはバイスなの?」
「……はい」
「そう……、バイスなのね」
何かを決意したかのように、ニコアはアクトに向かって走り出した。
「アクトさん! 紅の剣の鞘です!」
アクトの視線がニコアに移る。
「来るな! 来るんじゃない!」
黒剣を避けながらアクトは叫ぶ。
「おねーちゃん! 遅いじゃないですか、待っていましたよ。やっと来てくれましたね!」
バイスはニコアを見ながら黒剣を振りかざしている。
顔はニコアの方を向いているのに、剣はアクトをとらえている。
「ニコア、ここから離れるんだ!」
「おねーちゃん! こっちに来て僕を助けてよ! アクトが僕をいじめるんだよ!」
ニコアはきつい目つきでバイスを見る。
「バイス……。いま、助けてあげる!」
ニコアは鞘を抱きしめたままアクトのそばまで移動し始める。
「来るな!」
「『ダークネスファイア』!」
バイスの手から黒い炎が生み出され、ニコアに向かって放たれた。
「え?」
ニコアの目には向かってくる黒い炎が見える。
「危ない!」
アクトは黒剣を避け、ニコアに向かって走りだした。
そして、ニコアを突き飛ばし、黒い炎はアクトを直撃する。
「ぐあぁぁぁぁ!」
「ちっ、外したか」
「アクトさん!」
地面を転がるアクト、次第に黒い炎は消えていく。
「『ハイヒール!』」
アクトが淡い光に包み込まれ、傷が治っていく。
「ニコア、ここから離れろ。バイスの意識は、もうない……」
「そんな……」
ニコアは今にも泣きそうな表情になり、今にも泣きそうだ。
しかし、次の瞬間その目が変わる。
「アクトさん、この鞘を」
「鞘?」
ニコアはアクトに鞘を渡す。
「でも、今鞘を受け取っても……」
「ノックスさんから伝言を預かっています。この鞘には――」
アクトとニコアが話している中、バイスは二人に向かって黒剣を振りかざしてきた。
「おしゃべりは、そこまでよ!」
アクトはニコアを抱きかかえ、黒剣を避ける。
「主様!」
二人とバイスの間にセーラが割って中に入いった。
包丁を片手に、バイスに向かって威嚇する。
「ここは私が。お二人は早くお話の続きを」
「セーラ、無茶だ!」
セーラが振り返り、微笑みながら話し始める。
「主様。私は主様を守るためにここにいます。どうか、私の願いを聞いてください。私が時間を稼ぎます!」
確固たる決意、その目は真っすぐとバイスに向けられた。
「私が相手です。その剣を当てられるのであれば、当ててみなさい!」
「セーラ! これを!」
アクトは握っていた漆黒のナイフをセーラに向けて投げる。
受け取ったセーラは少し、不思議な表情をする。
「主様?」
アクトはセーラに向かって話し始めた。
「リリア、回避の能力でセーラを守ってくれ! セーラ、時間を稼ぐだけでいい。絶対に無理はするな!」
セーラはリリアのナイフを握りしめ、バイスに向かって歩き始める。
「リリアさん、お願いしますね」
「任せてください! 指一本触れさせませんよ! セーラさんに『回避』付与します!」
セーラはスカートの膝上部分にナイフの切っ先を当て切り裂き、ひざ下部分を地面に落とす。
そして、袖も肩から先を切ってしまった。
「セーラさん、何しているんですか!」
「この方が動きやすいので」
切った袖の部分を使い、髪をポニーテールにする。
「これで、大丈夫ですかね」
バイスがセーラに視線を向ける。
「そんなことをしても結果は同じ。新しい体も来たことだし、少し本気で行きますよ」
バイスが一気にセーラの目の前に移動する。
集中していたセーラもなんとか目が追いつき、ギリギリのところで黒剣を交わした。
「……やはり、スキルか」
「なんとか、なりそうですかね?」
「何とかしないと! 次、来ますよ!」
セーラとリリアのタッグでバイスを迎え撃つ。
時間さえ稼げればいい、すぐに助けに行くからな!
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