第70話 魂の力と想いの力 8
「アクトさん、この鞘を使ってください」
「でも、この鞘をどうしろと?」
ニコアから鞘を受け取り、取りあえず装備する。
「紅の剣は魔法剣です。この鞘は魔法剣の力を増幅させます」
「増幅?」
ニコア曰く、紅の剣は魔法剣で、魔法を剣に付与できるらしい。
付与した状態で鞘に入れると魔法の効果が増幅し、攻撃力が増すと。
ただし、現状紅の剣は魔石が死んでいる。
交換するか、魔力を込めなければならならしい。
「……俺、魔法使えないぞ?」
「そ、そうかもしれませんが」
せっかくよさげな鞘なのに……。
宝の持ち腐れになりそうだ。
少し離れた所では二人が戦闘をしている。
バイスの剣が何度も宙を切り、セーラはその全ての斬撃を紙一重で躱してる。
「そろそろセーラを助けに――」
「バイスを、助けて。お願いします……」
ニコアに瞼に涙が浮かぶ。
「大丈夫、あの黒剣を破壊すればきっと、バイスは元に戻ると思うよ」
バイスと刃を交差させているセーラのいる方に向かってゆっくりと歩き出す。
「待ってください」
エレインが俺に声をかけてきた。
「アクトさん、紅の剣の魔石に魔力を流してもらえませんか?」
「俺の魔力を?」
握った紅の剣には魔石が付いている。
だが真っ黒になっており、魔力を微塵にも感じることはできない。
「でも、この魔石は……」
「リリアさんもセーラさんも私も、アクトさんから魔力をもらいまいました。この紅の剣にもアクトさんの魔力を受け取ってもらえる気がするんです」
確かに武器に魔力を流したことはある。
でも、それはみんなの声が聞こえたから。
それに今の状況で魔力を無駄に放出するのは死につながる。
そんな危険ことは――。
「アクトさん、この子にも何か私たちを同じような何かを感じます。お願いできないでしょうか?」
エレインの声が、俺の心に入ってくるのがわかる。
「……わかった、やってみよう」
少し離れた所では二人が戦っている。
セーラは防戦一方。ただひたすらに躱すことしかできない。
「このっ! ちょこまかと!」
「まだまだです! ほら、こっちですよ!」
セーラもバイスを挑発し、バイスの視線はこっちを見ることはない。
俺はナイフで自分の指先を軽く切り、剣の魔石に自身の血をつける。
しかし、特に変わった様子はない。
やはり、無理だったのか?
しばらく魔石に血をつけ、様子を見る。
「アクトさん……」
エレインが小さな声で話しかけてきた。
「無理、かな?」
「ごめんなさい……。もしかしたらと思ったのですが、本当にごめんなさい……」
死んでしまった魔石を元に戻すなんてことは、俺には――。
――刹那
突然視界がゆがみ、全身の魔力が魔石に流れ始めた。
今までに感じたことのない感覚。
「ぅう、おぁ、あぁぁぁ!」
全身が引き裂かれそうなくらいの感覚。
なんだこれは、いったい何が起きている!
「「アクトさん!」」
エレインとニコアが声をそろえて叫んでいる。
頭にガンガン響く声、そしてこの脱力感。
俺は、これを知っているぞ。
エレインが俺の魔力を根こそぎ持って行った時と似たような感覚。
ただし、今回はそれ以上だ。
俺は地面に倒れ、魔力を吸われ続ける。
握った剣は絶対に離さない……。
次第に魔力の吸われ方が緩やかになってきた。
なんとか、視線を剣に向け状態を確認する。
さっきまで真っ黒だった魔石は真紅の色に輝き始めている。
『んっ……、んー! よく寝たわ。あら、ここは……』
聞きなれない声。
紅の剣が話しているのか?
「アクトさん?」
エレインが心配そうな声で俺に話してくる。
ほのかに光る銀色のリング。
「エレイン、信じてよかったよ。この剣は魂が宿っている」
剣を杖代わりに立ち上がり、魔力の戻った紅の剣を構える。
「紅の剣、俺の声が聞こえるか?」
ほのかに魔石が光る。
『あら? 私の声が届くの?』
「あぁ、聞こえるし、こうして会話もできるぞ」
『そう、起こしてくれてありがとう。助かったわ』
「紅の剣、おまえは魔法剣か?」
『そうよ、私は紅の魔石を埋め込まれた魔法剣。黒の剣に折られるまでは、負けたことなんてなかったわ』
黒の剣?
まさかとは思うが……。
「あそこの黒い剣の事、何か知っているのか?」
突然紅の魔石が光だした。
な、なんだこの光は。
『ここで会ったのも運命かしら? あの剣はよく知っているわ、私を折った剣ですもの。あなたの名前は?』
「俺か? 俺はアクトだ」
『そう、アクトね。あなたに私を振るう権利をあげるわ。その代わり、あの黒い剣を折るのよ』
「折るのか?」
『えぇ、この私が折られたのよ。そっくり返したいの、協力するわよね?』
光り続ける紅の魔石。
この剣の力を借りれば、バイスを助けられるのか……。
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