第68話 魂の力と想いの力 6


「このぉぉぉ!」


 右手に握った漆黒のナイフを振りかざし、黒剣に切りかかる。

剣には当たるが、なかなか破壊することはできない。


「ふっ!」


 バイスの振りかざす黒剣が俺の胸めがけて切りかかってきた。

その剣筋を見極め、ナイフで受け流そうとする。


――キィィン


「しまった!」


 剣を受け流ししようとしたが、左手に持ったナイフがはじかれ、遠くの草むらまで飛んで行ってしまった。


「残念だったなぁ!」


 一本になったナイフで、バイスが振りかぶった剣を受け止める態勢に入る。

もし、力で負けたり、ナイフがもたなかったら……。

そんな事が脳に浮かんでくる。


「アクト様、信じてください! あんな怪しい黒剣に私は負けませんよ!」

「リリア、お前を信じる!」


 振りかざした剣が、振り下ろされ、アクトの握ったナイフをとらえる。


――キィィン


 漆黒のナイフを両手で握り、渾身の力で振り下ろされた黒剣を受け止める。


「負けるかぁぁぁ!」


 態勢は不利。

バイスの体は小さいが剣の重みにリーチもある。

それにこの力、バイスの元々持っている力以上の力で押されている。

このままでは、力負けしてしまう。


「主様!」


 遠くの方からセーラの声が聞こえた。

視線を向けると胸には一本の剣を抱きかかえている。

紅の剣、ニコアのお父さんが使っていた、形見の剣。


「エレイン!」

「はいっ! 『フラッシュ』!」


 突然アクトの体がまばゆい光を放ち、一瞬にして辺りは光に包まれる。


「目が、目がぁぁぁ!」


 バイスは片手で目を抑え、剣を振り回し始めた。

そして、セーラから紅の剣が投げ飛ばされ、宙を舞う。

紅の剣はきれいな放物線を描き、俺の手に握られた。


「思ったよりも軽い……」


 右手に紅の剣、左手にリリアのナイフと持ち替える。

試しに何度か剣を振ってみたが、刀身の大きさと比べかなり軽い。


 バイスが視力を取り戻し、再び俺に向かって剣をふるってくる。

今度は今までと違う。こっちも剣で応戦する。


――カァン キィィン キン カンカンカンカン


 右手の剣と左手のナイフ。

そして、リリアの回避術。


 俺は舞い踊るように黒剣を避け、払い、そして、受け流す。

体が軽い、それに相手の剣筋が見える。


「動きが、変わっただと?」


 間合いを詰めながら、黒剣をめがけ、紅の剣を渾身の力で薙ぎ払う。

そして、紅の剣と漆黒のナイフの連撃。

なんとなくバイスの動きが読め、俺はその動きに対して、先手を打っていく。


――キィン キィン ギギギギギ カンカンカンカン


 アクトの連続攻撃はやまない。

全ての斬撃が黒剣の一か所めがけ放たれている。

同じ場所に何度も何度も何度も。


「ぐぁっ! そんな馬鹿な……。私が、早さで負けている?」

「これで、どうだぁぁぁぁ!」


 バイスが後ずさりしはじめ、一瞬剣をおろした。

アクトはその場から跳躍し、黒剣の一点に向け、ナイフと剣を振り下ろす。


――カァァァァァン


 今までと違った音が響き渡る。

黒の剣に薄っすらとヒビが入っている。


「いける、黒剣にヒビが入った!」


 アクトはさらに追い打ちをかける。

今しかない、ここで連続攻撃して、一気に追い打ちをかける!


「あぁぁぁぁ!」


 アクトは呼吸をするのも忘れるくらい、左右の手に握った剣とナイフを振りかざす。

思ってもみなかったアクトの連続攻撃。


 バイスはすっかり防御態勢に入っている。


「こ、このままでは……」


 アクトはが優勢なのは変わりない。

だが、一瞬。

ほんの一瞬だけアクトは身の危険を感じた。


 何かが起きる?


 連撃をやめ、アクトはバイスから距離を取る。

構えたナイフと剣は下ろさず、常に臨戦態勢を崩さない。


「よい攻撃ですね久々に本気になれそうですよ。ふぅ……、この体はあきらめますか」


 再び黒剣が黒いモヤを出し始め、バイスの目の前で渦を巻き始めた。


「なんだ、あれは……」


 黒いモヤはゆっくりとバイスの体を包み込み、バイスの口へと入っていく。

そして、微動だにしなくなったバイス。


「バイス?」 


 次の瞬間バイスの目が開き、俺に向かって走り出した。

見開いた瞳は黒く、もうバイスの意識はそこにはなかった。


「この体が朽ちようと、お前はこの手で殺す!」

「アクト様!」


 漆黒のナイフが黒く光り、俺を包み始める。


 繰り広げられる剣の乱れうち。

上下左右、そして、突きも放たれる。


――カン カン カン キィィィン


 できるだけ受け流し、躱す。

リリアの能力を借りても、この攻撃は……。


「う、うぉ、こ、これは……」


 アクトは感じる。

今までとは動きが、早さが違う。

どうして突然……。


 バイスの腕に血管が浮き始め、顔もゆがみ始めた。

自分の身体能力を超えているのか?

 

「バイス! やめるんだ! 体がもたないぞ!」

「こいつの意識はもうとっくの昔に無くなっている! 残念だったな!」

「くそっ、やめろ! お前の目的はなんだ! どうしてバイスを!」


 斬撃がやみ、しばし沈黙の時間が流れる?


「目的? ただ私が、生きるために必要なことなんだよ。それ以上でも、それ以下でもない」

「生きる、ため?」

「ま、人間にはわからないさ。さぁ、次の幕で終わりにしよう。こいつの体も持たない、新しい体を探さないとね……」


 黒剣を大きく天に向け、バイスは切っ先を見つめる。


「この一撃を耐えることができたら、お前の勝ちだろう。だが、耐えた者は皆無! 『ダークネスボルト』!」


 天から黒い一筋の雷が黒剣に落ちる。

そして、その雷が黒剣にまとわりつき、黒い稲光を発している。


「魔法剣……」


 黒剣を下ろし、ゆっくりと俺に歩み寄ってくる。


「さぁ、どうする? 何か打つ手はあるか? ないのなら、こちらから行くぞ!」


 あれを受けたら恐らくまずい。

避けるしかないのか!


 黒剣が俺の体に向かってその刃が放たれる。

紙一重で避けたが、避けた場所の服が黒ずんでいる。


「うまくよけるね、それはスキルなのかい?」

「お前に話す必要はない」


 まずい、もしあの剣に触れたら恐らくダメージをもらう。

だが、触れなければ黒剣を折ることはできない。

どうすれば……。


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